藝大卒イラストレーターが選んだ“都合のいい”働き方とは?:「ライフワーク」と「ライスワーク」の両立
自分探しの旅の末に見つけたのは「フリーのイラストレーターになりたい」という思い。だが、独り立ちするまでには生活の糧となる仕事も必要だ。いつかはフリー専業で働くために、彼女が選んだ“都合のいい”働き方とは――?
好きなことや使命の達成など、人生を通じてやり遂げたいと思う仕事を「ライフワーク」と呼ぶ。それに対して「食べていく」ために携わる仕事のことを「ライスワーク」と呼ぶことがある。生活の糧である米を意味するライスをライフと対比させた言葉遊びだ。
好きなことで一生食べていく、すなわち、ライフワーク=ライスワークにできれば理想的だが、これはなかなか難しい。
今回お話を伺った渡辺はるかさんは、自分探しの末に見つけたライフワークを、ライスワークと両立させながら、段階的にメインの仕事にシフトさせようと頑張っているイラストレーターだ。彼女が選んだ夢の実現への道のりを紹介しよう。
自分の人生に、美術は必要か?
渡辺さんは、東京藝術大学のデザイン科出身。同科の卒業生の多くは、大手広告代理店や建築、インテリアデザインの企業に就職し、デザインの仕事に携わるという。渡辺さんも、順当ならばそうしたキャリアを築いていくはずだった。
学生時代に友人たちとよく交わしていたのが「無人島に行っても絵を描くか」という問い掛けだった。誰にも見てもらえないと分かっていても、果たして創作活動をするのかという、やや哲学的なテーマだ。
「『無人島でも絵を描く』と答える人が、格好いいとされていました。でも、自分はきっと描かないのではないかと感じていました」
渡辺さんは「自分の人生に、美術は必要か?」という根源的な問いの答えを見つけようと、自分探しを始めた。
「海外旅行に行ってみたり、舞台芸術を勉強してみたり、音楽科の学生たちとコラボレーションしてみたりして、情熱を傾けられるものを探そうとしました」
しかしなかなか「コレ!」というものは見つからず、渡辺さんは大学院に進む道を選ぼうとしていた。
しかし、大学院に進むこともやめてしまう。大学3年時に東日本大震災が起き、長期でボランティアに参加する中で、大学院に行ってもモラトリアムな期間を延長するだけではないのか、と考えたからだった。
やっと見つけた「自分」がやりたいこと
大学院に進まず、就職することもなく大学を卒業した渡辺さんは、アルバイトを三つ掛け持ちし、自分探しを続けた。
一つ目は中華レストランのホールスタッフ、二つ目はCM制作会社の受付、そして三つ目はイラストレーターの制作アシスタントだった。
「イラストの世界では、いまだに師匠の技を見て盗むといった職人的な部分が残っていて、どうしても憧れのイラストレーターの仕事を間近で見て学びたいと思っていました。ところが、その方は藝大とは別の美大の学部卒の人しか雇わないと聞いたので、知人のツテを頼ってあるゼミに聴講生として参加させてもらい、そのイラストレーターの事務所でも働けることになりました」
このイラストレーターアシスタントのアルバイトが良い刺激となり、大学で専攻したデザインよりも、イラストを描くことに対して創作意欲をかき立てられることが分かった渡辺さんは、あらためて名門美術学校に通い、さらに勉強したりコネクションを作ったりする方向に軸を移した。数年間の自分探しに決着が付いたのだ。
しかし渡辺さんは、この時期に開催された大学の同窓会には出席しなかった。アルバイト生活の身にコンプレックスを感じて、大手企業に就職した仲間たちに会いに行く気持ちにはなれなかったからだという。
デジタルイラストレーションを学び、仕事に
イラスト制作に焦点を定めた渡辺さんは、デジタルイラストレーションで広告やゲームキャラクターなどを手掛ける制作会社に就職し、週5日フルタイムで働くようになった。雇用形態は契約社員だった。
配属されたのはデジタルイラストレーションを基礎から学べる部署で、上司にも恵まれた。
「この職場で、この先も食べていけると確信できるスキルを身に付けられました。仕事を教えてくれた上司には、今でもとても感謝しています」と、渡辺さんは振り返る。
しかし良いことばかりではなかった。仕事は時間的にハードで、残業は当たり前、休日も課題の制作などで、自由になる時間はほとんどなかった。その状況を事前にある程度は分かっていたので、美術学校も入社前に休学の手続きをした。
さらに手の痺れや目まいなど、体に不調が出たため、「このままで仕事を続けていくのは難しい。何より好きな創作活動ができなくなるのではないか」と怖くなり、在籍1年半ほどで最初の職場を退職することにした。
「美術学校の休学可能期間の上限が近づいていたことも退職理由の一つです」とも付け加えてくれた。
“都合のいい”条件にマッチする仕事があった!
制作会社を退職するに当たって、渡辺さんは次の仕事を探した。
以前と同じような働き方では美術学校への復学や創作活動に支障が出ると考えた彼女が選んだのは、登録型の派遣だった。派遣の働き方は、退職前に前職の同僚に教えてもらったという。
「それまでは、こんな働き方があることを知りませんでした。前職の制作会社にはリクルートスタッフィングの派遣スタッフが多かったので、私もまずはリクルートスタッフィングに登録してみることにしました」
美術学校への復学を第一に考えていた渡辺さんは、「デジタルイラストレーションのスキルを生かせる仕事」で、なおかつ「残業なし」「時短もOK」という“都合のいい”条件を出した。
リクルートスタッフィングから紹介されたのは、モバイルSNSやソーシャルゲームを展開する大手企業での、ゲームキャラクターデザインの仕事だった。条件を全てクリアしている上に、時給も前職以上に高くて驚いたという。
「派遣先は従業員のコンディションを第一に考える社風で、少しでも体調が悪いと、上司が『休め』と言ってくれます。仕事中の休憩も好きなタイミングで取れるし、正直、環境が良すぎる! と思います(笑)」
時間に余裕ができたため、美術学校に復学し、さらにトレーニングジムにも通い始めた。自分の作品を描く創作活動にも、より多くの時間を使えるようになった。本当に好きなことをトコトン追い求めるために、派遣という働き方を有効に活用しているのである。
渡辺さんにとって、同じイラスト制作でも、オリジナルの創作活動は「ライフワーク」、オーダーに応えてゲームキャラクターをデザインする仕事は「ライスワーク」という位置付けだ。
派遣で働くようになって3〜4カ月が過ぎたころ、再び大学の同窓会があり、思い切って出席してみたという渡辺さん。すると、好きなことを仕事にしようと夢を追いかけている彼女のことを、うらやましがる人もいた。
「大手企業では先輩や上司のサポート業が大半で、自分のクリエイティビティを発揮する機会が少ない、仕事に追われてプライベートもままならない、という声がありました。そんな人は、激務で体を壊してしまうぐらいなら、ちょっと休憩のつもりで派遣という働き方を経験してみるのもいいのでは、と思います」
初の個展開催。さらなる目標も見え始める
渡辺さんは2016年2月に、初の個展「人魚は実在するのか?展」を開催した。イラスト作品を飾るだけではなく、会場の壁にもイラストを描き、会場全体を渡辺さんの作品で埋め尽くす、という趣向を凝らしたものだ。
個展を開催したことで、渡辺さんには新たな目標が見え始めた。大好きな創作活動で、生活の糧を得られるようにしていくこと。すなわち、フリーランスのイラストレーターになることだ。
渡辺さんは現在は週5日勤務だが、どこかのタイミングで週4日勤務に変えていきたいと考えている。そして、平日1日を創作活動や営業活動に割り当てたいという考えだ。
そうした働き方が可能なのも、派遣ならではの魅力と言える。派遣という働き方を活用すれば、ライフワークとライスワークを明確に分けることもできるし、渡辺さんのように、段階的に軸足の比重を変えていくこともできるのだ。
好きなことを仕事にして生きていくのは誰もが夢見るところ。しかし、実現するのが難しいからと、チャレンジする前からあきらめてはいないだろうか。
夢の実現のためにはいろいろなアプローチがある。派遣という働き方もその一つであることを、渡辺さんが教えてくれた。
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提供:株式会社リクルートスタッフィング
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2016年3月31日
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