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スマホやIoT機器が生成するデータをお金に換える「IoTデータの証券取引所」と日本経済の行く末ものになるモノ、ならないモノ(73)(1/2 ページ)

IoT時代の日本は、“モノ”が吐き出す「データ」をフル活用して国を富ませる青写真を描いている。データ流通プラットフォームは、その中でも要となる大切な機能を提供することになるのだろう。「IoT情報流通プラットフォーム」を自称するスタートアップ、エブリセンスジャパンに聞いた。

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 日々使っているスマートフォン(スマホ)は、持ち主が意識せずとも、位置情報、動線情報、アクティビティー、ヘルスケア情報など、さまざまなデータを取得している。スマホが自動取得したそのようなデータを第三者に販売できるとしたら、あなたはどのように感じるだろうか。

 と言われても、にわかにはぴんとこないかもしれないが、近い将来、このようなC2B(Consumer to Business)のデータ販売ビジネスが本格化するかもしれない。スマホは、所持しているだけで、その持ち主に関係するあらゆる情報を常時取得している。そのような、所有者本人ですら記録されていることを意識しない情報を、それを必要としている事業者にビッグデータの一部として引き渡すための仲介ビジネスが登場した。


エブリセンスジャパンは、あらゆる“モノ”が吐き出すデータを市場原理の下で取引する市場を作ろうとしている(出典:エブリセンスジャパン)

 「IoT情報流通プラットフォーム」を自称するスタートアップ。それが今回紹介するエブリセンスジャパンである。IoT(Internet of Things)時代は、膨大なデータ、いわゆるビッグデータがネットに接続した“モノ”から吐き出される世界でもある。“モノ”をネットに接続することの最大の意義は、“モノ”が吐き出すデータをクラウドにアップロードして分析、解析した後、現実社会にフィードバックして業務や生活一般の課題解決に役立てる点にある。

 結構なことだと思う。ただ、漠然とではあるが、疑問に思う部分もある。「第4次産業革命」などと呼ばれるIoTだが、上記のようなフィードバックループが「革命」を名乗るほど大げさな話なのだろうか、という疑問だ。先日、幕張メッセで開催された「Interop 2017」の会場ではあちらこちらでIoTの文字が踊っていた。IoTデータのフィードバックループによるソリューションが各所で提案されており、来場者の多くが高い関心を寄せているのが見てとれた。

 だが、そこで語られているIoTの多くは、業務の効率化やコストダウンの一手法の域を出ていないように感じたのだ。「それって、本当に革命なのか? それは単なるOA(オフィスオートメーション)であり、FA(ファクトリーオートメーション)の進化型にすぎないのでは?」と自問しながら会場を後にした。

今のIoTは、サービスの高度化であり「革命」ではない

 IoTの解説でよく目にする事例がある。世界中で稼働しているブルドーザーやジェット旅客機からリアルタイムでデータを吸い上げ分析することで、保守管理や稼働管理に生かし、効率化やコストダウンを実現して、ユーザー企業から喜ばれているという、おなじみの事例だ。ネットに接続されたブルドーザーが製品の魅力を高め販売力の向上に結び付いていることは大いに理解できる。ただ、それは、サービスの高度化であり「革命」ではない。

 エブリセンスジャパン 代表取締役 最高技術責任者の真野浩氏は、このような既存のIoT事例を挙げながら、いみじくも力説する。「それらはイントラネット of Thingsにすぎず、Internet of Thingsには程遠い。そこに新しい価値は生まれない」と。では、「革命」と呼ぶにふさわしいIoTというのは、どのようなものなのか。


企業や事業領域で閉じたIoTデータの世界に横串を刺して、データ流通の新しい形を作ろうとしている(出典:エブリセンスジャパン)

 「“モノ”が排出した膨大なデータが、企業の事業領域や業界の垣根を超えてさまざまな用途に再利用される世界」(真野氏)こそが真のIoTだという。つまり、IoTのデータが企業など一定の閉じた領域内で循環するのではなく、領域の垣根を超えて社会に広く流通しなければ、IoT時代ならではの付加価値の高い新しいビジネスは登場しないというわけだ。

IoTデータのマッチングを提供するサービス

 そもそも論として「企業の事業領域や業界の垣根を超えてIoTデータが流通する」と言われても、「誰がどんなデータをどのように使うと、何ができるのか」という実例をこの目で見ないことには、いまひとつぴんとこない。とはいえ、現状、「イントラネット of Things」の域を出ない中、そこに実例を望むは難しいのだろう。

 と沈思していると、ふと思い出したことがある。今から20年近く前になるだろうか、IPv6に関する国際会議で村井純氏が「クルマがネットに接続されていれば、ワイパーの作動をサーバに集めることで降雨の状況をリアルタイムで詳細に知ることができる」と語っていたのを思い出した(参考)。実際にそういう実験も行われていたと記憶している。

 当時は、かなりぶっ飛んだ話として聞いていたが、これをIoTデータ流通になぞらえると、「クルマという事業領域のIoTデータを、天気予報を提供する会社が、垣根を超えて利用することでビジネスに生かす」という話になる。おそらく、このような形の異業種間のデータ流通が大規模かつ多角的に実施される状況を「領域を超えたデータ流通」と呼ぶのであろう。


エブリセンスジャパン 代表取締役 最高技術責任者 真野浩氏。無線LANのスペシャリストで、その昔、公衆無線LANサービスの立ち上げを行ったことでも知られている

 ただ、IoTデータが流通するためには、それ相応の仕組みやルールがないといけない。まず必要なのは、データを提供したい人と、データを手に入れて自社のビジネスに生かしたい人をマッチングする仕組みが必要になる。村井氏が挙げた例のように単純な構図であれば、クルマのワイパー作動情報を求めて自動車会社と相対で取引さればよいだけの話だろう。しかし、IoTが本格化して領域が多角化すれば、データの種別も増えるだろうし、欲するデータが複数の企業や業界にまたがることもあるだろう。そうなると、マッチングの場を専門的に提供するサービスが必要になる。

 そのようなマッチングの場を事業化したのが、エブリセンスジャパンだ。冒頭ではスマホが自動収集するパーソナルなデータを例に出したが、本格的なIoT時代には、個人だけではなく、企業や公的組織などもそれぞれのビジネス領域で膨大なデータを吐き出すであろう。エブリセンスジャパンは、それら膨大なデータの流通を仲介する役目を担おうともくろんでいる。

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