「情シスのあるべき姿」とは――フジテック CIO、10の言葉:「ビジネスに寄与する情シス」の具体像(3/3 ページ)
デジタル化のトレンドが進展し、IT活用の在り方が収益に直結する時代になった現在、情報システム部門には「ビジネスへの寄与」が強く求められている。だが「ビジネスへの寄与」とは具体的に何をすることなのか、詳細に語られることは少ない。その1つの回答を、ガートナー ジャパンが2017年3月16、17日に開催した「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット2017」に登壇したフジテック CIO 友岡賢二氏の講演に探る。
「あるべき情シスとは」――友岡CIO、10の言葉
最後に、友岡氏は「伝えたいこと1000本ノック」と題して、情シスのあるべき姿について、多数の考えをシンプルに示した。ここではその幾つかをまとめて紹介しよう。
キャズム(ざっくり2割)を越えよ
一般に、新しいテクノロジーはiPhoneを並んで買うような「イノベーター」から、「アーリーアダプター」→「アーリーマジョリティ」→「レイトマジョリティ」といった具合に広がっていく。このうち、イノベーターとアーリーアダプターを合わせると全体の16%。この16%を越えると新しいものは自然に普及していくとされている。これを受けて、社内でも新しい取り組みを進める際には、「普及率が社内ユーザーの16%を越えるまでは普及に注力せよ」と言っている。後は放っておいても自然に浸透する。BYODも16%までは一生懸命推進した。現在、普及率は5割を超えている。
情シスはイノベーターであれ
情シスのスタッフは常に新しいものを探しているし、そうあるべきだと考えている。なおかつ、良いと思ったものは熱を持ってレコメンドすべきだ。これによって波が広がっていく。“普及”というより“布教”に近い。16%を越えたら、同じものをさらに推進するより、新しいものを追った方が良い。
2-6-2の法則
上位2割は「実績・生産性が高く積極性に優れた優秀なグループ」、中位6割は「上位にも下位にも属さない平均的なグループ」、下位2割は「実績・生産性が低く積極的に行動しないグループ」。情シスの新しい取り組みについて、抵抗勢力となるのはたいてい下位2割だ。この2割に合わせるのではなく、上位2割に合わせた方が良い。上位2割は魅力的なツールを率先して取り入れ、実際に使ってしまう。そうした人たちに合わせないと企業の取り組みはどんどん遅れてしまう。新しいツールだからと抵抗を感じる必要はない。慣れてしまえば誰でも使えるようになる。
全社員を情シス化せよ!
ニコラス・G・カー氏が言うように、ITはユーティリティ化するもの。(全てを作ろうとせず)SaaSで使えるものはSaaSを使った方がいい。これは全社員を情シス化するということでもある。情シスを含めた全従業員のうち、(感度の高い)上位2割の人が使うものに注目して、どんどん取り入れる。下位2割には強制しない。
強制やガバナンスは、やっていて辛い、楽しくない〜弱肉強食・自然淘汰〜
ガバナンスや標準化といったものは面白くない。例えば「ExcelとGoogleスプレッドシートがかぶってしまうので、社内ツールとしてはどちらかに統一すべきだ」といった考え方もあるが、並存していていいと思う。個々人が好きなツールを使えばいい。だが利便性・合理性の高いツールは自然と生き残り、そうでないものは淘汰されていく。エクセルシートを送って「空欄を埋めてください」とお願いしても、いつか受け入れてもらえなくなる日が来る。
全体最適より、現場最適
例えば、東京都内のビジネスの現場と北海道のビジネスの現場は全く違う。“現場”はそれぞれ事情が異なり、決して1つにくくれるものではない。その1つ1つの現場の事情をくみ取りながら、いかにバックエンドの「仕組み」を共通化できるか。それが情シスの腕の見せどころだ。
価値を生んでいる「仕事」をしている人を徹底的に支える
誤解を恐れずに言えば、例えばERPのユーザーは(直接的には)価値を生んでいない。在庫管理や販売管理は「基幹業務」だろうか? そうした人たちを「エンドユーザー」とあがめたてまつり「何をすればいいか」とお伺いを立てるのはナンセンスだと思う。ビジネス価値を生んでいる人たち(を優先して、その要望)を徹底的に支えるべきだ。
CIOがない会社の発展はない
リスクの裏側にはオポチュニティがある。ビジネス機会を採るためにどのリスクを採るか、CIOが辞表を出す覚悟で決める必要がある。しかし、ビジネスとテクノロジーに精通した人でなければ、リスクがあると聞けば怖くて意思決定できなくなってしまう。その橋を渡れるか否か――ここで技術を見る目が必要になる。日本企業でもCIOという職業を確立させるべきだ。
ITとは常に未完成な状態で成熟していくもの〜枯れたITより旬なIT〜
ITはいつまでたっても完成しない。だからこそ、枯れたITより旬なIT。新しいものをどんどん取り入れる。情シスでも事業部門でも、現場が「使いたい」と言うものはどんどん使わせる。基本的に「No」はない。「No」と言うときは代わりのものを使わせる。
ノウハウを勉強するために、ユーザー会に行こう
私自身もAWSユーザー会イベント「JAWS DAYS」などに参加している。ユーザー会は技術を勉強する上で最高の場。情シスのスタッフには出張旅費や代休を与えてでも参加させてあげたい。
友岡氏が最初にクラウドに触れるきっかけとなったのは、当時、小学生だった子どもの宿題がGoogleドキュメントで出されていたことだった。「小学生がクラウドを使いこなしていることにがくぜんとした。ITの専門家として20年、全く違う時代に入ったと実感した」。また2008年当時、国内でも話題になったニコラス・G・カー氏の著作『クラウド化する世界』における「ITは電気、ガス、水道のようにユーティリティ化する」という考え方にも深く共感し、企業ITのこれからを見据える上で重要な考え方になると確信したという。
「テクノロジーは民主化のための力であり、情報を通して人々を力づけるためのものだ」――講演の最後に、友岡氏は米Google CEOのサンダー・ピチャイ(Sunder Pichai)氏の言葉を挙げ、「この『テクノロジー』を『情シス』に置き換えても同じことだと思う」とまとめた。
「現在は人々がスマートフォンを使いこなし、自分の感情や見聞きしたものをはじめ、さまざまな情報を広くシェアする時代。(ITの力で)人々に自由と情報を届ける、といったコンシューマーITの常識を、なぜ企業ITでは体験できないのか。シャドーITがよく問題にされるが、古い企業ITの方が問題ではないのか。コンシューマーITの常識を企業ITでも実現することには、事業の違いを越えて皆でチャレンジするべきだと思う。互いに励まし合いながら、生産性が低いといわれている日本を何とか変えていきたいと考えている」
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