情報サイトのマネタイズの難しさ。その光と影:ものになるモノ、ならないモノ(67)(1/2 ページ)
個人が情報サイトを運営することは今や珍しくないが、マネタイズが実現できているかどうかとなると話は別だ。フリーランスでSEの仕事を続けながら無料ライブ情報サイトを運営する大久保信太郎氏に、サイト運営にかける情熱とPV獲得、マネタイズにまつわる苦労について聞いた。
「あきらめないで志があれば、いつか花開く」
今回取り上げる無料ライブ情報を発信しているサイト「らいなび」を運営する大久保信太郎氏に話を聞いている最中から、このフレーズが脳裏をループしていた。
「らいなび」は、東京、神奈川、埼玉、千葉を中心に関東の無料ライブ情報と無料イベント情報を掲載している。その情報更新量の多さからチームで運営しているものと想像していたのだが、大久保氏一人で運営していることを知って驚いた。
大久保氏は、フリーランスでシステムエンジニアの仕事を続けながら、プライベートな時間を利用して2009年10月から「らいなび」を運営している(前身のmixiコミュニティー「フリーライブへ行こう! 首都圏版」を含む)。今回は、「らいなび」にスポットを当てて、情報サイト運営の実際、ページビュー(PV)獲得の苦労、マネタイズの光と影といった話題について掘り下げてみたい。
最初に結論めいたことを言う。この「らいなび」は現在、収益化を模索している段階であり、ごく少額のアマゾンアソシエイトからの収入を除けば、基本的にお金を生んでいない。だがそれでも、Googleカレンダーを使って情報を配信していたころには月に400本、2014年10月の全面リニューアル後も、一時は月に250本の無料ライブ情報を掲載していたというから驚く他ない。現在は、情報量を減らし月150本程度のペースで運営しているというが、それにしても個人の情報発信量としては多い方だろう。
発信する内容は、テンプレート化したイベントの情報(アーティスト名、日時、場所、アイキャッチ用のジャケ写やYouTube動画の埋め込み)に限定し、コメントなどの文章は盛り込んでいない。ただそれでも、無報酬で元ネタに当たって情報を拾い集める労力を想像すると、何が大久保氏をそこまで駆り立てるのか、と考えてしまう。
筆者の場合、自己表現の場としてブログで文章を発信しているが、読者の多寡には関係なく、発信することそのもので自己欲求を満たしているところがある。もちろん、たくさんのPVがあればうれしいが、一義的な目的は「自己表現」以外の何物でもない。従って、そこに報酬が発生しなくても、やっていける。もちろん、何らかのかたちでお金をいただければそれに越したことはないが……。
一方、大久保氏の行っている情報発信は、ネットの大海に散らばっている無料ライブ情報をひたすら拾い集めてまとめる行為だ。はやりの言葉で「キュレーション」と言えば格好いいが、それで欲求が満たされるのだろうかと思う。筆者には到底理解できない行為だ。
だが、そんな筆者の勝手な思いとは裏腹に大久保氏は「YouTubeなどで音楽は聴くけれどライブに行ったことがない人は多いと思う。そのような人にもライブの醍醐味を経験してほしい。その入り口としてフリーライブは最適」と熱く語る。なるほど、ライブに魅了された大久保氏にとっては、その魅力を一人でも多くの人に伝えることが「自己表現」であり、自己欲求を満たすことにつながっているのだろう。また、情報発信は文章を書けなくてもできる。情報を集め、まとめるだけでもサービスになり得る。「文章が上手ではない私にはこの方法が向いている」とも。
ただ、現在は手動でライブ情報を拾い集めているというが、SEを職業にしているのだから、そのスキルを生かしスクレイピングなどの手法で一部分でも自動化できないものだろうか。それについては「無料ライブ情報を拾い集める先は、ショッピングモールのサイト、アーティストのサイトなど、サイトの構造や掲載方法が多岐にわたるため、自動化は不可能なので断念した」という。
現在、「らいなび」の運営には「月に100時間程度を費やしている」という大久保氏。単純計算して1日に3時間強だが、場合によっては徹夜でサイトを更新することもあるという。発信している情報の内容がイベント情報という保存・蓄積性のないものだけに、イベント当日を過ぎてしまうとほぼ無価値になる。土日に集中しているイベント日時に間に合わせた更新を行わなければならないため、無理をしなければならないこともあるのだ。
そのような状況だけに、「情熱」だけを原動力としてサイトの運営を続けるのは、さすがに「つらいと思うこともある」そうだ。そこで、「マネタイズの仕組みを作りたいと考えるようになった」のだと明かす。それはそうだろう、それだけの労力を費やしているのだから、報酬を得たいと思うのは当然の感情だ。また、サイトの外観や世界観にも立派なメジャー感が漂っているので、ここから何らかのお金を生む仕組みを作らない手はない。だが、冒頭でも説明したように、いまだマネタイズの道が開けてはいない。以下、そのマネタイズに向けた試行錯誤のプロセスをつまびらかにしてみよう。
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