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プライベートクラウドで共通プラットフォーム化を推進。収益・ブランドを加速する日産自動車のIS/IT戦略「VITESSE」の内幕ITでビジネスを変革。デジタル時代のテクノロジリーダーたち(3)(3/4 ページ)

中期経営計画「日産パワー88」とIT戦略の中期計画「VITESSE(ビテッセ)」に平行して取り組み、収益・ブランドを堅調に伸ばし続けている日産自動車。これを支える同社グローバルIT本部の取り組みを、グローバルIT本部 ITインフラサービス部 部長の木附敏氏に詳しく伺った。

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人をインターフェースに標準化を推進

編集部 ただ、そうしたインフラの標準化を進める上では、開発部門、ひいては業務部門の理解獲得も必要だと思います。先ほど、開発と運用のせめぎ合いというお話も出ましたが、その辺りはどのように調整されてきたのでしょうか?

木附氏 以前はアプリケーション開発部門がインフラも作っており、インフラ用の予算や人も抱えていました。その予算と人をインフラ部門側に巻き取る形で標準化を進めました。開発部門は以前五つあったのですが、私と当時の上司と共に開発部門に押しかけ、開発の各部門でどれほどの人件費とインフラの投資額があるかを調べ、それを集計して、「全部こっちに寄こしてくれれば、今までの半額でITサービスを提供できる」と宣言したのです。

編集部 とはいえ、開発部門から見ればインフラ整備の自由度を制限されるわけです。抵抗されたのでは?

木附氏 そこで最初から抵抗を抑える策を採ることにしました。それまで開発部門でインフラ構築を担当していたメンバーをインフラ部門に迎え入れて、各部門のニーズに即したインフラを提供する「コンシェルジュサービス」を提供することにしたのです。それまで、開発部門にとってインフラ部門は、融通の効かないもの/使いにくいものを押し付けてくる存在だったはずです。一方、インフラ部門も「標準でないものは受け付けない」と開発部門に対して常に頑固に接してきました。

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「チームに他部門のメンバーを迎えてインターフェースとするのは、良いテクニックだと思います」

 しかし、インフラ部門に元開発部門のメンバーが入ることで、開発部門とインフラ部門、双方の事情を理解して、要求をうまく橋渡ししてくれるようになりました。われわれの方でも、開発部門のさまざまな要求に対して対応の優先度を判断しにくい状況でしたが、元開発部門のメンバーが、知見・経験を元に「この要求にはまだ応えなくても大丈夫」といった具合に優先順位を仕分けてくれるようになったため、注力すべき順序がはっきり分かるようになりました。

 チームに他部門のメンバーを迎えて部門間のインターフェースとするのは、良いテクニックだと思います。間に立つ人材はスキルが上がりますし、インフラもアプリケーションも分かるようになる。さらに興味深いのは、こうした取り組みを数年間続けた結果、お互いに理解が進み、不合理な要求がおのずと出てこなくなったことです。標準インフラとそれに合わせたアプリケーション開発が自然と根付き、開発・インフラ部門間の余計な調整が大幅に減ったと思います。

クライアントPCをグローバルで標準化

編集部 一方、クライアントPC環境もグローバルで標準化していますが、これはどのように進められたのですか? クライアント環境となると従業員にとっては日々の業務のインターフェースであるだけに、インフラ標準化以上に推進が難しいように思うのですが。

木附氏 そうですね。こちらは「ACE(Alliance Computing Environment) 1プロジェクト」というプロジェクトを2010年からスタートし、2012年から標準PCの展開を開始して、2014年までに一通り完了させました。もともとはWindows 7へのアップグレードがきっかけとなったのですが、せっかく予算を掛ける以上、より効率的な施策となるようルノーと一緒に取り組んだのです。日産で約12万台、ルノーで約10万台という規模ですから、なかなかやっかいでした。

 具体的には、「Microsoft System Center Configuration Manager(SCCM)」を使って、OSのイメージをグローバルで管理する仕組みとしました。マスターのイメージがルノーにあり、イメージを配信するサーバーがそれにぶらさがっています。国ごとにローカライズされた機能は国ごとに管理しながら、ユーザーのPC全体の変更管理を一元的に行える仕組みとしました。これにより、フレキシビリティを確保しながら管理効率が大幅に向上した他、セキュリティパッチの適用も強制的に行えるなど安全性も向上しました。

編集部 国や地域をまたがる標準化となると、理解を得るのはなかなか難しかったのでしょうね。

木附氏 最初にルノーに乗り込んで1週間のワークショップを行ったときは、さすがに反対意見もありましたね。各国・各社で事情が違う中で、「技術的に正しいことはこうですよね」「セキュリティに責任を持てますか」といった具合に、一つ一つ、コンフリクトを抑えながらコンセンサスを得ていくことは確かに大変な作業でした。

 ただ、そうした作業を進める中でCIO(行徳セルソ氏)の了解が出ると大きな抵抗勢力もなくなり、一気に進みました。標準化はやはりバランスが重要ですね。グローバル標準でできるものと、どうしても犠牲が生じるもの。そこのバランスを考えて適切に対処していかなければいけません。

編集部 標準化というとテクノロジの問題はもちろんですが、それ以外の人的・組織的な調整の方がやはり大変なものなのでしょうね。トップダウンのアプローチだけでも難しいでしょうし、現場を知り尽くしたミドルマネジメントとトップが技術的裏付けを元に歩調を合わせて進めていく必要があるのですね。

木附氏 そうですね。グローバルでの標準化というと先進的なことをやっているようですが、その実、けっこう泥臭いものです。先のプライベートクラウドにしても、取り組みを始めた当初はプライベートクラウドという言葉すら浸透しておらず、われわれも手探りの状態でした。そうした中で「ベンダーロックインから逃れ、ビジネスの推進に必要なものを、自分たちの手で設計・管理できるようにしたい」という思いをもって地道に進めてきた結果が、今の形になっているのです。

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