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今の仕事が自動化されたとき、われわれはどう生き残るのか?――IBM Watson Summit Tokyo レポートほとんどの仕事は、じきに自動化される(1/2 ページ)

AIなどテクノロジーの急速な進展は、既存の業界構造を変えるだけではなく、われわれの生活や社会の仕組みそのものも大きく変えていくといわれている。では例えば、今ある仕事の多くが自動化されるという予測については、われわれは一体どのようなスタンスで受け止めれば良いのだろうか?

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 テクノロジーの力で新たな価値を生み出し、既存の商流にゲームチェンジを引き起こす、いわゆる“ディスラプター”の台頭が各業種で進んでいる。当初はスタートアップや新興企業が中心だったが、昨今は従来型の一般企業もこの潮流に対応すべく、IoT、X-Techなどのデジタルビジネスや、AI、ディープラーニングなどの活用に取り組む例が着実に増えつつある。

 だが社会の変化もテクノロジーの進化も、われわれが予測する以上にスピードが速い。今後、人々のニーズはどう変わっていくのか、テクノロジーの進化はビジネスや社会に何をもたらすのか――ともすれば、ITがもたらす利便性や驚きなど、表面的な事象にばかり注目しがちなものだが、われわれの生活、ビジネス、社会をより良いものにしていくためには、ITがもたらすものの“本質”を見据えることが、何より重要といえるだろう。

 では今、デジタル化の世界の中で、“本当の意味では”一体何が起こっているのだろうか?――2017年4月27〜28日、都内で開催された「IBM Watson Summit Tokyo」におけるパネルディスカッション『ディスラプター(破壊者)の条件 - 先進テクノロジーとオープン・イノベーションで市場をリードする』に、その回答を探る。

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左から、日本IBM CTOの久世和資氏、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏、SOMPOホールディングス 常務執行役員グループCDO 楢崎浩一氏 (※編集部注:楢崎浩一氏の「崎」は、正しくは異体字ですが、Web表記の仕様により「崎」とさせていただきました)

ディスラプターさえも破壊する可能性を秘めたブロックチェーン

 パネルディスカッションには、日本IBM CTOの久世和資氏をモデレータに、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏と、SOMPOホールディングス 常務執行役員グループCDO 楢崎浩一氏が登壇。従来型の一般企業はディスラプターにどう対抗していくことができるのか、自らがディスラプターになるにはどうすればいいのか、先進テクノロジーとオープンイノベーションの観点から議論が交わされた。

 まずモデレータの久世氏は、ビジネスの現場に起こっている変化として「モノ・コトの情報化」「無限のコンピューティング能力」「スピード化」の3つを紹介。これをテクノロジーの観点で見ると、「仮想化」「Software Defind X」「Infrastrucure as code」「水平・垂直のスケーラビリティ」「Immutable System」「APIエコノミー」「マイクロサービス」などが、今後のビジネスインフラを支えていくことを解説。その上で、「イノベーションにつながるこれからのキーテクノロジー」として、AI、ブロックチェーン、IoTを挙げた。

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以上のようにビジネスプラットフォームが発展しつつある中で、AI、ブロックチェーン、IoTがイノベーションのためのキーテクノロジーになっていく

 中でも、ブロックチェーンは世の中を根底から変える可能性を秘めた技術として注目されている。ファイナンス理論や日本経済論の側面からブロックチェーンを評価する野口氏は、ブロックチェーンは「電子的な情報を記録していく仕組み」であり、「ビットコインや仮想通貨にとどまらず、さまざまな応用が可能」であることを説いた。

 ブロックチェーンの特徴は、情報が多数のコンピュータによって分散的に記録されることだ。このため攻撃に強く、仕組みを管理する管理者が必要ない。もう1つの特徴は、書き込んだ情報を改ざんできないこと。書き込まれた情報は信頼できる情報となり、特定の組織を信用することなく取引を進めることができる。こうした2つの大きな特徴を利用すると、さまざまな応用が可能になるという。

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早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問/一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏

 「ブロックチェーンはビットコインでの利用から始まり、ビットコイン型の仮想通貨が多数登場しました。その後、銀行も独自の仮想通貨を計画するようになり、さらに中央銀行が仮想通貨を発行する計画まで出てきました。ただ、仮想通貨は最初の応用にすぎません。通貨の他、証券、保険への応用が試みられています。金融以外では、シェアリングエコノミー、IoTへの応用も期待されています。ブロックチェーンを応用することで、数年のうちに、世界は大きく変わると予想されています」(野口氏)

 例えば証券では、証券取引自体は高速化したものの、決済や精算は旧態依然としており、平均して3日ほどかかる。また、保険では審査や支払いのプロセスに数日を要しているのが現状だ。そうしたプロセスや処理をブロックチェーンを利用して自動化することで、人が行っていた手作業がなくなり、処理は劇的に速くなるという。また、シェアリングエコノミーやIoTへの応用では、いわゆるプラットフォーマーと呼ばれるような仲介者が不要になることが大きな意味を持つという。

 「今、仲介者が担っていることをブロックチェーンに置き換えれば、自動的に事業を進めることができ、サービスの提供者と受給者が直接結び付きます。これは仲介者が存在しない本来のシェアリングエコノミーの姿です」(野口氏)

 つまり、ブロックチェーンはUberやAirbnbといった仲介者、ディスラプター自体をも破壊する可能性すら秘めているわけだ。IoTについては情報のやり取りを分散型で行うことで、中間処理にかかるコストや時間を劇的に減らすことが期待されている。

ブロックチェーンで保険の契約と支払い処理を自動化

 実際に、ブロックチェーンの保険業界への適用に取り組んでいるのがSOMPOホールディングスだ。同社は2016年度の中期経営計画の中で、損保業から卒業し、「『安心・安全・健康のテーマパーク』を提供するサーピスプロバイダーになる」と宣言して注目を集めた。その尖兵として、デジタルビジネスを推進しているのが、楢崎氏が率いるデジタル部門だ。

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SOMPOホールディングス 常務執行役員グループCDO 楢崎浩一氏

 「損保業界でCDO(Chief Digital Officer)を設置したケースはおそらく初めてだと思います。昨年、CDOとして着任してから、シリコンバレーと東京にSOMPO Digital Labを設置し、シリコンバレーのスタートアップのようなスピードと柔軟性でデジタルビジネスを推進する体制を整えました。現在、1年間に30件ペースでPoCを回している状況です」(楢崎氏)

 ブロックチェーンの活用もその1つだ。ブロックチェーンを基盤とした「天候デリバティブ」と呼ばれる仕組みを作り、契約から支払い処理までを全自動で行うことを目指している。契約者には大規模農家を想定しており、例えば「気温が摂氏0度以下になった日が5日間続いたら自動的に保険を支払う」といった金融商品になる。

 「保険金のトラブルの多くは証跡がはっきりとしないことから起こります。このケースでは摂氏0度以下になった、なっていないということがクレームにつながります。そこで、気象庁のデータを利用して、ブロックチェーンで証跡をお互いに共有する。これによりトラブルを防ぎながら自動的に保険金を支払うことができるようになります」(楢崎氏)

 この他にも、ウェアラブルデバイス「Fitbit」を社員3000名に配布して健康データを収集し、疾病と活動にどんな相関があるかを分析。その分析結果を保険契約者向けの健康サービスに生かす試みを行っている。

 IoT分野では、親指大の「つながるボタン」を開発。セゾン自動車火災の「大人の自動車保険」のサービスとして提供している。つながるボタンを自動車の運転席に貼り付けておき、何かあったらボタンを押すだけで、コールセンターへの発呼や、運転履歴の把握、事故対応などが可能になる。ボタンに内蔵する加速度センサーやスマートフォンのGPS機能によって、普段の運転状況や事故時の衝撃、場所などを把握する仕組みだ。

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