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ファーストリテイリングがデジタル戦略を発表、他と何が違うのか「とにかくITエンジニアが足りない」

 ユニクロ、ジーユーなどを手掛けるファーストリテイリングは2015年6月15日、「緊急記者会見」を開き、アクセンチュアとの事業提携に基づく同社の新たなデジタル戦略を発表した。他の流通・小売主要企業の取り組みと、どこが異なるのか。会見後の取材への回答を含めて、これを探る。

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 ファーストリテイリングは2015年6月15日、アクセンチュアとの合弁会社設立を含む事業提携を通じ、新たなデジタル戦略を推進していくと発表した。同社は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」をモットーとしているが、代表取締役会長兼社長の柳井正氏の口からは、「この事業を通じて世界を変えていく」「新しい産業をつくる」「(これは)世界の小売業でやったことがない」といった言葉が飛び出した。

 そこまでいうファーストリテイリングは、何を目指しているのか。柳井氏は、「これまでの小売業は一般に、自社の都合を優先し、顧客を中心には考えてこなかった、消費者の側でのグローバル化とデジタル化の進行に、企業が追いついていない」と説明。同社は、世界中の顧客と双方向でコミュニケーションし、企画から製造、販売、リサイクルまでの一貫体制を生かして、「社員全員」がリアルタイム(同社はあえて「フルタイム」と表現する)でそのニーズに対応。消費者がいつでもどこでも、欲しいものを、すぐに手に入れられるような体験を提供するのだという。

 では、具体的には何をやるのか。執行役員CIOの玉置肇氏は、「具体的なことはこれから決める」とし、やらなければならない活動として、既存のEC(電子販売)におけるメンバーシップを生かした形での、実店舗における顧客の購買履歴や嗜好・ニーズ情報の把握を説明した。このため、実店舗来店者の会員化と、これに基づく既存の意味でのオムニチャネル的な活動が、今回同社の発表したデジタル戦略だと報じたニュース記事が多い。だが、これだけでは、無印計画などの取り組みに追い付こうとしているという話にしかならず、「新しい産業」とは到底言えない。

 少なくともファーストリテイリングは、リアルとバーチャルが完全に融合した世界を目指すとともに、顧客が同社に指図する、さらに同社が(データ分析を通じて)顧客のニーズを予測して商品をつくるといった活動を、本格的に進めようとしているようだ。顧客との接点についても、「ソーシャルリスニング」などの言葉で表わされるような受動的なものではなく、同社と消費者の双方が、能動的に働き掛ける関係を作っていこうとしているようだ。


実店舗の役割が低下するわけではない、リアルとバーチャルの融合で、究極の利便性を追求するという

 顧客との新しい関係を作ろうとする取り組みは、すでにスマホアプリ「UTme!」でもその一端が垣間見える。このアプリは自分でTシャツをデザインし、注文できるというもの。興味深いのは、自分のデザインを出品することもできる点。他のユーザーが購入すれば、報酬が得られる。つまり消費者が商品のデザイナー兼販売者にもなるということで、ここでの消費者のユニクロとの関係は、一般的なオンライン購入者よりも密接だ。

 だが、UTme!のユーザー情報は、現状では他の顧客情報と紐付けられていないと玉置氏は言い、店舗を含めたすべての情報をつなげていきたいとしている。

「すぐに手に入れられる」を追求する

 一方、「顧客が欲しいものをすぐに手に入れられる」ようにするために、サプライチェーン管理システムを在庫管理やPOS、オンライン注文管理とリアルタイムで直結し、生産から購買までのリードタイムを、大幅に短縮する。「1日、2日という単位では、顧客の厳しい要求に応えられない」(玉置氏)。


顧客との双方向コミュニケーションの深化と、生産からリサイクルまで全プロセスの統合がカギだという

 顧客への迅速なデリバリーという観点では、物流も不可欠なポイントだ。

 記者会見のオープニングムービーでは、タブレットを使い、ユニクロ商品に自分でイラストなどを加えてオンライン注文。その際に配送方法として「自転車配送」を選択すると、すぐに配達されるシーンが登場した。

 ファーストリテイリングは2014年10月、大和ハウス工業と共同で、東京都江東区有明に新たな物流拠点を建設し、2016年1月より都内での即日配達を開始すると発表した。この物流拠点は店舗におけるリアルタイムでの販売状況に基づき、欠品を短時間で補充するとともに、個別のオンライン注文に即座に対応することを目的としている。顧客によるカスタマイズに対応するための、加工設備も備えるという。柳井氏は今回の会見で、「有明をバーチャルのフラッグシップストアにしたい」と話した。

デジタルイノベーションへの取り組みに必要なIT人材とは

 今回の発表は、アクセンチュアとの合弁会社を含めた事業提携がメインだ。だが、ファーストリテイリングは、すでに過去15年にわたり、アクセンチュアによるIT構築・運用支援サービスを活用してきたという。では、これまでの2社の関係と根本的に異なる部分はあるのだろうか。

 「(今回の発表は)情報システム子会社をつくるという話ではない」(玉置氏)。合弁会社は、イノベーションのハブとして設立するという。合弁会社のリーダーは、ファーストリテイリングのCTOという位置付けになる。


2社はこれまでと異なり、共同で事業を進める関係になるという

 具体的には、次々に登場する最先端技術を取り込み、これを使って先進的なアプリケーションやサービスを構築、トライアル・アンド・エラーのサイクルを回して、本格展開に値するものをファーストリテイリング本体に提供する役割を果たす。シリコンバレーや上海のスタートアップ企業のノウハウを積極的に活用していきたいといい、アクセンチュアの持つ世界的なネットワークを、これに役立てられるとする。一部は米ウォルマートのWalmart Labsを手本にしている印象も受ける。

 だがこうした活動は、まだ「海のものとも山のものとも分からない」(玉置氏)。費用対効果も必ずしもはっきりしない。そこで、アクセンチュアとは、これまでのような単年契約を超えた協力関係を築くために、合弁会社の設立を決めたという。アクセンチュアは、新会社のために、同社の世界中の拠点から人材を供給するという。

 「エンタープライズの情報システムにくる人と、ビッグデータ、Web、モバイルのエンジニアでは、人材のタイプも異なる。(合弁会社では、)働く環境も、エンタープライズというよりはテクノロジー会社に近いものにしていきたい」(玉置氏)

 ファーストリテイリングは、基幹システムを含めてAmazon Web Servicesを全面採用すると発表している。15日の会見でも、玉置氏は事業のスピードを加速するため、今後の同社におけるITはクラウドがベースになると話している。

 その上で、今回のデジタル戦略を進めるためには、ファーストリテイリング本体におけるITエンジニアの内製化が急務だと強調した。ビジネスに直結するITシステムを完全に内製化し、エンド・ツー・エンドで回していくため、クラウドネイティブなアプリケーションの開発者、Webサービスエンジニア、モバイルアプリケーションエンジニア、データ分析エンジニアなどが大量に必要だとする。

 ファーストリテイリング本体は現在、世界で約200人のITスタッフを雇用している。「これをまず、2016年春までには350人に増やしたい。だが人材を見つけるのは大変。ぜひ記事に書いて助けてほしい」と玉置氏は語った。

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