DevOps再入門〜DevOpsが生きる領域、ITILが生きる領域〜:特集:国内DevOpsを再定義する(2)(1/4 ページ)
市場変化の加速を受けて、国内でも今あらためて見直されているDevOps。その本当の意味と適用領域の考え方を、DevOpsに深い知見を持つガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ ITオペレーション担当 マネージング バイス プレジデント 長嶋裕里香氏に聞いた。
競争が激しい市場環境の中で、着実に収益・ブランドを向上させるためには、ニーズに応える「スピード」が不可欠なポイントとなる。特に先を見通しにくい現在は、ITサービスを迅速にリリースし、市場の反応をうかがいながら改善するスタンスが、着実に差別化を図るための重要なポイントとなっている。その手段として、国内でもあらためて注目を集めている「DevOps」だが、その定義や適用領域に対する認識はまだ十分とは言えない。
では結局、DevOpsとは何であり、どのような考え方で取り組めば、成果を獲得できるのだろうか? DevOpsに深い知見を持つ、ガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ ITオペレーション担当 マネージング バイス プレジデント 長嶋裕里香氏に、DevOpsの全体像を聞いた。
今あらためて確認する「DevOps」の定義
編集部 ここ数年、国内でもDevOpsが注目されてきましたが、その取り組みは限定的な状況が続いていたと思います。最大の要因は、一定の定義がなく解釈が曖昧だったために、「具体的に何をすることなのか」が見えにくかったことかと思うのですが、長嶋さんはDevOpsの定義をどのように捉えていますか?
長嶋氏 DevOps自体はさまざまな定義がありますが、ガートナーとしても定義はしています。ただ過去5年ほど、DevOpsという言葉が登場し始めたころから、理解が深まるにつれて、定義が変わりつつあるのも事実です。現在は次のように定義しています。
ITシステムにおける迅速かつリーンな実践を通して、
ITサービスデリバリをより早く実行することに焦点を当てた
ITカルチャーの変革
重要なポイントは三つあります。一つは、DevOpsとは「アプローチ」であり、その取り組み範囲は広く、「単一のテクノロジ」や「単一のやり方」など、確固たるメソドロジがあるわけではないこと。詳しくは後述しますが、複数の要素を組み合わせて、「スピーディに顧客満足度を上げるための取り組みを行うこと」がDevOpsです。もう一つは、人や文化を中心に据えた、開発と運用チームのコラボレーションの改善による、「ITサービスのデリバリのための“新しいアプローチ”」であることです。
私はあえて「新しいアプローチ」であることを強調しています。DevOpsは従来の開発・運用の延長線上にあるものではなく、従来のやり方とは一線を画したスピード、メリットを生み出すためのアプローチだからです。今までの方法を単純に「改善する」ということではなく、「新しい方法」として理解する必要があります。
そして三つ目のポイントは、「なぜDevOpsが生まれたのか」ということです。それは「より早く、安く、満足のいくサービスを作って提供し続けるため」です。では誰のためかと言えば、「ユーザーのため」であり「ビジネスのため」。つまり、DevOpsは開発・運用を効率化するものではなく、あくまでも「顧客やビジネスのため」のものなのです。この大前提を見失ってはいけないのですが、DevOpsの実践において、この点が忘れられがちだったように思います。
例えば、過度な機能、過度な品質を追求してしまう。ビジネスゴールを基に考えれば、そこまでやらなくてもいいことをやってしまう。運用面でもシステムの稼働率を考えれば、品質が高いに越したことはありません。しかし、スピードと品質はトレードオフなので、手間を掛けるほど時間やコストが掛かってしまう。ビジネスゴールから考えれば、品質に掛ける時間・コストを抑えてでも、スピードを重視した方がニーズにかなう場合もあるはずです。
全てはビジネスゴールを基に判断することが重要なのですが、そこがいつしか忘れられてしまう。DevOpsは、ユーザー、ビジネスの視点を持って取り組むものであることを、きちんと認識することが大切です。
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