「情シスのあるべき姿」とは――フジテック CIO、10の言葉:「ビジネスに寄与する情シス」の具体像(2/3 ページ)
デジタル化のトレンドが進展し、IT活用の在り方が収益に直結する時代になった現在、情報システム部門には「ビジネスへの寄与」が強く求められている。だが「ビジネスへの寄与」とは具体的に何をすることなのか、詳細に語られることは少ない。その1つの回答を、ガートナー ジャパンが2017年3月16、17日に開催した「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2017」に登壇したフジテック CIO 友岡賢二氏の講演に探る。
現場に聞くな、現場を見よ
ただ、着任直後からさまざまな取り組みを推進してきた友岡氏にしても、何でも自由にできる環境にあるわけでは決してない。企業として一定の制約があるのは同社も同じだ。例えばBYODにしても、実践に至るまでには複数のハードルを乗り越える必要があった。
例えば、経営層への説得だ。業務効率化に役立つとはいえ、モバイルデバイスの導入には一定のコストが掛かる以上、経営層も簡単には意思決定を下せない。そこで友岡氏は、「“確実に効果が出るか否かを確かめるために”、BYODを試行する」というアプローチを採った。従業員にとっては、iOS、Android問わず、自身が使いなれている端末を使えることがモバイルの業務利用浸透のポイントとなる。会社から端末を貸与するのではなくBYODを選択したのは、この点を考慮した結果でもあった。
一方、BYODに対してセキュリティを懸念する経営層も少なくない。そこで友岡氏が採ったのが、役員会で営業スタッフの鞄の中身の写真を見せることだった。
「営業スタッフの鞄の中にはたくさんの書類が入っている。中には個人情報に関係する書類も含まれている。モバイルを使って(安全性を担保したネットワーク環境で)情報をやり取りするのと、実際に紙を持ち運ぶのと、どちらが危険ですか? といった説明をした」
前述したグループチャットなども同様だ。「例えばLINEを禁止している企業は多いが、実際には現場が勝手に使ってしまっているケースも多い」。そこで同社ではWi-Fiを導入し、どの拠点でも“会社が用意した通信環境で”コミュニケーションを取れる体制を築いた。
一般に、いかにルールや禁止事項などを作ってガバナンスを効かせようとしたところで、現場がその通りに動くとは限らない。加えて、そうした“現場の実態”を把握できている管理層、経営層は少ないため、おのずとルールと実態にギャップが生まれる。友岡氏はそうした点を見据え、実態に基づいて「現場にとっての利便性」と「企業としてのガバナンス」を両立できるアプローチを採っているわけだ。
アクションを起こすスピードも重視している。例えばBYODにおけるマルチデバイス活用を支えているのが、ワンソースでマルチプラットフォーム対応のアプリケーションを開発できるフレームワーク、Cordovaだ。同社ではモバイルアプリのフロントエンドを、Cordovaアプリの統合開発環境「Monaca」で開発。これをMDM(モバイルデバイス管理)/MAM(モバイルアプリケーション管理)機能を持つヴイエムウェア「AirWatch」で管理、配布している。「朝、作るべきアプリについて立ち話をし、夕方にはプロトタイプができる」スピードを担保しているという。
一方、オラクルDBとのデータ連携など、バックエンドの開発にはNCデザイン&コンサルティングが開発元である「App Pot」を利用。アプリケーションやDBはAmazon EC2上で稼働させている。
この仕組みを使って、前述した「現場写真アップロード」アプリの他、現場スタッフが出社・帰社せずに出勤・退勤時刻、作業時間などの報告ができる「出勤簿」アプリなどを開発。さらに、エレベータの設置・保守業務があらゆる場所で行われていることを受けて、グーグルマップと社内システムをAPI連携させ、地図にさまざまな機能をマッシュアップしたシステムも構築した。
具体的には、以下の画面イメージのように、地図上に「工名」「現場名」「保守担当」「住所」などの基本情報をはじめ、ERPの情報も、一定権限の下、アイコンをクリックすることで表示・閲覧できる仕組みとしている。
「これにより、現場スタッフは1日の行動計画から、工事内容、場所、部品在庫など基幹システムの情報、次の現場への移動手段、移動時間まで、必要な情報をいつでもどこでも把握できるようになった」
「現場に溶ける」とは、「単に現場の利便性を向上させること」、ましてや「現場の言いなりになる」といったことでは決してない。現場の実態に目を向け、シャドーITも最初から否定することなく、「なぜそれが求められるのか、どうすれば一定の制約の下、求められていることを実現できるのか」を親身になって考え、ITの力を使って「最も建設的かつ合理的な方法を編み出すこと」といえるだろう。今強く求められている「ビジネスに寄与する情シス」の1つの具体像として、大いに参考になるのではないだろうか。
パブリッククラウドの導入をためらわせる大きな誤解とは?
なお、同社はAWSを積極的に利用しており、2017年3月現在、190インスタンスを利用。オンプレミスとのハイブリッド環境として段階的にクラウド移行を進めている。
ただ友岡氏の着任直前まで、同社はデータセンターへの運用アウトソースを検討しており、契約書を結ぶ直前まで話が進んでいたという。だが友岡氏は着任直後、契約準備を進めていた担当者から相談を受けて、前職、ファーストリテイリングでのAWS利用経験から、まずはAWSを触ってみることを勧めた。結果、その担当者自身もAWSの利便性を実感。友岡氏はデータセンター案を却下し、その担当者から若手スタッフへとAWSの利便性を伝播させていったという。
AWSのフルマネージドサービス利用を進めた結果、定量的な効果も現れた。一般的なデータセンターに比べて「初期投資削減効果」が95%減、「年間運用費用削減効果」が従来比42%減、サービスイン期間は99.97%減を記録した。ただAWSに限らず、パブリックIaaSのコスト優位性は多くの企業に知られていながら、いまだ利用に乗り出せていない企業も多い。友岡氏はこの点にも触れ、そうした企業によくあるケースとして、「サーバの運用コストだけで比較してしまっている」問題を指摘した。
「例えば、サーバを自社データセンターで運用する場合、データセンターには場所代、UPS、空調、防犯設備など、さまざまな設備投資、固定費が掛かる。しかし一般に、データセンターの基盤を本社経理部門などが管理しているような体制だと、こうした水面下の明細が見えなくなりやすい。加えて、こうしたコストは建物に付随するため、情シスの経費としては計上されない。つまり事業部門も情シスも、この水面下のコストが見えないまま運用コストだけで比べてしまう。その結果、パブリッククラウドと比べてもコストが減っていないように見える。しかしクラウドに移行するにつれて自社データセンターは縮小し、設備投資は確実に下がっていく。運用経費だけではなく、設備投資、減価償却費を含めた全体を見た検討が大切だ」
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