コーヒーのカクテルをいかが?――違いの分かる男は、違いを活用できる男よ:転職バーのハルカさん(4)
そこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」の転職活動は絶賛難航中。面接でヒドいことを言われ、ハルカさんになぐさめてもらおうと「転職バー」に立ち寄った彼の前に現れた、超絶かわいい3人娘「ファンシーメタル」。ガッツリさわるとモエちゃうぞ!
前回までのあらすじ
そこそこのITベンダーで働くそこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」がふらりと入った「転職バー」。バーテンダーの「ハルカさん」は首筋の匂いを嗅ぐと、相手が考えていることが分かるという特技を持っている。
「サディスティック・ミミ」や「フレディ」など、ちょっと変わった常連たちの手ほどきで、自分の欠点が少しずつ分かってきたシュウヘイ。だが、まだまだ転職成功までの道のりは遠そうだ。
あっ、シュウヘイだ。半ベソかきながらハルカさんの店に……さては、また面接でしくじったな。
畜生! 「キミ程度の技術者なら、ウチに腐るほどいる」だって? 「プログラム作れるだけなんて平凡で珍しくない」だって?
へん! そんなに珍しいのがいいんなら、エリマキトカゲとかオオサンショウウオでも集めて、世界珍獣博物館でもやりやがれってんだ、まったく。
ハ、ハルカさあーん。
困ったときには、ハルカさんか。まるでマザコンの幼稚園児だね。でも、今日は店にちょっと変わった先客がいるみたいだ。かわいらしい女の子たちが何かやっている。
キュートな笑顔に隠された!
ロック魂ここにあり!
うっかりふれると火傷する!
ガッツリさわるとモエちゃうぞ!
天使のロッカー!
ゲタ箱ロッカー!
ファンシ〜〜〜メタル!
……(退屈そうな顔)。
あら、シュウヘイ君。いらっしゃい。
何ですか? あれ。
アイドルになりたい子たちが、音楽プロデューサーに売り込んでるところよ。
音楽プロデューサー?
あの男性、ハルモト・ヤスシよ。
えええ! あの「コブシ坂99」や「ワンちゃん・クラブ」などのアイドルグループを世に出した、すごいハルモトさん?
そう。そのハルモトさんよ。彼の事務所が近所にあって、時々ここでアイドル志望の子の面接をしているの。
ハルモトさんほどの大物が面接するなんて、よほどすごい子たちなんですね。
……でも、ないみたい。真ん中の子が、昔お世話になった人の孫娘で、それで仕方なくってことらしいわ。
見た目はかわいいじゃないですか。
そうね。でも、それだけじゃあね。何か他にはない「魅力」がないと。「平凡」にかわいいだけでは……。
魅力……平凡……そ、そうですね……。
他にはない魅力……今のシュウヘイには、ちょっと耳の痛い言葉かな?
ハルモトさん。わたしたちの歌、聞いてください!
お願いします!
します!
歌……ねえ。
はい。魂焦げ付くヘビメタです!
お客さんたち、総立ちです。
興奮し過ぎて、卒倒しちゃいます!
まあ、聞いてみようか。
ありがとうございます!!!
シュウヘイ君、何かに怒ってる? 唐辛子みたいな匂いが……すごく強い。
首筋に顔を近づけないでも匂っちゃうなんて、シュウヘイ、相当、頭に来てるんだね。
実は、い、今、ずっとあこがれていたIT企業の面接を受けてきたんです。そしたら……僕が何年も何年も一生懸命に磨いてきたプログラミング技術を「そんなの珍しくもない」って全否定されたんです。「君のスキルなんて、ウチではまるで無価値だ」って!
ずいぶんひどい言い方ね。でも、シュウヘイ君の技術がその会社でまったく目立たないなら、入社しなくて良かったのかもしれないわ。
それは、そうですけど。
でも、全否定ですよ。無価値ですよ。一生懸命やってきたことを、そんなふうに言われたら……うっ……うっ……大体、ITしか特技のない僕が、そこを否定されたら……これから、どうしたら……うっ、うえーん。
シュウヘイくん、これを飲んで気持ちを落ち着けて。
ん? この香りは、コーヒー?
アイリッシュコーヒーよ。コーヒーにブラウンシュガーとアイリッシュウイスキーを加えて、生クリームをフロートさせたの。コーヒーはハルカ特製ブレンド。昔から違いが分かる男はコーヒーにこだわるって言うでしょ? 今のシュウヘイ君にぴったりだと思うのよ。
ファンシーメタルの3人が歌いだしたよ。
♪アータシのハートは、ロックンロール♪
♪アーナタを求めて、ロックンロール♪
♪あーあ、焦げ付いたあー、こころー♪
ハルモトさん。わたしたちの歌、いかがでしたか?
キミたち商店街のイベントに出てたよね。えっと「巣鴨商店街とげぬき地蔵歌合戦」だっけ? だったら、このまま巣鴨で頑張っていればいいんじゃないかな? キミたちの歌で、お年寄りたちが元気になってくれるんだろ?
えっ…でも……。もっと広い世界でたくさんの人に……。
はっきり言わせてもらうよ。君たちはかわいいし、歌もうまい。でもね……それだけなんだよ。
それだけ?
簡単にいえば、キミたちは「ありきたり」で「平凡」なんだよ。他のアイドルたちを押しのける「魅力」がない。
(……な、何だか……僕のことを言われてるような……)
芸能界でやっていくなら、もっとキャラが立ってなくちゃ無理!
じゃ、じゃあ、どうしたら……。
そんなこと、僕が教えて、その通りにやったって、それこそ没個性の極みじゃないか。自分たちで考えなきゃね。
キミたちが最も輝けるのは巣鴨ってことだよ、今のところ。僕、これから会議だから失礼するよ。じゃっ。
ハルモトが帰っちゃった。
何だよ、偉そうにしやがって!
要するに「今のままでいろ」ってことか? 転職なんか考えずに真面目に働けってか?
ちょっと、オッサン! 何、1人で熱くなってんだよ。
あれ、急にガラが悪くなってない?
当たり前やろ。ハルモトさんの前だから猫かぶってたけど、ウチラは本来「魂のロッカー」や。
か、関西弁?
ふざけたことヌかすと、しばき倒しますわ。
えー。イメージ狂うなあ。
おや? ハルカさんがシュウヘイを見つめて、何か考えてるぞ?
シュウヘイ君。
は、ハイ。
この3人を売り出す方法を考えてくれないかしら?
へっ? ぼ、僕が?
ええ。それを考えることは、シュウヘイ君のためにもなるわ、きっと。
で、でも、僕、芸能界のことなんて何も知りませんよ。
シュウヘイくん、お・ね・が・い。
アイデアだけでもいいの。ファンシーメタルのかわいさと実力はハルモトさんも認めてたでしょ。後は、キャラを立てるアイデアさえあれば……。
うーん。
シュウヘイ、考え込んじゃった。
ハルモトさんが言ってた「最も輝けるのは巣鴨」って、どういう意味だろう? ご老人をターゲットにしろということなら、全国介護施設ツアーとか、どうだろうか?
却下!!!!!
でも、活躍するフィールドや場所を変えたらキャラが立つことはあるかもしれないわよ。
フィールド? 場所? ……そうか!……で、でもなあ。
何か思いついたのか?
あ、い、いや……。
何や、言いたいことあるなら、言うてみいや!
も、もしかしたら海外ならっ……て。ロンドンやニューヨークなら日本のアイドルは珍しいし……。
なんてね。無理だよね……。
そのアイデア、悪くないかもしれないわよ。日本の少女がギンギンに決めたら、海外の人は驚くんじゃないかしら? ディファレンス イズ バリューよ。
違いこそ価値? 同じ能力でもフィールドを変えるだけで、生まれる価値もあるってことですか?
そう。このファンシーメタルには、そういう可能性があるような気がするの。それに……シュウヘイ君もね。
僕も?
シュウヘイ君、今日の面接で、「珍しくない」って言われたんでしょ? だったら、シュウヘイ君のスキルを珍しがってくれるところに行く選択肢もアリだと思うの。
価値は、誰よりも優れている人にだけあるものじゃない。平凡な人だって、場所を変えれば価値が生まれるんじゃないかしら?
私の友人でね、ExcelのマクロやAccessが少しできる程度の人がいたの。ベンダーで働いていたころはバックオフィスの仕事をしていたんだけど、小さな信用金庫に転職したらITのスペシャリストとして評価されて、いまではそこのCIOまで出世したのよ。
ExcelとAccessだけで?
そうなの。信用金庫にはPCを扱える人がほとんどいなかったからすごく重宝がられてね。もちろん、入った後にもいろいろ勉強したそうだけれど、その勉強も周囲の期待があったから。それに応えようとして頑張ったそうよ。
彼はそうやってスキルを高めた。そういう転職もあっていいんじゃないかしら?
ディファレンス イズ バリューか。なるほどね。そういえば、IT技術者としては全然なのに、たまたま裁判に詳しかったのが幸いして、政府の役人になり、本まで書いてるやつがいたなあ。僕の知り合いにも……。
シュウヘイ君は今までベンダーの採用試験ばかり受けてきたんじゃない?
そりゃあ、エンジニアですから……。
そこでさらにスキルを磨いて、誰にも負けない技術者になるのも1つの考え方。でも、場所を変える「スライド転職」も、1つの可能性じゃないかしら?
なるほど……。
うん! そうかもしれない。か、考えてみようかな。IT以外の会社も。うん。それがいいかも。
ちょっと! 何か自己完結しちゃってるけど、アタシらのことはどうしてくれんのさ。海外デビュー、させてくれるんでしょ?
いや……僕には……。
う、ウソやったんですか? ダマしたんですか? うちらをもてあそんで楽しんだんですね? 遊びやったんですね?
シュウヘイ君、何とかしてあげて。
そうだ。責任とったれや!
そ、そんなあ。ど、どうしよう……。
つづく
ハルカのワンポイントレッスン
自分の強みを生かしたかったら、必要とされる場所を探してみるのも1つの手よ。今の業界じゃ自分が平凡で何のスキルもないと思うのなら、他の業界の人と話してみるのもいいかもしれないわ。
テキスト:細川義洋
イラスト:アサミネ鈴/ad-manga.com
転職バーのハルカさん シリーズ
第1回 コアントローの香り……あなた、良からぬことを考えているわね
そこそこのITベンダーで働くそこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」がふらりと入った「転職バー」。美人バーテンダー「ハルカさん」に首筋の匂いをかがれて……シュウヘイ昇天!
第2回 取りあえずビール? それともビール“を”飲みたいの?
転職活動中のエンジニア「シュウヘイ」がやっと獲得した内定に難色を示す美人バーテンダーの「ハルカさん」。「仕事をゆずれ」とすごむ「シタロー」さん――「転職バー」は、今日も波乱のヨ・カ・ン。
第3回 ブランデーがお好きでしょ?――あなたに夢を見せてあげる
転職活動中のエンジニア「シュウヘイ」は、スキルや経験をアピールしてもなかなか内定が取れない。彼に欠けている“あるもの”に気付かせるために「転職バー」のバーテンダー「ハルカさん」が招集したのは、ちょっと(いや、とても)乱暴な彼女、「サディスティック・ミミ」だ!
激務な職場を辞めたいが、美女が邪魔して辞められない バックナンバー
IT企業で働く平凡なエンジニア梧籐 剛、27歳。美人上司と可愛い過ぎる後輩に挟まれて日々開発にいそしむ彼には、誰にも言えない悩みがあった……。
第2回 壁ドンされたって、ドキドキなんかしない……んだから……ね……
ここは都内のとあるIT企業。退職を希望する27歳のエンジニア梧籐 剛は、上司に辞意を伝えたのだが、なぜか今日も山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた……。
第3回 せんぱいにだけ伝えちゃう! わたしの素直な気・持・ち
27歳のエンジニア梧籐 剛は、忙し過ぎる業務に嫌気がさし、思い切って上司に辞意を伝えたが、あいかわらず山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた。早く辞めたいと焦りはつのるが、本人の心にも一抹の迷いが……?
第4回 ハートに火を付けて! 燃えさかる案件の中心で辞意を叫ぶ
思い切って上司に辞意を伝えた27歳のエンジニア梧籐 剛。しかし状況は変わらず、今日も山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた。早く会社を辞めたいと焦りはつのるが、後輩の椎子に「まずはキャリア設計が必要だ」と言われ……。
第5回 「false」を返すと「null」で上書きする、そんな上司と働いています
一日も早く辞めたい27歳のエンジニア梧籐 剛。「ぼくのやりたいことはこれだったんだ!」と気付いたものの、後輩の椎子に、まだまだキャリア設計が甘いと指摘され……。
第6回 右手に椎子、左手にリナ。僕、ほんとはしあわせなんじゃ……
ついに転職先を探し始めた27歳のエンジニア梧籐 剛。「僕、ようやく進むべき方向がつかめてきました」ところが社長にバレて……?
相変わらず辞められずに激務をこなす27歳のエンジニア梧籐 剛だったが、今日のアンドロイドのバグは……草?不可避wwwww?
可愛過ぎる後輩 椎子のサポートで、27歳のエンジニア梧籐 剛の転職に関する知識はだいぶ増えたのだが、肝心の転職活動がなかなか進まず、焦りはつのるばかり……。
業務(アンドロイド開発、ただし人型の)が小康状態に入り穏やかな日々を送っていた梧籐たちに社長から告げられたのは、まだ仕様があやふやなところが山ほどあるアンドロイドの緊急リリース命令だった。
第10回 アンドロイド(人型の)開発から、アンドロイド(人型の)による開発へ!
梧籐はあいかわらず山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた。しかし、ここへきて案件に異変が……?
山ほどの業務に追われ続ける梧籐。しかし、新しく部下(ただし人型アンドロイド)ができて順風満帆!?
第12回 そのしぐさが心変わりのサインだなんて、ボク知らなかったよ……
アンドロイド駆動開発プロジェクトのマネジャーである梧藤、流行に乗り遅れまいと夏風邪をひいて会社を休んでいたら、何やら異変が……。
第13回 False! True!! ヨヨイのヨイ! 開発合宿でプレイ☆ボール
リナが投げて椎子が打つ!同業他社チームとの交流試合に、アンドロイド開発チーム(物理)のマネジャー梧籐 剛はどう仕掛けるか?!
第14回 「せんぱい! ヤメてください」――椎子の決意にボクのドキドキが止まらない!
アンドロイド(物理)3体と共に取り組んでいたIoT開発がいよいよテスト工程まで進んできた。このプロジェクトが終わったら、何をしようかな……そうだ、た・い・し・ょ・く???!
「退職したい」「退職したい」と言い続けて、早2年半。どうやら本当に退職する日が来たようです。でも、その前に、この暴走屋形船を何とかしなくちゃ!
ドS美人面接官 VS モテたいエンジニア 転職十番勝負! シリーズ
野望を胸に秘めて転職を志す、とあるエンジニア(28歳)がいる。今日は一番の本命企業、X社の面接だ。準備万端、張り切って面接会場に向かうが……。
本命のX社の面接に落ちた彼が今回向かったのは、第2志望のY社。今度こそ、面接を突破することができるのか……。
2回連続で面接に落ちた彼だが、わずかな望みを失わず、今日も雨の中を面接会場に向かう。しかしそんな彼を、またしても試練が待ち受けていた……。
特別企画 きのこる先生×ドS美人面接官 2015年は“モテ”エンジニアに絶対なる!
Web企業の人事担当「きのこる先生」と、「ドS美人面接官」が、密会という名の単なる飲み会で、この先生き残るエンジニアについて徹底議論を交わす……
提供:株式会社マイナビ
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