もはやテクノロジーだけが差別化の源泉になる時代ではない――日立製作所:特集「Connect 2018」
ビジネスとITが直結している今、テクノロジーを使った課題解決、価値の創出の在り方にも“変革”が求められている。では変革をスローガンに終わらせず、実現するためには何が必要なのか? 日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット CEO 執行役専務 小島啓二氏に聞いた。
ビジネスゴールを起点に“ITのトータルな仕組み”が求められる時代に
――2017年は御社にとって、どのような1年でしたか?
小島氏 2017年、弊社では金融、公共をはじめ各業種でのSI事業、データストレージなどのプラットフォーム事業、アナリティクス、AI、IoTといった新分野の事業、それぞれを順調に伸ばすことができました。特に印象的だったのは、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の文脈において、この3つを統合的に語れるようになってきたことです。
それはお客さまも同様で、従来のようにサーバ、ストレージなどの導入を個別に考えるのではなく、「データから価値を引き出すためにはどのようなプラットフォームが必要か」といった具合に、達成したいビジネスゴールやKPIを起点に、ITの仕組みをトータルに考える流れに変わってきた。つまり「ビジネスとITが直結している」という認識が大幅に高まっているのです。この1年は、弊社としても各事業の統合的な推進につながる非常に重要な年になったと考えています。
一方で、DX推進を支援する際の課題もはっきりしてきました。1つは「トランスフォームに向けたロードマップの作成」です。既存資産の新しいプラットフォームへの移行は一朝一夕にできるわけではありません。例えばIoTのように物理的なモノが絡む場合、既存資産や物理的な制約に束縛されます。移行の優先順位やリスクをしっかりと分析して進めなければデジタル変革はうまくいきません。よって弊社としては、「お客さまのスピード感に合わせて、新しいものに移行するためのロードマップを共に作っていく体制」の高度化・確立が重要だと考えています。
2つ目は「価値の再現性の担保」です。例えば「データを活用して工場のオペレーションを最適化した」というユースケースがあっても、そのソリューションを他の工場にそのまま適用すれば同じように価値を引き出せるわけではありません。ビジネスの現場それぞれに個有の「環境」「前提条件」「業務プロセス」などがあるためです。つまり、単にデータ活用のソリューションを適用するのではなく、「各社個有の条件に合わせながら、迅速かつ効率良くデータを価値に変えるトータルなノウハウ」を持つ必要がある。このノウハウを洗練させていこうと考えています。
そして3つ目は「契約」です。DXの取り組みはトライ&エラーを繰り返す必要がありますが、ビジネスとして推進するためには、お客さまと弊社のプロフィット/リスクを明確化し、シェアすべき部分はシェアするといった「契約」の形に落とし込む必要があります。契約に至るまでのPoCをどのようなステップで行い、何を押さえておけば共に自信を持ってDXに踏み出せるのか。お客さまとの取り組みを重ね、弊社自身が知見を蓄積していかなければなりません。それが2018年の目標の1つです。
総合力を持って、最終消費者に価値を届ける
――確かに、IoT、AIなどの取り組みには多くの企業が関心を抱いていますが、「実践のステップが分からない」「ROIやリスクを見積もれない」といった理由で足を踏み出せなかったり、他社事例のようにうまくいかず挫折してしまったりするケースが目立ちます。
小島氏 そうですね。しかしそれは日本企業に限ったことではありません。海外でもかなりの投資をしながら、支援ベンダーとの契約が途中で切れてしまったために、以降の取り組みが進められないといったケースをよく耳にします。その意味で、日本のシステムインテグレーターに対する期待は大きいと考えています。
日本のSIerには「プロジェクトを最後までやり切る」という伝統的な文化があります。それがしばしばロスを生む原因にもなっているため、前述のような「契約」が重要になるのですが、「価値を生むまでやり切る、最後まで付き合う」というマインドセット自体は海外でも見直されつつあるように思うのです。お互いにリスクをシェアしながら「共に価値を協創するパートナー」としてのSIerの価値は、今あらためて高まっていると感じます。
――お話を伺っていると、ビジネス起点で課題に応える「SIerとしての総合力」に重きを置かれていることをあらためて感じます。そのためには多様な技術力を持つことが不可欠ですが、パートナーと組むならどのような企業を選びますか?
小島氏 近年、IT業界は大きく3つのプレイフィールドに整理されてきたと見ています。1つはクラウドのプラットフォーム上であらゆる価値を提供するプレイヤー。2つ目は、エッジ側の多様な機器を持ち、それらをベースにシェア拡大を狙っているプレイヤー。そして3つ目が、クラウド上のサービス、エッジ側の機器、またネットワークなどさまざまな要素を組み合わせて「1つのビジネスソリューションを顧客企業と共に作る」プレイヤーです。弊社はこの3つ目に当たります。
よって、いたずらにパートナーの数を増やすのではなく、Microsoftのようなクラウドプロバイダー、三菱電機のようなエッジ側のプレイヤー、シスコのようなコネクティビティをもたらすプレイヤーなど、プレイフィールドごとにきちんとリスクをシェアできるベンダーを厳選して、緊密なパートナーシップを構築していきたいと考えています。
――ではそうした総合力を持って、2018年、何とつながりますか?
小島氏 最終的には「生活者」とつながりたいと考えています。弊社のバリューチェーンには多数の企業が参加しています。そのうち、まずは弊社と直接取り引きがある企業のデジタル化を支援して効率化を図る。すると、「その企業の顧客」に価値を提供することにつながる。さらに、その顧客を支援すれば「顧客の先にいる顧客」に価値を提供することになる。このように常に最終消費者を見据え、バリューチェーンに沿って価値を伝播させていけば、生活者、ひいては社会全体のQoL(Quality of Life)向上につなげられる。これが弊社が掲げる「社会イノベーション事業」の実現だと考えているのです。2018年は、直接取り引きがある企業とその顧客まで、着実につながっていきたいと考えています。
これからのIT人材像とは?
――社会全体に価値を提供するための「総合力」というわけですね。
小島氏 そうですね。ただ、そのためには「技術力」も大切ですが、それ以前に「お客さまと“対話”ができること」――つまり「お客さまの業界/ビジネスの実態をよく知っており、共感を獲得できること」が重要だと考えます。これによってさまざまな課題やニーズを聞き出し、共に考えることができるからです。事実、顧客対応を行うフロントスタッフの多様性/専門性と、ニーズを実現する技術力を併せ持っていることが、海外も含めて弊社が評価されるポイントだと考えています。
というのも、もはやテクノロジー自体が競争力の源泉になる時代ではないと思うのです。ビジネスとITは分断されたものではなく、テクノロジーが“水、空気、お金に次ぐコモン”になっている。人々の生活、社会をより良くしていくために、テクノロジーを手段としていかに使いこなしていくかが問われている。従って、従来のようにテクノロジーの世界に閉じることなく、幅広い教養と柔軟な問題解決力を持つことが、弊社に限らず、IT人材にとって重要になっていると思うのです。イノベーションも、リベラルアーツのような幅広い教養と、ITスキル、業務知識を組み合わせることで生み出せるものだと考えます。
また、昨今のキーワードである「つながる」こととは、すなわち「壁がなくなる」ということ。「私はIT担当」「私は事業部門」といった具合に、自身の役割や思考を制限することなく、「デジタルトランスフォーメーション」というキーワードの下、さまざまな可能性を共に考えてみることが大切だと思います。
特にITに携わってきた方が他の分野を学ぶのは、ビジネスサイドの方がテクノロジーを学ぶよりハードルが低いはずです。ITの世界に閉じこもらず外の世界にどんどん出て行くと、日本のIT人材は世界の期待に応えられるようになっていくと思いますね。日立製作所としても多様な事業領域を持っていますので、例えばオープンラボで社外の方と一緒に実験をするなど、これからのITを皆さまと共に育て、創っていきたいと考えています。
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