君の名は? 昔の名前が出てこない:その知識、ホントに正しい? Windowsにまつわる都市伝説(92)(2/2 ページ)
WindowsやMicrosoft製品に搭載されている機能や技術、そして製品名は、変更される場合があります。ものによっては、何度も変更されることがあります。名称変更はマーケティング的な理由が多いと思うのですが、トラブル解決を難しくしたり、ユーザーを混乱させたりといった“負の側面”も少なくありません。
ID管理ツールのルーツもややこしい
Microsoftのサーバ製品では、筆者が知る限り、ID管理ツールである「Microsoft Identity Manager(MIM)」が最も多くの昔の名前を持つ製品であると思います。以下に、古い順番に並べてみました。それぞれ、3〜4文字の略称で呼ばれることがあります。この製品に深く関わることがなかったので、名前の変更の影響がどの程度であったか知る由もありません。おそらく新規導入では問題にならなくても、途中をスキップしてのバージョンアップなどは、何かしら苦労があったと思います。
- Microsoft Metabase Services(MMS)
↓
- Microsoft Integration Server(MIIS)
↓
- Microsoft Identity Lifecycle Manager(ILM)
↓
- Microsoft Forefront Identity Manager(FIM)
↓
- Microsoft Identity Manager(MIM)
全く別の機能に再利用される名前もある
個人向けアプリとMicrosoft Officeに同梱される企業向けアプリケーションの2バージョンがある「OneDrive」ですが、2016年中ごろに「SkyDrive」から名前が変わったことを知っている人は多いと思います。
- SkyDriveからOneDriveへ(Microsoftサポート)
実は、Microsoft Officeに同梱される企業向けアプリケーションとしては、もともと「Groove」という名前でした。以下に、これまでの名前の変遷を古いい順に示します。
- Groove(Office 2007)
↓
- SharePoint Workplace(Office 2010)
↓
- SkyDrive for Business(Office 2013)
↓
- OneDrive for Business(Office 2016)
現在、Grooveという名前は、Windows 8.1やWindows 10で利用可能な「Grooveミュージック」というアプリで使われています。全く別のものに名前が再利用されたわけですが、もし、あなたのコンピュータのメニューに「OneDrive for Business」(Microsoft OneDriveではない方)が存在するのなら、ショートカットのリンク先を確認してみてください。リンク先のファイル名は「groove.exe」です。あるいは、Windows 8.1やWindows 10のスタートメニューで「Groove」と検索すると、「Grooveミュージック(信頼されたWindowsストアアプリ)」の他に「OneDrive for Business」が検索されることを確認できるかもしれません(画面4)。
この他、以前使用されていた名前が別の技術や機能に再利用されている例としては、「Microsoft Passport」があります。Microsoft Passportは、Windows 10に実装された、パスワード入力に変わる二要素認証(Tow Factor Authentication:2FA)技術です。
生体認証(顔、眼球の虹彩、指紋による認証)といった「Windows Hello認証」の背景にある技術ですが、もともとは現在の「Microsoftアカウント」の前身となった「Microsoft Live ID」の、さらに前身のサービスである「.NET Passport/Microsoft Passport Network」のことを指していました。そして、現在の意味でのMicrosoft Passportも、実はもう古い用例です。Windows 10初期リリース時には別の意味であったMicrosoft PassportとWindows Helloは、現在では両社を合わせて「Windows Hello」という名前に統合されています。
それ以前は「Microsoft Wallet」と呼ばれていました。Microsoft Walletは、Windows 10 Mobile向けの決済サービスの名前としても使用されています。その時点で新規IDを作成する際には問題にはならないでしょうが、IDを継続して利用しているユーザーにとっては、混乱してしまいます。@outlook.com、@live.com、@live.jp、@hotmail.com、@msn.com、@passport.comなど、さまざまなサフィックスのドメイン名が存在することも、混乱の源です。
Windows 8.1/10は、別の名前や名前の変更がお好き?
Windows 8.1(Windows 8)やWindows 10からは、OSに実装されている技術や機能の名前が、以前よりも短いサイクルで変更されることがあります。
例えば、筆者はWindows 8.1以降を対象とする場合、「アプリケーション(Application)」と「アプリ(Apps)」を意図的に使い分けています。「アプリケーション」は従来のネイティブなWindows向けアプリケーション(「メモ帳」や「Word」、コマンドツールなど、拡張子「.exe」のバイナリ)のことで、「デスクトップアプリ」や「Win32アプリケーション」と表現することもあります。
もう一方の「アプリ」が意味するところは、Windowsストアから入手できる(あるいはWindowsにビルトインされて提供される)、Windows 8からの“新しいタイプのアプリ”のことです。こちらは、さまざまな別の呼び方があります。以下にざっと挙げてみましたが、まだあるかもしれません。これらの呼び方は、Windowsの新しいバージョンや技術が登場するたびに増えてきました。これほどたくさん別名があると、人に正しく伝えるのに苦労します。
- ストアアプリ(Store Apps)
- Windowsストアアプリ(Windows Store Apps)
- Windowsアプリ(Windows Apps)
- ユニバーサルWindowsプラットフォームアプリ(Universal Windows Platform Apps)
- UWPアプリ(UWP Apps)
- モダンアプリ(Modern Apps)
- モダンUIアプリ(Modern UI Apps)
- メトロアプリ(Metro Apps)
- メトロUIアプリ(Metro UI Apps)
- Immersiveアプリ(Immersive Apps)
「Apps」が「アプリ」と翻訳されているため、英語の「Application」と「Apps」の表現と、日本語の「アプリケーション」と「アプリ」の表現の違いが分かりにくいかもしれません。日本語では、「アプリケーション」を略したものが「アプリ」という意味にも取れます。スマートフォンで利用可能なものを「アプリ」と認識する人も多いでしょう。
Windowsにおいても、スマートフォンで(も)利用可能なものという認識は、ある意味間違ってはいません。ただし、Windows 8.1向けのアプリはWindows 8.1 RTやWindows 8.1 Phoneでも動き、Windows 10向けのアプリはWindows 10 MobileやXboxやHoloLensでも動くということで、スマートフォンでも動くのではなく、全てのプラットフォームで動くものという意味合いです(Windowsの設計上の目的としているところ)。
Windows 10になってからの名前の変更は、まだまだあります。次回は、新旧「アクションセンター(Action Center)」、「更新ブランチ(Update Branch)」と「更新チャネル(Update Channel)」、「機能アップグレード(Feature Upgrade)」と「機能更新プログラム(Feature Update)」、「Microsoft Passport」と「Windows Hello」、「エンタープライズデータ保護(Enterprise Data Protection:EDP)」と「Windows情報保護(Windows Information Protection:WIP)」と「Azure Information Protection(AIP)」などについて取り上げる予定です。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(Oct 2008 - Sep 2016)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows Server 2016テクノロジ入門−完全版』(日経BP社)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Windows 10 Fall Creators Updateで増える「設定」は「ms-settings:URI」で狙い撃ち
2017年秋にリリース予定のWindows 10 Fall Creators Update(バージョン1709)では、「設定」アプリの項目が増えます。本連載第99回で「設定」の各項目へのショートカットに使用できる「ms-settings:URI」の一覧を紹介しましたが、早くもこの一覧に追加が必要になりそうです。 - Windows as a Serviceの展開状況を監視することが重要な理由
Windows 10の導入後は「サービスとしてのWindows(Windows as a Service:WaaS)」に基づいて継続的に更新が行われます。更新には毎月の「品質更新」と、通常は半年ごとの「機能更新」の2つがあります。多数のWindows 10クライアントを抱える企業にとって、この両方の更新が適切に展開されているかどうかを監視することは重要な運用タスクになります。 - Windows 10のトラブルシューティング、まとめました
本連載ではWindows 10のトラブル事例とその解決方法を何度か取り上げてきました。今後も継続して紹介していく予定ですが、今回はこれまでのトラブルをまとめてみました。 - Windows 10時代はトラブル脱出が厄介に?――実際のトラブル例と解決のヒント
Windows 10の新機能や変更点は、トラブル解決を遅らせる原因になるかもしれません。なぜなら、これまでのトラブル解決の経験則が、そのまま使えるとは限らないからです。今回紹介する筆者の二つのトラブル例は、Windows 10やWindows Server 2016で遭遇するかもしれないトラブルを解決するヒントになるかもしれません。