エンジニアのモチベーションは、SIビジネスの源泉――クリエーションライン:特集:アジャイル時代のSIビジネス(2)(2/3 ページ)
クラウドの浸透などを背景に、「SIビジネスが崩壊する」と言われて久しい。本特集では、今起きている“SIビジネスの地殻変動”を直視し、有効なアクションに変えたSIerにインタビュー。SI本来の在り方と行く末を占う。
「顧客との継続的な関係をどう作るか」が、これからのSIビジネスのカギ
ただ前述のように、クリエーションラインは以上のような「新しいツールの提供やコンサルティングによる付加価値の提供」とともに、「従来型のシステム構築・運用」をビジネスの柱としている。それぞれを担う独立した部門があるわけだが、互いに競う形で収益を上げるのではなく、互いに価値を引き出せるようビジネスを運営しているという。
例えば、従来型のインテグレーションを回していく部門は、従来のやり方を踏襲するだけではなく、Chefなどのツールを使った新しいインフラ管理の方法なども積極的に採用する。一方、新しいツールを提供する部隊は、単にツールを紹介するだけではなく、ユーザー企業の要望を聞き、社内に蓄積したさまざまなノウハウ、サービスと併せて提案しているという。
「レガシーなSIの部分は当然残るのですが、要望に応じて導入コンサルやサービス提供などの付加価値を付けて提供するよう心掛けています。例えばChefであれば、レシピを作成したり、Chefのサブスクリプションを提供したりすることが、定常的に発生するビジネスに発展します。インフラが増えると増える分だけサポートが増え、適用範囲が広がるとレシピ作成のサポート業務も増えます。つまり、ツールと提案を通じて顧客との継続的な関係を築くことで、ユーザー企業のシステムの価値も高め続けることができるのです。またユーザー企業側でもノウハウを蓄積できるよう、レシピ作成の支援にも積極的に取り組んでいます」
ユーザーと協力する体制を作ることで、システム改善のフィードバックサイクルを回しやすくなる。DevOpsの取り組みが特にそうだという。
「システムの理想的な姿は分かっていても、現実問題として『どこからスタートしていいか分からない』という課題はあると思います。しかしコード化ができていない中で、DevOpsを実現しようとしても難しいものがあります。そこで『なぜコード化が必要か』を考えるところから始めて、まずはやってみる。環境構築の自動化から始めてもいいし、CI(Continuous Integration:継続的インテグレーション)ツールの導入からスタートすることもあるでしょう。そうしてコード化ができると『次はこんなことができそうだ』と使えば使うほど分かってくる。最終的にそれがストーリーとしてつながってDevOpsの理想形に近づけばいい。そうした取り組みをお客さまと一緒に進めています」
収益を確保する仕組みもこうした考え方に沿ったものだ。「人月計算は行っているがそれはあくまで運用サポートを行うための計算であり、そこでビジネスを成立させようとは考えていない。客先常駐も基本的には行っていない。エンジニアはクリエーションラインの社員としてスキルを磨き、ノウハウやサービスを顧客に提供することで、ビジネスを成り立たせる仕組み」だという。安田氏は、こうした顧客との関係やビジネスの仕組みは、「これからのSIerの1つの在り方になるのではないか」と指摘する。
「単にシステムを作って終わりではなく、作った後こそが重要です。それをMSPのような形でサポートし続けていく。そのことで、ユーザーとSIerがお互いの価値を向上させていくことができるはずです」
強みは「オープンソースソフトウェアを組み合わせたソリューション」提供
そんなクリエーションラインが次を見据えて力を入れている技術の1つがDockerだ。Chefをサービス提供して3年で市場が大きく変わったように、これから数年後に市場が大きく変わることが予想される。安田氏はその変化について、次のように説明する。
「3年前のChefと同じように、Dockerは企業が数年後には普通に使っているものになると考えています。どう本番環境で運用していくかを実践し、先進的な事例を作り、そのノウハウを共有していこうと考えています」
Dockerに注目する1つの理由は、「これからはクラウド同士の連携がカギになる」からだという。クラウドはエンタープライズのユーザーでも当たり前のように利用するようになった。そんな中、クラウド上をデータやアプリケーション、ときにはシステムが自由に行き来できることが求められるようになってきた。オンプレミスとパブリッククラウド間、パブリッククラウドとパブリッククラウド間といったハイブリッドな環境での移行を意識してシステムを設計する必要がある。「そこでプラットフォームを選ばないというDockerのメリットが生きてくる」わけだ。
また、Dockerは「マイクロサービスを構成するための重要な要素としても注目できる」という。ただDockerは単体の技術であるため、それを導入すれば即便利になるというわけではない。
「単体のテクノロジを持ってきただけでは業務の効率化は果たせません。いかに業務の中にテクノロジを組み込み、ワークフローとしてつなげていくかが重要です。これは他のOSSでも同様です。弊社はZabbixやHashiCorp社のプロダクトなど多くのOSSを取り扱っていますが、それ単体では価値は出しにくい。それぞれをつなぐための考え方やフレームワークが大切です」
安田氏は、その他に注目している技術としてSparkなども挙げるが、これもワークフローに組み込む、他のテクノロジと連携させるための考え方やフレームワークがあって初めて価値を獲得できる。クリエーションラインの現在の注力分野は「マイクロサービスアーキテクチャのコンサル、設計、導入」「DevOpsソリューションのコンサル、設計、導入」「ビッグデータソリューションのコンサル、設計、導入」の3つだが、それぞれにおいて「コンサル、設計、導入」を請け負うことは、「単にテクノロジを提供するのではなく、ビジネスゴールにコミットする」という考え方に基づいたものだ。
クリエーションラインが考える「2015年以降のIT企業に課せられた命題」。アプリレイヤーを中心とした「ビジネスの改善」に寄与するシステムを作り、その後もサポート、ノウハウ支援などを通じて継続的に「ビジネスにコミットする」
「IT業界ではクライアントサーバを柱とする“第2のプラットフォーム”から、クラウドネイティブな技術を柱とする“第3のプラットフォーム”への移行が起きています。そうした潮流の中、複数のOSSを組み合わせることで、スピードを獲得し、イノベーションを起こし、技術やベンダーの事情に縛られずにやるべきことができるよう、ロックインからの開放を目指そうと突き進んでいます。われわれの強みは、そこでDockerやSparkといった技術を、自動化やログ収集などと組み合わせて、顧客企業のビジネス目的に寄与する付加価値の高いソリューションとして提供できることにあります」
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