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IT投資動向調査には現れない、「投資額が決まるまで」〜予算が余る/ひっ迫するしょうもない理由〜久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(8)(2/3 ページ)

今回はお金(予算)の管理について考えてみたい。従業員目線で言えば経費精算、企業目線で言えば予算管理。こうしたITサービス財務管理(IT Service Financial Management)の在り方を、筆者の苦い経験を基に考えてみたい。

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「たかが経費精算。少しぐらい遅れたって……」の恐ろしさ

 まずはボトムアップ目線の方から行こう。

 端的に言おう、経費精算をタイムリーに行うことを徹底していただきたい。

 拍子抜けしないでほしい。たかが経費精算と侮るなかれ、精算処理の遅れが予算執行の予実管理を狂わせ、企業の投資を鈍化させるメカニズムを理解すれば、今日からタイムリーな経費精算を心掛けたくなるのではないかと思う。

 筆者は、過去から今現在も含めて幾つかのITベンダーでITサービスマネジメント関連の仕事をしてきた。その経験の中で幾度となくこんなシーンに出くわした。例えば、ITサービスマネジメントを生業とするコンサルタントが、領収書の束を片手に「忙し過ぎて出張の交通費やホテル代、夕食代の精算が全くできていない」と周囲にこぼしたりする。よく聞くと3カ月もため込んでいるという、そして会社に対してお金を立て替えて“あげて”いると、何となく被害者面もしている。

 こんな話を聞くと筆者は決まって説教をしてしまう。その経費とやらはお客さまに請求すべきものではないのか? 3カ月といえば四半期、下手したら会計年度をまたぐのではないか? 企業内のIT部門がどのように費用の予実管理をしているのか分かって言っているのか? その出張精算処理の遅れが、どんな問題を引き起こすのか想像が付くか? と。

 筆者は、複数のITのユーザー側企業で、IT部門の責任者のポジションに就いていた経験もある。いずれも製造企業であったので、在籍当時、製品価格に反映される投資や経費については、たとえIT部門であっても製品製造部門と同様、厳格な管理が求められた。もし会計年度単位で正確な経費が算出できないような事態が発生しようものなら、トップマネジメントからIT部門のマネジャーとして厳しく管理責任を問われていただろう。

 上述のケースのようなITベンダーのコンサルタントの3カ月を超える出張滞在費、これが四半期をまたいで突然顕在化するインパクト――こういう目線で支出を捉える習慣が刷り込まれているからこそ、筆者には腹立たしく、時には説教をしてしまうのだ。

 このような経費精算の遅れは、どういう問題を引き起こすのかここで整理しておこう。思いつくだけでも6つの視点がある。

  1. 経費の処理の遅れが、週、月、四半期と積み重っていくと、最終的には年度支出の予実管理ができなくなってしまう。そうなると、支出が年度予算内で収まるのか、予算をオーバーするのかが管理できなくなってしまう
  2. たとえ金額は小さくても製品価格設定に影響が出る可能性がある。製造業にとって正確な製造原価の算出は基幹業務の一環である
  3. 法律に基づく会計処理に問題をきたす。前年度に計上すべき固定資産や、処理されるべき経費が翌年にずれ込んでしまうと、収める税額に影響を与えるので、国税庁から厳しくお叱りを受けることになる
  4. 予実管理ができていないと、翌年度以降の予算見積もりが不正確になる。経費実績を基本に行われる経理部門との調整に大きな影響が出てしまう
  5. ITにかかる総費用が不明確となってしまう。こうなると従業員1人当たりのIT費用という重要なKPIが正確に算出できない。増加したのか削減できたのか不明確なものに対しては、正しいネクストアクションを策定できない
  6. 翌年の予算から支払いを行えば、翌年の予算に影響する。最悪の場合は翌年のプロジェクトなどを停止させてしまう場合もある

 これらに関して、言われてみれば確かにその通りだと、耳が痛くなった読者もおられるのではないか。

経費精算遅れがIT部門の予算を圧迫!?

 さて、行き着くところ上記の問題が引き起こす致命的な事態とは何だろうか? それは、毎年このように正確性を欠いた予算管理をしていると、結局翌年度の予算案が正確性を欠くことになる。正確性が低いまま予算オーバーという最悪の事態を回避するためには、毎年毎年、過剰なバッファを予算案に盛り込むのが常態化してくるのだ。つまり、いざというときのために本来不要なお金をポケットに隠し始めるというわけだ。

 個々の従業員の経費精算遅れを震源地として、ついにはキャッシュフローが悪化し、巡り巡ってIT部門が絡んだ設備投資を減速させてしまう。デジタル変革が加速する今、このような設備投資を鈍化させる事態は断じて起こしてはいけない。たかが出張経費清算などと思ってはいけないのだ。ITベンダーであろうと企業内IT部門であろうと、正確でタイムリーな経費清算と予実管理が直結していることはビジネスコモンセンスなのだ。

 私はITサービス管理に携わる者には、よくこうやって言って聞かせている。「こんな事態が起きないようにITサービスマネジメントに多くの企業が取り組むのであり、お金をはじめとしたリソースの動きを可視化し、これを最適化するオペレーションを行う。まさに君たち自身がそのITサービス管理のコンサルテーションを提供しているのだよ!」と。

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「経費精算なんていつでもいいだろ? むしろ会社の金を立て替えてやってるようなもんだ」が、巡り巡ってIT予算を直撃する

「死に金」はこうして作りだされる

 続いてトップダウン目線の話に移ろう。筆者にはIT部門予算申請と獲得にまつわる苦い経験がある。この話とともに、企業内IT部門でのITサービス財務管理に関して述べたい。

 今やほとんどのビジネス変革はITを巻き込みながら進んでいる。そんな中、IT部門の予算見積もりはますます難しくなってきている。なぜなら戦略的大型投資事案の場合は、LOB側でIT予算も含め一括して予算確保をすることが多いのだが、こうしたケースにおいても、IT部門側単独で行う呼応作業はどうしても出てくるので、LOB側IT予算と整合性を取ってIT部門側単独予算も同時に確保しておく必要があるのだ。

 もしここを見誤って、IT部門側の予算不足で戦略事案全体の完遂を妨げるような事態を招こうものなら、なぜそれを見通せなかったのか? と、IT部門の評価を著しく下げることになってしまう。これは絶対避けたいところだ。

 そのような背景があると、最悪の事態に備えて幾らか余分に予算を積んでおくのが通常だ。わずかな金額であったとしても予算不足に陥ってから、マネジメントや経理部門からのお叱りを受けながら追加予算を申請するぐらいなら、予算を余らせる方が余程ましだと考えるわけだ。アクティビティ計画や社員増予測、テクノロジの変革など、各種勘定科目を少しずつ水増し設定して経理部門と調整に入り、そして無難な予算を確保する。

 さて、年度の途中では、何度か経理部門と予実のレビューを実施するのが通常だ。その際に、プロジェクトプランについて強気の姿勢を貫き、予算を最後まで確保し続ける者もいる。しかし、多くのケースで年度末に消化しきれない予算が出てきてしまう。全てのプロジェクトが思い通りに進むわけはないのだ。一部に想定以上の要員を取られてしまい、他を完遂し切れないことはよく起こる。プロジェクト予算はもとより、先を見通し計画したトレーニングの予算なども使い切れなくなってくる。使いたくてもそれを使える人が存在しないのだから。

 加えて、IT部門はサイロ化された組織だ。インフラ、ネットワーク、セキュリティ、ミドルウェアと、各部隊が縦割りになっていることは珍しくない。それぞれが同様に余分な予算を積み上げた結果、IT部門全体で合算すると非常に多くの余り予算が積み上がることは、これまたよくある。これを無理やり消化するために、不急のハードウェアやソフトウェア、コンサルテーションなどを購入してしまう(ITベンダー目線では、期末にこうした棚ぼた案件が出てくるのはありがたいことなのだが……)。

 さて、かつて私は、こうして年度末にIT部門の予算を余らせたことがある。私は経理部門のマネジメントからこのように言われた。「IT部門が必要というので会社として金(予算)を確保していた、すなわち他で使わせないようにしていた。しかし、もしこの金があったなら製造部門で新規の製造ラインへの投資や、販売部門で新たな取り組みができた」と。冷静に、しかし、その目の奥に静かな怒りをたたえて話をされた。私はIT部門主導の取り組みやプロジェクトを滞りなく実行しようとして、逆に会社全体としての設備投資を阻害していたのである。すなわち「生き金」を「死に金」にしてしまったのだ。

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