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国内DevOpsトレンドは、これからが本番特集:国内DevOpsを再定義する(1)

多くの企業の注目を集めながらも、バズワードと見る向きも多かったDevOps。だがそれが誤解であり、その本当の意義に気付いた企業が国内でも急速に増え始めている。今あらためて「DevOps」を探る。

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見直され始めた「本当のDevOps」

 2013年、国内でも大きな話題となったDevOps。当初はスタートアップやWebサービス系企業における取り組み事例から注目され、IT業界の一大トレンドとなった。だが一方で、「開発部門と運用部門が協力する文化」、ChefやPuppetなど「自動化ツールの話」など、さまざまな解釈が生まれ、明確な具体像が見えないまま、2013年終盤には「一種のバズワード」と目されるほどになってしまった。

 しかし今、DevOpsがあらためて見直されている。背景にあるのは、市場環境変化の一層の加速だ。というのも、企業にとって「いかに市場変化に俊敏に対応するか」「スピーディに製品・サービスにニーズを反映するか」が収益・ブランド向上の一大要件となっている。特にB to B、B to Cを問わず、顧客とのコンタクトポイントとなるWeb、モバイルが社会に深く浸透した今、「サービス」の重要性は一層増している。とりわけ、バンキングや保険・証券の販売サイト、情報提供サイトなど、いわゆるSystem of Engagement(以下、SoE)領域に属するシステムは、ニーズに反応する「スピード」がサービスの差別化に不可欠な要素となっている。

 そしてこうしたサービスを展開しているのは、一部のスタートアップやWebサービス系企業だけではない。製造、金融、流通・小売り、通信など、“顧客”が存在するおよそ全ての企業が、Web、モバイルを通じたコンタクトポイントを持っている。場合によってはフロントのサービスを改善するために、いわゆるSystem Of Record(以下、SoR)に属するバックエンドのシステムにもスピーディな機能改変が迫られる場合もあり得る。つまり「いかにスピーディにニーズをくみ取り、サービスに反映するか」という課題は、一般的な従来型企業にとっても一大テーマとなっており、今、DevOpsはその実現手段としてあらためて注目されているのだ。

いつのまにか見失われていた「DevOpsの本質」

 ただ、欧米ではDevOpsを進んで取り入れる企業が増えているものの、国内での理解はまだ十分に浸透しているとは言いにくい。だがDevOpsという言葉の“出自”を振り返ってみると、そこにはDevOpsを正しく理解するポイントがすでに含まれていたことが分かる。

 周知の通り、DevOpsという言葉は2009年、技術書の出版社、オライリーが開催した「Velocity 2009」というイベントで、オンライン写真共有サービスを展開するFlickrのエンジニアが、「開発と運用の協力によって、1日10回以上デプロイできるようになる」ことを紹介したプレゼン中で使われたのが始まりだ。

「Velocity 09: 10+ Deploys Per Day: Dev and Ops Cooperation at Flickr」(YouTube)

 ポイントは、この「1日10回以上デプロイ」にある。無論、ウオーターフォールが中心となってきた国内の開発風土からすると、「非現実的」「それほどのスピードが本当に必要なのか」と見る向きも多かった。だが、サービスの差別化にスピードが不可欠な中では、このポイントは決して非現実的とはいえない。

 近年は市場変化の先を見通しにくく、まさしく「何が当たるか分からない」。よって、差別化といっても「やったことが必ず報われる」わけではない。こうした中で着実に成果を上げるためには、サービス開発にも、小さく始めて市場の反応をうかがいながら継続的に改善するスタンスが求められる。つまり、ニーズの波に追従しながら、R&D的な開発スタンスを採る上では、どうしてもリリースの「スピード」と「頻度」が不可欠となるためだ。

 ではスピードを担保するためにはどうするか。そのためには、ビルド、デプロイ、テスト、リリースという一連のデプロイメントパイプラインを標準化、自動化し、作業ミスや作業品質のバラつきが生じやすい属人的な要素を抑制するとともに、部門間やチーム間で生じがちなツール、環境、プロセスの食い違いをなくすことも求められる。

 何より大きなポイントは、サービス改善は「開発・運用部門の連携」だけで閉じる問題ではないことだろう。ニーズを受けてどのようなサービスを開発・改善するか、リリース後にユーザーからどのような反響があり、それをどうサービスにフィードバックするか――単にリリースが速いだけで、ニーズに応えていないサービスを次から次へと出してしまえば、収益・ブランドに逆効果をもたらしてしまう。着実にチャンスをつかむためには、ビジネス部門や企画部門との連携、また遅延や障害が起こり得る本番環境にリリースした後の安定運用・モニタリングまで含めて、サービスを確実に改善できるフィードバックループを形成する必要があるのだ。

 これまでの国内DevOpsトレンドで見落とされがちだったのは、この点だったのではないだろうか。DevOpsは「サイロ化したプロジェクトにおける開発と運用の連携」という“現場レベルの効率化”に終始するものではない。「開発と運用の連携」はビジネスゴールを達成するための一要素であり、「ツールによる自動化」もその手段の一つだ。また、サービスをR&D的に開発しスピーディに改善する上では、業務部門との連携、ビジネスプロセスとの協調など、組織ぐるみでこれまでのやり方を変える「カルチャーチェンジ」も必要だ。

 つまり、「DevOps」として語られてきたさまざまな要素は、全てがDevOpsの構成要素であるにもかかわらず、その局所的な理解が「DevOps」という言葉とともに独り歩きし、全体像が見落とされてきた――それがこれまでの状況だったのではないだろうか。

DevOpsはこれからが「本番」

 サービスのスピーディな開発・改善に役立つ“真のDevOps”に取り組む環境はますます整いつつある。特にこのトレンドを加速させているのがクラウドだ。ニーズの変化に対応するため開発を迅速化する動きは、これまでもアジャイル開発によって追求されてきた。だが速く開発してもデプロイ先の整備が追いつかないという問題が、クラウドによって解決されている。

 環境整備にしても、コードで構成を管理することで、誰が操作しても同じ構成を再現性をもって瞬時に整備できる「Infrastructure as Code」を実現するOSSや商用ツールによって、開発、テスト、本番、それぞれの環境を手違いなく短時間で整備することが可能となった。OpenStack、Cloud FoundryといったオープンソースのIaaS、PaaS、Dockerなどのコンテナー技術もDevOpsの強力な武器として注目されている。

 一方で、社会一般から注目されているIoTの本格化も、DevOpsに対する企業の取り組みを加速させるといわれている。あらゆるセンサーデバイスから集めた大量データを分析し、スピーディにサービス開発・改善につなげる。このためには、まさしく「迅速にフィードバックループを回す継続的エンジニアリングの仕組み」が不可欠となるためだ。

 特に注目されるのは、各社が新たな可能性を探ってサービスを開発・改善するということは、業界内にとどまらず、他業界にビジネスチャンスを見いだす可能性があるということ――逆に言えば、ライバル視していなかった企業がある日突然、同じ土俵に上ってくるリスクが出てくる、ということだろう。現にグーグルが自動車業界の脅威となり、製造・金融など幅広い事業を展開するGE(ゼネラル・エレクトリック)がクラウド業界のプレーヤーとなるなど、事例も登場し始めている。

 市場変化の速さに加え、IoTによる業界構造が破壊されるほどのインパクトも予測されている中で、どうすれば勝ち抜けるのか? DevOpsはその一つの手段として、企業にとって“当たり前のもの”となりつつあるのだ。

 本特集では、国内DevOpsトレンドをあらためて取材。DevOpsの定義、範囲から、適用領域の考え方、プレーヤーの声まで、幅広く掘り下げ、国内DevOpsを再定義していく。ぜひ参考にしてほしい。

関連特集:今、国内DevOpsを再定義する

2013年から盛り上がりを見せた国内DevOpsトレンド。だがこれを見る立場、観点によって「文化」「自動化」など解釈が拡大し、取り組む企業も限定的だった。だが欧米ではそうしたフェーズはすでに終わり、収益・ブランド・業務効率向上に不可欠な要件となっている。そして今、国内でも再び「DevOps」が注目されている。その理由は何か? 結局DevOpsとは何を指し、何をすることなのか? 今あらためて、国内DevOpsを再定義する。




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