デジタルビジネスの成功を支える「イベント指向IT」とは:Gartner Insights Pickup(34)
デジタルビジネスの進展で、データ中心主義だけでは不足するようになっていくだろう。ITはイベント(事象)への指向性を高めることが要求されるようになる。アプリケーションリーダーは、“イベント思考”を戦略の技術的、組織的、文化的な基盤に据えなければならない。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
「市の中心部で自動車が事故に巻き込まれる。目撃者が関連当局に通報するのではなく、契約ソフトウェアによって事故が検知され、市の緊急サービスセンターに連絡が入る。対応チームは現場に派遣され、近くの病院の緊急治療室、保険会社、カーサービスステーションなど関係者が通知を受け、行動を取る準備を整える」
このシナリオは、デジタルビジネスにおいて、イベントドリブン(駆動)でイベント処理を行うITの根本的な役割を示している。デジタルビジネスのこのイベントドリブンの“神経系”は、より迅速かつ賢明なビジネス対応という戦略的な強みをもたらす。
この例では、市はさまざまな局面(交通事故、インフラの障害、テロの脅威、救急事態など)を素早く捉え、リアルタイムに賢明な対応を取ることができ、市民の安全で快適な生活をより効果的に支援する。多くの企業が市の行政サービスのエコシステムを形成しており、独自のイベントドリブンITインフラでビジネスアラートに対応する態勢を整えている。
「デジタルビジネスの重要な特徴は、イベントセントリックであることだ。すなわち、常にアンテナを張りめぐらせ、必要な対応を取る準備を整え、学習を続けている」。Gartnerフェローであり、バイスプレジデント兼最上級アナリストのイェフィム・ナティス氏はそう指摘する。
「そのため、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを指揮するアプリケーションリーダーは、“イベント思考”を戦略の技術的、組織的、文化的な基盤に据えなければならない」(ナティス氏)
Gartnerは、2020年までにイベントドリブンITに関する幅広い力をつけることが、グローバル企業の大半のCIOにとって優先課題の上位3つに入るだろうと予想している。
ビジネスイベントを捉え、対応する
デジタルビジネスの文脈では、“ビジネスイベント”は注目すべき状態または状態の変化の発見を受けて、デジタルに記録されるあらゆることを指す。例えば、購入注文の完了、飛行機の着陸、部屋の騒音レベル信号は、いずれもデジタルに報告されるイベントだ。一部のビジネスイベントやイベントの組み合わせは、ビジネス行動を取ることが求められる、検知された状況である“ビジネスモーメント”を形成する。
「重要度の高いビジネスモーメントは、さまざまなものや関係者――例えば、異なるアプリケーション、ビジネス部門、パートナーなどに影響するモーメントだ。影響される関係者が多いほど、そのビジネスモーメントはインパクトが大きい」とナティス氏は説明する。
「また、考慮されるコンテキストデータやイベントタイプが多いほど、よりきめ細かな検知が必要になる。そして、ビジネスモーメントに対応した企業のビジネス行動をIT部門がより高度に支援するほど、企業のデジタルトランスフォーメーションは前進し、ひいては競争力の向上につながる」(ナティス氏)
デジタルビジネスでは、ソーシャルなどのイベントストリームやパートナーエコシステムのビジネス、社内の業務、IoT(モノのインターネット)上のデバイスなどをモニタリングしてビジネスイベントを捉えて対応している。
デジタルビジネスにおいては、企業が的確な意思決定を行いコンテキストを踏まえて業務を展開するには、過去の取引に加え、顧客、従業員、パートナー、ブランド、場所といった要素の履歴データと、ビジネスへのそれらの影響に関するデータを収集し分析しなければならない。だが、最も影響の大きいコンテキストデータは、リアルタイムの状況を示すデータであることが多い。リアルタイムコンテキストを考慮して意思決定を行うには、デジタル企業はイベントストリームに常に目を光らせる必要がある。
新しい考え方と文化の変革に備える
イベントドリブンITはデジタルビジネスに不可欠な基盤だが、イベントドリブンアーキテクチャ(EDA)を広く効果的に活用することは、特定の技術を実装したり、あらかじめ定められたアーキテクチャ設計ガイドに準拠したりするだけではできない。新しい考え方や文化の変革も必要だ。何よりも、おなじみのデータ中心アプローチから「ビジネスイベントストリームの継続的な検知、評価、対応の重視」への転換が求められる。この意識が“イベント思考”文化の要であり、デジタルビジネスの長期的な成功の前提になる。
動的なビジネスを構築する
イベント思考では、継続的に適応とイノベーションが行われる動的なビジネスの構築が構想されている。こうしたビジネスにおいては、ITネットワークが人間の神経系に似た役割を果たし、常にアンテナを張り、常に思考し、常に学習し、常に備えている。これは、長期にわたって温存されてきた、機動性に欠ける従来のアプリケーションの“ストーブパイプ”モデルの考え方とは全く対照的だ。そのため、企業はデジタルビジネスで要求されるアジリティやスケーラビリティを持たせようと四苦八苦している。
「人々は戦略的な思考をしようとするときに、自分がイベント思考に転換しつつあることが分かるだろう。今では、そうしたときには個々のデータ中心型アプリケーションだけでなく、ダイナミックな動きを見せるビジネスイベントやビジネスモーメントにも目を配らざるを得なくなっているからだ。それらの影響はビジネス全体に加え、ビジネスパートナー、ライバル企業、顧客のエコシステムに及んでいる」(ナティス氏)
ソフトウェアアーキテクチャを進化させるためだけに、考え方を根本的に変えようとする人はほとんどいない。だが、現在進展しているビジネスイノベーションの広がりを考えると、そのように考え方を変えずに済む人はほとんどいないだろう。
出典:Adopt Event-Centric IT for Digital Business Success(Smarter with Gartner)
筆者 Christy Pettey
Director, Public Relations
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