SASのCEOとCTOが、「機械学習やAIは、単体で取り組むものではない」と語る理由:「Googleとは既に競合している」
アナリティクス/機械学習ツールのベンダーであるSASは、ある意味で既にGoogleと競合しているが、オープンソースのツールにはできないことが可能だという。同社のCEOとCTOに、その意味を聞いた。
「World of Tanks」などのオンラインゲームで世界的に知られるWargamingは、「ゲームにおけるユーザー行動分析、不正検知、収益の最大化など、さまざまな分析で、SAS Instituteのアナリティクスツールを使っている」と、SASが2017年10月中旬にオランダ・アムステルダムで開催したイベント、「SAS Analytics Experience」で話した。オープンソースのツールから乗り換えたのだという。
SASの顧客といえば、容易に思い浮かぶのは金融機関や製薬会社だが、こうした新しい顧客および用途でも使われている。同社はIoT(Internet of Things)にも、積極的に取り組もうとしている。
SASの共同創業者でCEOのジム・グッドナイト(Jim Goodnight)氏と、SASのエグゼクティブバイスプレジデントでCTOのオリバー・シャベンベルジェ(Oliver Schabenberger)氏に、機械学習/AIのトレンドと同社の取り組みについて聞いた。
Googleとは既に競合している〜SAS CEOのグッドナイト氏
SASのCEOであるグッドナイト氏は、分析/機械学習/AIのトレンドについて、次のように話す。
「ますます多くの企業が、データアナリティクスに頼るようになってきている。従って、当社の製品へのニーズも高まっている。『AI』については、普及スピードが若干遅くなると考えている。とはいえ、私たちにとってAIとは、モデルの構築と同義だ。人々が、求めるモデルについて、何度も試行錯誤して、最適なパラメーターを見つけようとしている。この部分は、マシンが自動的にやってくれる段階にはない。『AI』だからといって、『マシンが学習する』わけではない」
つまり、AIは機械学習の延長線上にあるという。後述の通り、SASは同社のツールで、これまでの機械学習機能を進化させ、ディープラーニングに対応した新バージョンを、2017年中に提供開始する。
では、「(機械学習フレームワーク/ツールを積極的に開発している)Googleなどの企業と、今後競合していくという認識はあるのか」と聞いてみた。グッドナイト氏は、「既に競合しているといえる」と答えた。
だが、SASのツールは、Googleを含めたオープンソースの関連ツールとは、根本的に異なると指摘する。
「SASのツールでは、データディスカバリに始まり、データ変換(ETL)、モデルの構築、そして構築したモデルの活用まで、必要な機能を全て提供している。他にこうした機能を提供しているところはない」
「ある顧客は、1000万ドルをオープンソースのツール群に費やした挙句、構築したモデルを実装するには、別の言語で書き換えなければならないことに気付いた。これはヒューマンエラーの原因にもなる。ますます多くの顧客が、全てを心得ていて、(アナリティクスに関する)最新の動きを取り込んでくれる単一のベンダーが、全ての機能を単一のパッケージとして提供してくれることを望むようになっている」
「Pythonのユーザーも、私たちのパッケージを呼び出してくれればいい。(一般的なオープンソース製品との違いとして)私たちの製品は、大規模な並列処理に対応している。数時間かかるようなジョブを、数分で終えられた例もある」
顧客はディープラーニングだけをやりたいわけではない〜SAS CTOのシャベンベルジェ氏
SASのエグゼクティブバイスプレジデントでCTOのシャベンベルジェ氏は、「企業は機械学習/ディープラーニングだけをやりたいわけではない。企業内には、さまざまなアナリティクスを適用すべき課題がある」と話す。
SASは206年に、同社の統計解析/機械学習製品群を、包括的にコンテナベースのプラットフォームへ移植していくと発表。「SAS Viya」と名付けられた新製品群を、2016年秋から段階的に提供し始めている。なお、これまでの製品群をやめるわけではない。Viyaと同期する形で、機能強化を図っていく。
Viyaのポイントは3つある。1つ目は分析/機械学習ツールを、従来のSAS言語だけでなく、Python、R、Java、Lua、REST APIを通じて活用できること、2つ目は製品間のインタフェースの統合が進められること、3つ目は、クラウドとの親和性が高くなり、拡張性が得られることだ。
特に1つ目のポイントは、SASのツールのユーザー層を積極的に広げる効果をもたらす他、他のソフトウェア/サービスとの連携で、ソリューションを作りやすくする効果がある。3つ目のポイントについては、複数のクラウドベンダーと、Viyaの提供について話し合っているところだという。「特にViyaを基盤としたアナリティクスSaaSが広がれば、中堅・中小企業にとっても使いやすい、新たな選択肢になる」と、シャベンベルジェ氏は話している。SASは自社としても、SaaSとしてViyaを使った分析サービスを提供すべく、準備を進めている。
SASはViyaの新バージョン3.3を2017年12月に提供開始するが、この新版には重要な機能強化が盛り込まれる。目立つ新機能には、ディープラーニングへの対応があるが、シャベンベルジェ氏によると、最も重要な強化ポイントは、同氏の言う「企業内のさまざまなアナリティクス課題」に、チームあるいは企業として対応する機能の拡充だ。
「新バージョンでは、ビジュアル分析製品のインタフェースの統合を完成させる。これにより、ユーザーは『SAS Visual Analytics』『SAS Visual Statistics』『SAS Visual Data Mining and Machine Learning』といった製品間を、単一のワークフローとしてシームレスに移動できるようになる。(このことが重要な理由は、)アナリティクスを民主化し、人々によるアナリティクスの活用を容易にしたいからだ。データの探索から機械学習モデルの構築、そして良好な結果が得られた場合にはこれをアセットとして社内に提供するという一連の流れを、円滑に行える」
「もう、チーム内でサイロのような分断は起こらない。チームは単一のルック&フィールの下に協力して作業ができる。これほど統合された製品群は、今まで存在しなかった。私はこれを非常に誇りに思っている」
「Viyaでは、ビジュアルインタフェースに加えてプログラミングインタフェースも使える。各ユーザーが好みに応じてどちらを使ったとしても、その下には単一の共通基盤が動いているため、作業を引き継ぐこともできるし、チームとしての生産性が向上する」
ディープラーニングもアナリティクスプロセスの一部
Viyaの新バージョン3.3は、ディープラーニングにも対応する。
「この機能は非常に重要だ。現在、ディープラーニングではCaffe、TensorFlowなど多数のツールがひしめいている。しかし、顧客はディープラーニングを適用すべき問題だけを抱えているわけではない。顧客におけるアナリティクス課題は多岐にわたる。ニューラルネットワークは、アナリティクスのワークフローの一部だ。従って、私たちは単一のツールで、全てのアナリティクスニーズに応えなければならない。同時に新バージョンでは、GPUもサポートする」
IoTをアナリティクスの観点から見るとどうなるか
IoTについてシャベンベルジェ氏は、「IoTはブームになっているが、どのように実装すればアナリティクスの価値を高められるかを、顧客にもっと理解してもらう手助けをしなければならない」と話す。
具体的には、多くのケースでリアルタイム、あるいは適切なタイミングでのアナリティクスが求められるため、「ロジックをエッジに対してプッシュする必要がある」と同氏は言う。
「『分散アナリティクス』という用語は、これまでアナリティクス処理を多数のコンピュータで実行することを表現するだめに使われてきたが、今後は複数のデバイスに分散して行うことを指すために使うべきだ」
つまりIoTでは、コンピューティングモデルが大きく変化する可能性がある。
「当社では、『イベントストリーム処理』あるいは『ストリーミングアナリティクス』とも呼べる技術を開発・提供しているが、データに触れる瞬間に、アナリティクスを提供すべき場面が増える。現在は、デバイスからデータセンターにあらゆるデータを送り付けることが多いが、知見の得られないような、重複した、変化のないデータを常時送ることに意味はない。そこで例えばCisco Systemsの産業向けルータで、当社のアナリティクスソフトウェアを動かす提携をしている」
SASではIoT事業部門を設置。シャベンベルジェ氏がこれを統括する。だが、IoTは本質的に実装の個別性が高い。これにどうアプローチするのか。
「IoTにおける最大の課題は、予防保守など、ある用途に共通なパターンをまず見出すこと。そしてこの共通なパターンに基づく技術レイヤーを構築した上で、タービンエンジンや貨物列車など、個別的要素を組み込んでいくことになる」
「重要なのは『選択と集中』だ。当社では、製造業、ヘルスケア、小売業、自動車産業に注力する」
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