そのまま移行には“ワナ”がある――実務で本領発揮する「SAP S/4HANA」移行の最適解とは:2025年に迫る「SAP ERP 6.0」の保守終了
2025年に迫るSAP ERP(SAP ECC 6.0)の保守期限。さまざまな選択肢がある中、ユーザーは何がベストかを見極めようと様子を見ているのが現状だろう。しかし、それでは間に合わないという懸念が出始めている。そのような状況で、1996年からSAPのERP製品でビジネスを展開する三菱ケミカルシステムが行う提案とは、どのようなものなのだろうか。
時間がない、人材が足りない、サービスを受けられない
SAPのERP(Enterprise Resources Planning)パッケージ「SAP ERP 6.0」やそのコアプログラム「SAP ECC(ERP Central Component) 6.0」、業務アプリケーションパッケージ「SAP Business Suite 7」などの保守期限が2025年で終了する。保守期限終了後、これらパッケージは保守が利用できなくなるので、SAPは後継のビジネススイート「SAP S/4HANA」への移行を推奨している。
多くの企業にとってSAP S/4HANAへの移行は「まだ先のこと」という認識のようだ。頭では理解していても、7年後を見越して基幹システムの移行プランを検討したり、具体的に移行を進めていたりする企業は少数派だ。実際「具体的な移行計画はまだ立てていない」「移行のベストプラクティスやツール、ソリューションが出そろってから対応する」という声はよく聞かれる。
しかし、そうした態度を続けることは大きなリスクを招きかねない。というのも、SAP S/4HANAへの移行は、これまで行ってきたERPシステムの更新や基幹システムのクラウド移行などとは勝手が全く異なるからだ。三菱ケミカルホールディングス(MCHC)グループのIT機能会社である三菱ケミカルシステムの加藤良一氏(ICTインフラ事業部インフラサービス部)は、次のように話す。
「SAP S/4HANAには、これまでのSAP ERPと比べてデータのテーブル構造が変わっているものが多くあります。そのため、移行の前にマスターの見直しやUnicode対応といった作業が必要になる場合もあります。移行パスも単にインフラや基盤を変更すればよいわけではなく、段階的にステップアップする必要があります。また2020年にはWindows 7のメインサポートが終了します。タッチパネルに適したHTML5ベースのGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)『SAP Fiori』をはじめとするSAP S/4HANAの新機能を享受するならWindows 10への移行も必要です。しかしWindows 10移行を考えると、幾つかの要素が複雑に絡んでくるため、対応できる技術者や環境、知識が必要になります。準備や移行期間を踏まえれば、今から取り掛からなければ間に合わないケースが出てくるのです」
もちろん、ベストプラクティスやツール、ソリューションが出そろうのを待つのも正しい選択肢の1つだ。しかし、そこで懸念されるのは、SAP S/4HANA移行のノウハウを持ち、それを駆使できるパートナーやコンサルタンティングファームでの人材不足だ。三菱ケミカルシステムの矢野信彦氏(ICTインフラ事業部インフラサービス部)は、こう説明する。
「2020年頃からSAPコンサルタントの数が足りなくなるといわれています。SAP S/4HANAへの移行は、これまでのSAPシステムの移行作業よりもさらに専門的な知識やスキルが求められます。トラブルを減らすためには実際に検証作業を行ってきた経験や実績が必要です。ただ、そうしたSAPコンサルタントを保有する企業は限られます。そのため、SAP S/4HANAへ移行したいときに最適な移行サービスを受けたくても受けられないケースが出てきます」
時間がない、人材が足りない、サービスを受けられない。そんな事態が迫っているのだ。
移行先となるSAP S/4HANA、導入メリットと課題は
SAP ERPをSAP S/4HANAへ移行するメリットは多い。一番のメリットは、「SAP HANA」というインメモリデータベースを用いることによるパフォーマンスの向上だ。三菱ケミカルシステムが実際に移行作業を行って検証してみたころ、同社のSAP ERP 6.0で7〜8分かかっていた勘定明細をはじめとする照会は平均で2〜30秒まで短縮されたという。数十倍から数百倍レベルでの高速化が期待できるのだ。
また、データベースアクセスを高速化するため、トランザクション処理(OLTP)と分析処理(OLAP)を統合することも可能だ。集計テーブルを使わずにトランザクションデータからリアルタイムに分析レポートを表示できる。月次処理が閉められないと経営の情報が分からない企業にとっては革新的な体験だ。
移行後の環境についても、オンプレミスだけではなく、VMwareの仮想環境やプライベートクラウド、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureなどのパブリッククラウドなど、さまざまな選択が可能だ。
この他、非常に高いレベルのデータ圧縮、SAP Fioriの活用、将来的には機械学習や予測機能を活用したビッグデータ/IoT(Internet of Things)関連機能「SAP Leonardo」の導入が可能になるなど移行メリットは多い。
メリットが多い一方で、移行には課題も付きまとう。
「かつては、SAPの製品ポートフォリオの中心にいたERPを取り囲むようにさまざまな製品が設計、配置されていました。しかし、今中心にいるのはSAP HANAであり、SAP ERPはその上で動くアプリケーションの1つという位置付けです。このため、SAP S/4HANAのメリットを引き出すには、SAP HANAに合わせた設計や運用が求められます」(加藤氏)
例えば、アドオンだ。ERPといえば、国内の業務に合わせていかにカスタマイズするかがカギであり、それを担っていたのが独自開発のアドオンだった。しかし、そうしたアドオンは、SAP S/4HANAでは動かなくなる可能性が高い。データのテーブル構造が変わるため、改修する必要があるからだ。
Unicode対応も課題だ。SAP S/4HANAに移行するためには文字コードを事前にUnicodeに変換しておく必要がある。しかし、SAP S/4HANAの前世代「SAP R/3」時代から引き継いで利用してきた多くユーザー企業がUnicode対応を済ませていないのだ。
さらに、クラウド環境についても、パブリッククラウド環境では提供されるIaaSのリソースが固定化されていたり、柔軟性に乏しかったりする。クラウドサービスによっては、SAP R/3のころから活用している「JP1」や「HULFT」といった連携するソフトウェアの利用がサポートされていないという問題もある。
「実際、一部ソフトウェアがこれまで通りに利用できないケースが多く、結果として、SAP S/4HANAに移行したもののメリットをうまく引き出せないということになりかねません」と、三菱ケミカルシステムの廣谷信明氏(ICTインフラ事業部インフラサービス部)は説明する。
三菱ケミカルシステムが提案するSAP S/4HANA移行の最適解
そのような課題に対し、三菱ケミカルシステムが提案するのが、同社が展開する独自クラウド環境でのワンストップサービスの利用だ。同社は、MCHCグループの国内外500社、約7万人にERPを含めたITサービスを提供する一方、1996年からSAPを中心としたERP導入コンサルティングやIT基盤サービスを展開してきたERPのプロフェッショナル集団だ。
「国内外でSAPソリューションの導入実績があり、事業拡大やビジネス変更に応じて、安定していて、かつ、柔軟性の高い企業基盤の環境構築をサポートできます。最大の強みは、経験と実績に基づいて、導入コンサルティングから、構築、運用保守までをオールインワンで提供できることです」(矢野氏)
そうした経験が最大限に発揮されたのが、2017年4月に三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社統合で誕生した三菱ケミカルのシステム統合プロジェクトだ。新会社発足に合わせて、3社の会計システムを統合し、その基盤にはSAP HANAを採用した。注目すべきは、独自のクラウド環境と、SAP HANA環境を構築するための同社オリジナルのテンプレートだ。
「クラウド環境は、SAPが進めていたテイラードデータセンター統合(TDI)というハードウェア採用モデルと、VMware vSphereのクラウドプラットフォームを活用しました。統合会計システムは、従来、数分を要していた5〜6万件の検索処理が1秒以内で完了するなど、高いパフォーマンスを発揮しました。また、SAP HANAはインストールしただけでは稼働しません。非常に多岐にわたるチューニング作業が必要です。このシステム統合プロジェクトで使用した構築テンプレートでは、インストール作業だけではなく、ネットワークやストレージとの接続、バックアップの設定など極力自動化しています。これにより、24時間かかっていた構築作業を4時間に短縮できました」(加藤氏)
このクラウド環境やテンプレートはソリューションとして外販もされている。それが「SAP HANAマネージドクラウドサービス」だ。
「SAP HANAマネージドクラウドサービスは、プロフェッショナルサービスと運用保守サポート(SAPベーシス運用、アプリケーション運用)をセットで提供しています。SAP HANA活用のロードマップの策定支援からスタート。SAP HANAの移行を起点に、移行後の運用保守サポートまで、お客さまのSAP HANAライフサイクルを、トータルでご支援できます」(廣谷氏)
具体的な移行作業としては、現状のSAP ERPのデータベースをいったんSAP HANAに移行し、「SAP Business Suite powered by SAP HANA」と呼ばれる構成でシステムを作ることを三菱ケミカルシステムは推奨している。
「現在利用しているデータベース製品をバージョンアップし、2025年までしのぐ方法もあります。しかし、将来必ずSAP S/4HANAを採用するのであれば、この方法は得策ではありません。われわれも経験して分かったことですが、バージョンアップせずに、SAP HANAへ移行した方が、その後のプロセスや時間を大幅に短縮できます。既存のデータベースのバージョンアップは、課題の先送りにしかならず、結果的に将来の貴重な時間をロストしかねません」(加藤氏)
SAP HANA化するのであれば、Unicode化対応も避けられない。直接データに変更が加わるUnicode化対応は、十分な知識と検証がなければ、現場の混乱も招きかねない。
SAP HANAマネージドクラウドサービスが持つ4つの特長
SAP HANAマネージドクラウドサービスの特長は、大きく4つある。
1つは、専用環境の迅速な構築とシステム稼働後の運用設計の省力化だ。環境の構築では、同社のノウハウが集約された独自テンプレートを活用し、稼働に必要な機能がプリセットされたSAP HANA環境を最短4時間で提供する。また、稼働後の運用設計については、構築テンプレートを使ってシステムの基本チューニングから、必要な監視項目、各種ジョブ、バックアップ設計まで、徹底的な自動化と高速化を図る。
2つ目は、基盤の柔軟なスケールアウトと低コストの実現だ。サービス提供基盤にTDIを採用したことで、将来の拡張性と柔軟性を考慮した運用が可能である。また、テナント個社別にプライベートクラウドに近い柔軟な機能拡張が行える。この提供基盤は、MCHCグループの共通仮想基盤を活用したクラウドサービス形態で提供されるものであり、新規設備投資を抑えることでコストメリットの高い価格帯を実現している。
3つ目は、基幹システムを安定的に運用するための稼働率の維持だ。基幹系システムをベースに設計されているため、稼働率は99.99%以上に達する。このクラウドサービスは、MCHCグループの基幹システムを45年にわたって維持してきたノウハウと実績が生かされている。他社パブリッククラウドサービスでは難しい、リソースの拡張や、アプリケーションの各種チューニングはもちろん、JP1やHULFTといった連携ソフトウェアの保守要員も取りそろえている。きめ細かい機能設定と拡張が可能だ。
4つ目は、サービス品質の高さだ。まず、SAP BASISとアプリケーションの運用保守をセットで提供するため、SAP HANAとERPの運用を一元化できる。これにより、運用保守のシンプル化が実現可能だ。また、運用サービスはITサービスマネジメントの国際規格「ISO 20000」にのっとったサービス品質で提供する。
「弊社は、現在約30人いる運用メンバーの効率化と顧客に提供するサービスレベルを均一にすべく、国際規格であるISO 20000の認証を取得しました。ISO 20000取得企業は国内で約200社、その約半分がデータセンター事業者であり、SAP HANAのサービス提供を行う企業は現地点では数が少ない状況です。SAP HANAのテクノロジーや制約は日々変化しています。このような製品でも弊社は、お客さまと締結するサービスレベルの契約にのっとり、安全で改善活動が保証されたサービス提供を目指します」(廣谷氏)
こうした優位性は、SAP S/4HANA移行の障害となる課題を解決し、企業にさまざまなメリットをもたらす。
「SAP S/4HANAのSには、シンプルという意味も込められています。SAP S/4HANAは複雑なテーブル構造を廃止して、いかにシンプルに作るかが大きなテーマです。これは、システムだけではなく、業務についても当てはまることです。先行企業の中には、ほとんどのアドオンを廃止することでSAP S/4HANAのメリットを最大限に生かした企業さんもいらっしゃいます」(加藤氏)
今後は、企業の中でも人材が不足し、いかに効率よくシステムを運用するかがカギになってくる。三菱ケミカルシステムのSAP HANAマネージドサービスは、システムをシンプルにし業務もシンプルにすることで、基幹システムの新しい在り方を示すものといえるのではないだろうか。
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提供:三菱ケミカルシステム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年6月24日