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発情期や疾病リスクを検知、「牛のウェアラブル」開発に立ちふさがった壁とは“スマホで牛の管理”を実現する農業IoT(2/2 ページ)

IoTがさまざまな業界で活用されている。酪農や畜産業も、例外ではない。本稿では、IoTで牛の健康管理を実現したファームノートに、サービス開発秘話を聞いた。

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牛のウェアラブルデバイス「Farmnote Color」を一から新規開発

 このようにクライアントサイド、サーバサイドともに先進技術を積極的に採用して作られたFarmnoteだが、これら一連の仕組みをさらにユニークたらしめているのが、同社が独自開発したIoTデバイス「Farmnote Color」の存在だ。谷内氏が「牛のためのウェアラブル」と呼ぶこのデバイスは、3軸の加速度センサーを搭載し、ストラップによって牛の首の部分に取り付けられる。

 この加速度センサーが検知した牛の動きに関するデータが、BLE(Bluetooth Low Energy)通信を通して牛舎内に設置されたゲートウェイデバイスにいったん集められ、そこからまとめてFarmnoteのクラウドサービスに3G/LTE回線を通じて送られる。

 クラウド環境上では、こうして収集されたセンサーデータに対して機械学習を応用した分析を施し、牛の動作や挙動の傾向から発情期や疾病リスクなどの兆候を検知する。この検知に基づき、「どの個体に対して、次にどんなアクションを起こすべきか」をユーザーが判断することができる。スマートフォンアプリとFarmnote Colorは直接BLE通信を行うことも可能で、例えば牛舎で特定の牛に近づくと、その個体に関する情報を自動的にクラウドから取得してスマートフォンアプリ上に表示してくれる。


Farmnote Colorを使ったFarmnoteのシステム図

 谷内氏によれば、牛の挙動に関するセンサーデータの分析モデルを確立するまでには、かなりの苦労があったという。

 「酪農と畜産では牛の行動パターンはまるで違ってきます。牛舎と放牧でも同様です。また牛の品種によっても、行動パターンは大きく異なります。さらに個体ごとの差異も加わると、十分な分析精度を出すのは至難の技だといえます。この課題をクリアするために、多くの農家の方々から協力を得ながら、さまざまなパターンのデータを集めて分析に掛けました」

 しかしそれ以上に難関だったのが、Farmnote Colorのハードウェア開発だった。谷内氏をはじめ、社内のエンジニアは誰もハードウェア設計・開発の経験がなかったからだ。そのためハードウェアや組み込みソフトウェア開発に関する知識を一から習得するとともに、ハードウェアの設計開発に強いパートナー企業の協力を仰いで、幾多の試行錯誤の末にようやく日の目を見たという。

 「牛は動き回りますから、センサーとゲートウェイの間の距離も常に一定とは限りません。そのため、通信品質を一定に保つためにはアンテナの電波強度を十分に確保する必要がありました。また、センサー部を牛に取り付けるためのベルトも、安定して取り付けられ、かつ牛に余計なストレスを与えないよう、材質などをいろいろ研究する必要がありました」


Farmnote Colorを付けている牛

今後は農業IT全般をカバーするIoTプラットフォームの実現を目指す

 取材時点(2017年8月)では、Farmnote Colorに搭載されるセンサーは加速度センサーのみだったが、将来的には「他の種類のセンサーも搭載し、牛の状態をより詳細に検知できる仕組みを検討している」という。「センサーデバイス側だけではなく、センサーデータを受け取るクラウド側の仕組みも、今後さらに用途を広げていきたい」と谷内氏は抱負を語る。

 同社は、FarmnoteおよびFarmnote Colorのサーバサイドの機能をAPI化し、アプリケーションやゲートウェイからこのAPIをコールすることによってデータ連携を実現している。このAPI基盤「Farmnote Connect」は、FarmnoteやFarmnote Color以外のデバイスやアプリケーションからも利用できる汎用性を備えているので、今後は他社製品も含め、より広範なデバイスやアプリケーションとの連携も考えられるという。既に、酪農で使われるロボット搾乳機などとの連携が実現しつつある。

 また同社では、Farmnote Connectを、農業ITに幅広く活用できる「IoTプラットフォーム」と位置付けており、「多様なデータの集計・分析を通じて日本の農業に幅広く貢献できるITサービスに成長させていきたい」と意気込む。さらには、今後の経済成長で乳製品の需要が伸びるといわれているアジア新興国をはじめ、海外市場への進出も視野に入れている。

 「農業ITというと、まだ多くのITエンジニアにとってあまりなじみのない世界かもしれませんが、農業は極めて大きな“構造”を持つ情報産業であると同時に、将来的には大規模化に伴う構造改革も予想されており、ITには大きな期待が寄せられています。また海外市場でのチャンスも広がっており、エンジニアにとっては極めてチャレンジングな分野です。技術面においても、Farmnoteのように大量データを扱う複雑な分析処理を、特定のユーザー向けに最適化するのではなく、幅広いユーザーに向けたWebサービスとして実装するのは、あまり前例のないチャレンジです。これからはぜひ多くのエンジニアに、農業ITに目を向けてもらえるとうれしいですね」

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