第43回 この技術は本当に最適なのか?――専門分野を極めたからこその悩み:マイナビ転職×@IT自分戦略研究所 「キャリアアップ 転職体験談」
「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなたのキャリアプランニングに、ぜひ役立ててほしい。
野村総合研究所でコンサルティングを担当する高浦進吾さんが2年前に転職した理由は、シンプルに「自分の可能性を広げたい」だった。
しかしそのシンプルな言葉の裏には、多くのエンジニアが共通して持つ問題や悩みがあった。35歳限界説、同じことの繰り返しへの疑問――高浦氏が転職を決断したきっかけと、結果はどのようなものだったのだろうか。
【転職者プロフィール】
高浦進吾さん(37歳)
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 産業ITコンサルティング部 主任システムコンサルタント(2014年5月入社)
【転職前】
大手外資系コンサルティングファーム企業にて、ERP導入業務に従事
【転職後】
野村総合研究所で、システムコンサルタントとして顧客の課題解決に奔走中。「タイミングは自分で決める」主義
ERPのプロになったが故の「悩み」
「勘違いしてしまうくらいオファーがきました」――高浦さんが最初に転職サイトに登録したのは情報収集を行うためで、すぐに転職しようというわけではなかった。当時、32歳。「結局だんだん見なくなってしまいました」と振り返る。
高浦さんは理工系の大学院に進学し、経営工学を学んだバリバリの理系だ。本格的にITを学んだのは大学からで、1人1台ノートPCを持ち、レポートも授業もPCを使い、プログラミングを書いて提出するような学生生活だった。
「会計や簿記を学びつつ、プログラミングができる学部でした。修士論文では『産業構造が変わったら、世界の二酸化炭素排出量がどのように変化するか』などをシミュレートもしていました。理系から文系まで幅広い分野を学べました」。
そして2005年、大手外資系コンサルティングファームに就職し、ERPパッケージ導入の要件定義から稼働保守までを行う業務に携わり、ある特定のベンダーのパッケージに詳しくなったそうだ。
早々に専門分野を持ち、順調にキャリアを積んでいるように見えるが、高浦さんには悩みがあった。
1つ目は、仕事が「繰り返し」になりがちであること。特定のERPパッケージの知識や経験は豊富になったが、どのプロジェクトでも仕事内容は基本的に大きくは変わらない。最初こそ新鮮ではあったが、複数のプロジェクトを経験してからは、全てが「繰り返し」に思えてしまったのだ。
「もったいないと感じました」と高浦さんは話す。
「プロジェクトごとに業種は異なりますが、『ERPパッケージを導入する』というゴールは変わりません。しかも、保守まで担当するのでプロジェクトの期間が長い。私は、ERPパッケージ導入の繰り返しではなく、お客さまの課題解決を繰り返したいと思いました」
もう1つの悩みは、「武器が1つしかない」ということだった。
経験を積んだ高浦さんは、徐々に「RFP(提案依頼書)」や「RFI(情報提供依頼書)」の作成など上流工程に携わるようになった。しかし、高浦さんは顧客の課題解決策として、たった1種類のERPパッケージしか知らない。
パッケージの選択は、顧客には大切な決断だ。しかし、特定のパッケージ以外の「武器」を知らない自分は、そのパッケージを勧める以外の解を持っていない。これでは、本当に顧客の立場に立った判断ができないのではないか、と高浦さんは考えるようになったのだ。
この悩みを解決する解を、高浦さんは定義した――“知見を広げるべきだ”と。これが、転職活動再開のきっかけとなった。
会社にとっての人材は替えられるが、私の人生は替えがきかない
まず高浦さんは、転職エージェントとの情報交換を本格的にスタートした。
「機械的に案件を紹介するエージェントがあると聞いていましたが、実際は希望に合った企業を厳選してくれました。プロである転職エージェントを利用することはいいと思います」と高浦さんは振り返る。
転職期間半年で、高浦さんは転職を決めた。
職場への報告はその後行った。10年戦士の突然の転職宣言に、周囲からは強い引き留めがあったという。
「次のプロジェクトの人員計画もあったのでしょう。最終的には了承を得ましたが、当初の計画より退職が1カ月遅くなりました」という。給与や待遇改善のオファーもあったが、高浦さんは「金額ではなかった」と話す。
「自分の可能性を広げたいという思いで決めた転職だったので、どんな条件が来ても、心が動かされることはありませんでした。今、ここで決意を翻せば、自分のチャンスをつぶしてしまう。会社にとって人材は替えられますが、私の人生は替えがきかないのですから」
希望はかなった?
30代半ばでの初めての転職。話題の「嫁ブロック」は、なかったのだろうか?
「妻は以前から私の仕事を理解してくれていたこともあり、背中を押してもらえました」とのこと。予想外だったのは、ご両親の反応だった。所帯をもっている身であったため、環境の変化を反対されるとばかり思っていたが、とても喜ばれたという。
家族からは歓迎された初めての転職だが、もともとの悩み――「仕事の繰り返し」「武器の少なさ」は解消されたのだろうか。
「現在はこれまでのような『たった1つの武器(特定のERPパッケージ)を導入する』という手段だけでなく、複数の『武器』を手に入れました。お客さまはパッケージの違いは詳しくは分からないと思いますので、希望を聞き、迷っているポイントを探り、最適だと思える方法や製品を提案できるようになりました。『青写真を作る』と『それを実現する』の間には、『どうやるか』があります。武器が増えると手段も増える。難しい仕事ですが、その難しさを追い求めていきたいのです」
高浦さんが転職を決断したのは、34歳。「35歳限界説」で指摘される年齢の直前だった。「自分は恐らく“運”が良かった」と振り返る高浦さんだが、「何歳までは転職できる」「何歳だから、もう転職できない」と一概に年齢だけで成否が決まるものではないとも述べる。
「会社が買うのは、その人の“経験”です。ハマるべきポジションに、ハマるべき経験があれば、何歳でもいいと思います。とはいえ、システムコンサルタントは体力勝負で、年齢が高くなるとフットワークが重くなりがちなので、これからも小回りが利く人間でありたいです」
初めての転職から2年。高浦さんは、野村総合研究所から「次」に行くことは想定していないようだ。
「ここでなら、転職ではなく『会社の中で選択肢が探せる』のではないかと考えています」そう述べる高浦さんの表情には、大きな自信が満ちあふれていた。
高浦さんの採用を担当した、上級システムコンサルタント 疋田時久さんのコメント
前職でのERPプロジェクトの経験が、実践的スキルとして高浦さんの身に付いていたことは、評価しました。
ただ、それだけでは、他の「ERP導入コンサルタント」と違いがありません。
高浦さんは、この「実践的スキルを有している」ということに加えて、これまでの経験・スキルを応用して新たな分野の開拓を目指し、第二・第三の柱を立てたいという意志を明確に表現していただきました。この意思表示が、採用の決め手です。
現在は、主としてシステム導入の上流工程(業務改革・構想策定)のコンサルティングに、リーダーとして、従事していただいております。これまでの「システムを導入するSIer目線」からだけではなく、「経営目線」「ユーザー目線」「第三者的評価者の目線」といったさまざまな目線での検討・コミュニケーション・思考を行う経験を積んでいただき、更なる活躍を期待しております。
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