DevOps再入門〜DevOpsが生きる領域、ITILが生きる領域〜:特集:国内DevOpsを再定義する(2)(4/4 ページ)
市場変化の加速を受けて、国内でも今あらためて見直されているDevOps。その本当の意味と適用領域の考え方を、DevOpsに深い知見を持つガートナー ジャパン リサーチ部門 ITインフラストラクチャ&セキュリティ ITオペレーション担当 マネージング バイス プレジデント 長嶋裕里香氏に聞いた。
SoD、SoIとは、具体的にどのようなシステム?
編集部 先に適用領域の話が出ましたが、SoD、SoIというと、具体的にはどのようなサービスが考えられるでしょうか。
長嶋氏 日本ではまだあまり事例がありませんが、海外では金融、保険、リテールなどで、モバイルアプリケーションを使った各種サービスや、エンゲージメントを高めることを目的とした顧客窓口としての情報サービスなどを提供している例が増えています。
コンシューマー向けのサービスが中心ですが、今後はIoT/ビッグデータのトレンドが本格化する中で、分析結果を基にスピーディにサービスを開発・改善する流れが加速していくと思います。また、今後、デジタルネイティブな世代が従業員の中心を占めるようになってくると、従業員向けのサービス開発・改善にもDevOpsを適用するケースは増えてくると見ています。
編集部 ただ、日本では米国に比べると、DevOpsに対する見方に温度差があるのも事実です。その原因は何だと思いますか?
長嶋氏 DevOpsは「新しいアプローチ」と言いましたが、品質に対する考え方や今までのやり方、これまで使ってきたテクノロジやプロセス、さらにマインドも含めて、変えなければならないものが複数あります。しかし日本企業の場合、一般に変化を好まない傾向があります。特に現在のシステム開発・運用が問題なくできている大企業の場合、これまでの成功体験もあるため、従来のやり方を変えてまで新しい取り組みに乗り出すことに抵抗があるのだと思います。一方、米国の場合、常に新しいことに取り組んでいかないと生き残りにくいビジネス環境があります。こうした文化や環境の違いがあるのではないでしょうか。
また、「スピード」に対する考え方も一つの理由だと思います。日本でDevOpsがうまくいったケースは、スタートアップやコンシューマー分野のWebサービス系の企業が中心です。インターネットを使ってサービスを提供している彼らにとって、DevOpsは必然的な取り組みでしたが、重厚長大なITシステムを使ってきた伝統的な大企業の場合、「それほどのスピードが必要なのか」と懐疑的に見る向きも多かった。これも浸透を阻んだ一因だと思います。
編集部 しかし今後はIoTのトレンドが本格化する中で、分析を基にしたR&D的なサービス開発・改善が当たり前のように行われるようになっていくと見られています。「スピード」に対する考え方も変わってくるかもしれませんね。
長嶋氏 そうですね。日本企業も欧米企業と同じ土俵で戦わざるを得なくなってきていると思います。また、ここ三年ほどで、競争相手だと思っていなかったような企業が同じ土俵に上ってくる例が増えています。例えばアップルが金融業界にとっての、グーグルが自動車業界にとっての脅威となりつつあるように、R&D的にビジネスチャンスを探る動きが活発化している中で、業界構造の破壊が起こりつつあります。
多くの日本企業にとって、これまでテクノロジは省力化や効率化のためのものであって、テクノロジを使って新しいもの作り、提供するということをあまりしてきませんでした。あくまで「システムのためのテクノロジ」であり、「ビジネスのためのテクノロジ」とは認識されていなかった。しかし現在は、テクノロジが脅威にもなればドライバーにもなる時代です。これからスピードを上げていける企業と、足踏みをしてしまう企業で大きな差が生じてくるのではないでしょうか。
編集部 ではDevOpsに取り組むに当たって、最初に踏み出すべき一歩とは何でしょう?
長嶋氏 まずはDevOpsを適用すべき領域を探してみることです。どのような企業でも、作って試してみないと分からないサービスはたくさんあると思います。新しいサービスを開発する上では、大きな投資をして大きな失敗をするより、小さく初めて様子をうかがいながら発展させていく、あるいは違うサービスにチャンスを探るといったやり方の方が合理的です。金融業など、どのシステムにも高度な品質が求められる企業であれば、本業には影響のない領域でサービス開発を試すやり方もあると思います。
ただ、新しいやり方を取り入れるためのカルチャーチェンジなど、人にまつわる部分を変えるのは難しいという現実もあります。そこでコードを読めるサーバー管理者、ネットワークの知識がある開発者など、複数領域の知識・経験を持ったメンバーで小規模なチームを構成し、新しいプロセスを構築していく。その取り組みを徐々に拡大していく方法も有効だと思います。
業種を問わず、どの企業にも重要なシステムがあるのと同じように、開発・改善のスピードが必要なシステムは必ずあるはずです。まずはそれを探して、実際に取り組んでみてはいかがでしょうか。
これまで「文化」「自動化」など局所的な議論が多く、全体像をつかみにくかったDevOps。だが、スピードが不可欠な市場環境と、システムで達成したいビジネスゴールを基に考えれば、迷うこともなくなるのではないだろうか。次回、DevOpsの実践方法をさらに掘り下げていく。
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2013年から盛り上がりを見せた国内DevOpsトレンド。だがこれを見る立場、観点によって「文化」「自動化」など解釈が拡大し、取り組む企業も限定的だった。だが欧米ではそうしたフェーズはすでに終わり、収益・ブランド・業務効率向上に不可欠な要件となっている。そして今、国内でも再び「DevOps」が注目されている。その理由は何か? 結局DevOpsとは何を指し、何をすることなのか? 今あらためて、国内DevOpsを再定義する。
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