努力家エンジニアが才能を花開かせた「Jターン」という選択:宮城は全てに「ちょうどいい」
大都市ほどギスギスしていない。田舎と言われるほど不便でもない。仕事をするにも暮らすにも、全てにおいてちょうどいい「宮城」でITエンジニアとして働くということ。
地方都市で活躍する企業が増えている一方、全体ではいまだ東京に一極集中しているIT業界。そのゆがみは労働環境や生活環境にも影響を及ぼし、そうした日常に疲弊するエンジニアも多いのではないだろうか。なぜ東京でなければいけないのか。地方ではいけないのか。
かつて東京で働き、今はJターンして宮城・仙台で働くITエンジニア、田中遼さんの経験を基に、地方都市で働くことの幸せと将来の可能性を検証する。
紆余(うよ)曲折でたどり着いたIT業界
青森県黒石市出身の田中さん。高校を卒業後、地元ではやりたい仕事が見つからず、東京で土建業の職に就いた。泥まみれになって深夜まで働く田中さんの横を、スーツを着たサラリーマンのグループがほろ酔い気分で歩いていく。その姿を「楽しそうだな」と思いひそかに憧れていた田中さんは、1年間働いてまとまったお金で、プログラミングを学ぼうと専門学校の情報処理科に入学した。
子どものころからPCには慣れ親しんでいたが、プログラムは未経験で、入学当初は飲み込みが悪くタイピングもおぼつかない状況だった。それでも何とか食らいついていくうちに、プログラミングの面白さにはまった。2年間学んで無事卒業し、都内のIT企業に採用され、技術者としてのキャリアの第一歩を踏む……はずだったが、折悪しく開発プロジェクトが終わったばかりでテスト業務に回されてしまう。希望していた仕事ができずもんもんとしていたところ、他のIT企業から誘われ転職。ようやく念願かなってシステム開発に携わることができた。
ところが、憧れの仕事も現実はハードだった。毎日残業で終電を逃すことも多く、床に段ボールを敷いて寝る日が続いた。土建業は肉体的にきつかったが、それ以上に精神的につらいと感じた。残業代をいくら稼いでも使う暇がなく、忙し過ぎて恋人にも振られ、「いいことはなかったです」と振り返る。そんな折、家庭の事情でいったん青森に帰ることになった。
3カ月ほどたち再就職できる状況になったが、田中さんの中から「東京」という選択肢は消えていた。一度東北に戻ると東京との距離が以前よりも遠く感じられ、何よりあの壮絶な通勤ラッシュに戻りたくないという気持ちが強かった。関東以外に選択肢を広げ、一番魅力を感じたのが宮城だった。2013年7月、宮城県仙台市に本社を置くビーフルに入社する。
宮城でやる気に満ちた再出発
ビーフルは主に自治体向けソフトウエアを受託する開発会社。障がい者や介護など総合福祉に関わるシステム開発がメインで、財務会計や庶務事務、過去には電子入札、工事管理システムなども手掛けている。社員は23人で、平均年齢は30代半ば。プロ野球楽天イーグルスやJリーグベガルタ仙台のスポンサーにもなっている。
田中さんは東京での実務経験が実質1年程度だったが、やる気を買われて採用された。現在はプログラマー兼SEとして設計からテストまで一通りに携わり、若手のホープとして会社の期待も大きい。上司は、「成功に導くため、何事にも臆せず自発的に行動していくタイプです」と田中さんを評価する。
都内で働いていたころ、平均睡眠時間3時間という日々の中でも、その合間に勉強して「ORACLE MASTER Gold」や「Java Gold」などの資格を取得していた田中さん。ビーフルに入社してからも意欲的に勉強に励んでいたことから、会社でその頑張りを支援しようと資格取得の費用全額を負担する制度を導入した。現在は国家試験の「データベーススペシャリスト」を取ることを目標にしているという。
一生懸命で人懐っこい性格から先輩社員にかわいがられ、飲み会の幹事をしたりフットサルの大会に参加したりと仕事以外でも積極的だ。「みんなでワイワイするのが好きなんです」と楽しそうに話す。
高給と引き換えに得た「ちょうどいい」暮らし
同社の就業時間は9〜18時が基本。コストを意識した経営的な考えと、生産性を高めて自分の時間に使ってほしいことから、会社の方針として残業を極力減らしている。「開発会社は泊まるのが普通だと思っていたので驚きました」と田中さんは笑う。
残業ばかりだった東京時代に比べて収入は減ったが、お金では買えない時間と心のゆとりを手に入れた。休みの日は陽気に誘われて家の近くを流れる広瀬川のほとりを歩き、夜は「食材王国」といわれる宮城の美味を食べ歩く。夏には会社の先輩と沿岸へ釣りに行き、秋には登山、冬にはスキーやスノボを楽しむ。
一方で宮城は公共交通機関が発達し、通勤時間はドアツードアで30分程度。都内のような満員電車もない。東京と変わらない便利な生活の中で、週末には手の届くところにある地方ならではの楽しみを享受できる。夏は暑過ぎず、冬は雪が少ないという過ごしやすい気候も含め、全てにおいて「ちょうどいい」というのが、田中さんにとっての仙台の印象だ。
ちょうどいい環境で無理なく働けるからこそ、プログラマー、SE、プロジェクトリーダーと段階を踏み、プロジェクトマネジャーとしてプロジェクト全体を見渡す仕事がしたいという目標もできた。30歳の自分を想像してもらうと、「宮城で働いていると思います」と即答する。
宮城のIT業界が持つ多様性
ところで田中さんの再就職地が宮城に落ち着いた一つの要因として、IT産業が都市型産業であることが挙げられる。青森や岩手など、さらに地方になってしまうと就職先が少なく、首都圏のキャリアを生かせるUIJターン先が限られてしまう。東北全体のIT企業の6割、530社が宮城県に集中しているという数字からも明らかだ。
中でも宮城はネットワークやシステム系、業務系エンジニアの企業が多い。金融、流通、防衛システムなど分野はさまざまで、受託中心で安定経営を続ける企業から、自社製品を開発して自ら仕事を作り出す企業、高い技術力を持つチャレンジングな企業もある。
「業種・業態」「分野」「企業の性質」、いずれの選択肢も多いということは、エンジニアがキャリアに合致する企業が見つけやすいということでもある。今までのキャリアを無駄にせずUIJターンしたいと望む人の受け皿として最適だ。一方で県内のIT企業の8割は人材が「大幅に不足」あるいは「やや不足」していると答え、極めて人材不足にある。平成27年10月現在、県内の情報処理・通信技術者の有効求人倍率は「1.93倍」となっている。
キャリアアップにつながる中小企業
14の大学と5つの短大があり、専門学校も集中し「学都」という言葉もある宮城のIT企業が、なぜ人材不足に陥っているのか。その背景には、学生や親の安定志向がある。大企業神話が崩れたとはいえ、やはり名の通る大きな会社に学生は安心感を求め、親もそれを望む。そのため、9割が中小である宮城のIT企業は選択肢になりにくい。しかし、中小企業には大企業にはないメリットがある。
大企業は大型案件に携われる一方、与えられた一つのポジションの仕事を専門的に行うケースが多い。それに比べ、中小企業では上流から下流まで全ての工程に携わり、プロジェクトの全体像を見通した仕事に携わる機会がある。エンドユーザーを直接相手にして、自分の責任で取り回せる仕事も多い。その多くが小規模案件かもしれないが、全ての工程に携わることがキャリアアップにつながるのは間違いない。
首都圏で培った経験、スキルを生かして自立型のキャリアアップを図れるというのが宮城の中小IT企業の魅力だ。しかも、社員数が多く上が詰まっている大企業よりもその機会が回ってくるのが早く、20代のうちから経験を積むこともできる。首都圏で大勢の中にいて埋没しそうになっているエンジニアが、地方へ移住することで一気に人生の展望が開けることもあるだろう。
「日本一起業しやすいまち」での可能性
コスト管理まで含めITの工程全体に関わってプロジェクトを仕切る経験を繰り返していくことで、次第に自信を付け、独立起業する人も多い。530社という企業数が物語っている通りだ。しかも仙台市は現在、「日本一起業しやすいまち」を目指して起業に伴う制度の充実を図っている。将来的に独立したいと考えているITエンジニアにとって、何とも心強い話だ。
独立した人が以前在籍していた会社と良好な関係を築き、相互に協力しながら仕事をしているのも宮城の特長だ。狭い範囲にたくさんの中小企業が集積しているため、IT技術者同士の会社の垣根を越えた付き合いが盛んで、それは同業者取引が約5割あるという数字にも表れている。宮城のIT企業約200社が加盟する一般社団法人宮城県情報サービス産業協会(MISA)では、会員企業が主体的に交流を促進する事業も行っている。
MISAではその他、求職者への情報発信や合同企業説明会、UIJターンによる就業希望者との交流会などの人材確保推進、異業種研究会やビジネスマッチングなどの事業共創に取り組んでいる。親睦で終わりがちな業界団体と違い、「全国で最も活発に活動している事業型のIT業界団体」と担当者も胸を張る。
教育・研修事業の充実度も全国でトップクラスだ。例えば、首都圏でプログラマーとして20代を過ごし、上流工程を経験する機会に恵まれなかったエンジニアが宮城でキャリアアップしようと考えるならば、ITエンジニアとして稼ぐ上で必要なプロジェクトマネジメントやコミュニケーションに関する研修を受けられる。
IT業界を地方から一緒に盛り上げる人材
インタビューの趣旨を説明すると開口一番、「いいですね。みんな宮城に来てほしいです」と話した田中さん。「かつての僕のように東京で疲弊している人に、無理するなと声を掛けたい」といい、「わざわざ東京へ行かずに宮城で働くという選択をする人が増えてくればうれしい。IT業界を地方から盛り上げて、もっと活気のある街にしていければ」と、仲間が増えることを心待ちにしている。
業務、技術、マネジメントのキャリアを積んできた人が、それを生かせる場所が宮城だ。530社もの多種多様な中から、自分に合う企業は必ず見つかる。1月30日には都内でUIJターン希望者向け転職イベントも行われ、その多様性の一端が垣間見られる。地方創生の時代、宮城のIT業界では地方発のビジネスを共に創り出していく人材を待っている。
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