サービスマネジメントとは、システムのお守りや定型作業のことではない:久納と鉾木の「Think Big IT!」〜大きく考えよう〜(10)(3/3 ページ)
当連載では、IT、サービス、ビジネス、そしてサービスマネジメントについて論じてきた。いったんここで、前後編の2回に分けてサービスマネジメントの全体像を見つめ直したい。前編の今回は、身の回りのサービスマネジメントからビジネス貢献への発展について考えてみたい。
サービスは複数のテクノロジやサービス、プロセスから構成されている
また、当連載で繰り返し述べてきたことだが、サービスとは複数のテクノロジと社内外のサービスやプロセスから構成されている。これを改めて強調しておきたい。引き続き会議システムサービスを例にとれば、これは社内ネットワーク、サービスデスク、資産構成管理プロセス、外部ベンダーのTV会議サービスなどなどによって構成されていると言えるだろう。
誰か(サービスレベルマネジャー)がこの会議室システムサービスについて、責任を持ってユーザーに安定供給する。そのためには、インシデント管理、問題管理はもちろんのこと、サービスを構成する一部に変更が発生すれば変更管理、それに伴う構成管理、外部のベンダーサービスを管理するサプライヤ管理などが必要で、もちろん費用や人の話も含まれる。今後は何らかのサービスを提供しようと考えたら、これまで以上の確率・割合で組織や企業の壁をまたいだサービスを組み合わせて提供することになる。つまり、SIAM(Service Integration and Management)と呼ばれる考え方とプロセスが必要になるだろう。
ポイント3
会議室の話は小さな話かもしれないし、会社内ではそれほど重要視されていないかもしれない。しかし、ここで説明したサービスマネジメントの基本とその考え方を明確に理解し応用することができれば、ITサービスマネジメントからエンタープライズサービスマネジメント、そしてビジネスサービスマネジメントへと発展させることができるようになるわけだ。あなたは自社ビジネスのサービスシフトを主導するポテンシャルを秘めていることになる。
「サービスマネジメント=運用」ではない!
さて、本連載の主役である「あなた」に問いたい。
サービスマネジメントとは単なるIT部門の日々の運用だと勘違いしていないだろうか? すでに出来上がったITシステムのお守りをイメージしていないだろうか? そしてIT部門全体から見たときに、その組織の一部にすぎない運用部門の標準プロセスだと理解していなかっただろうか?
サービスマネジメントのフレームワークや考え方を正しく理解すれば、必ず存分にビジネスに生かすこともできる。つまるところ、あなた自身の将来のキャリアアップにつなげることもできる。
サービスマネジメントが偏った理解で広まった背景だが、1つには、ITサービスマネジメントが国内でも広まり始めた2003年頃、ITIL v2がITサービスマネジメントのベストプラクティス集として日本でも一気に認知された。だが、全体7冊から構成される書籍のうち赤本、青本の2冊にのみに注目が注がれ、日々の運用だけのものとして広まってしまったという経緯が挙げられる。
もう1つは、IT業界に影響力を発揮すべきITベンダーの力不足、ITILの普及活動を行う団体などの勉強不足、およびリーダーシップの欠如があったと言われても弁解はできないだろう。ITIL v3に進化しビジネスの観点からのサービス戦略やサービスデザインにフォーカスが移り、もはやITにこだわるものではなくなり、ITサービスマネジメントから(ITが取れて)サービスマネジメントへと発展したにもかかわらず、相変わらず日々の運用の議論に終始する状況から抜け出せなかった。筆者も過去にその当事者だった、責任を感じている。
サービスマネジメントの全体像はとても大きくて奥が深いものだ。サービスとして価値(=より良い体験と結果)を顧客やユーザーに提供するために必要なIT部門としての活動の全てを網羅している。組織の在り方から人材の育成とその発展、リスクを含めたセキュリティ、ビジネスデマンドに基づいたサービスの戦略そしてサービスの構築など、IT組織の全てと言ってもよいくらいなのだ。
だから、この考え方や手法はITのみならず、IT以外の人事や法務、経理、施設などの社内サービス戦略(エンタープライズサービスマネジメント)からサービスの設計、構築そしてオペレーションに応用が効くのだ。
そして、ビジネスそのものが急速にサービスへとシフトする中、デジタルビジネスサービスマネジメントの展開を、俊敏性を持ってサポートすることができるのだ。
「サービスマネジメント=運用」ではない! と今一度理解していただきたい!
次回は、運用に終始しないサービスマネジメントからどのようにビジネスにおける素晴らしい体験へとつながっていくのか、最近急速な変化を遂げている野球場(ボールパーク)を例に皆さんと一緒に考えてみたい。
著者プロフィール
久納 信之(くのう のぶゆき)
ServiceNow ソリューションコンサルティング本部 エバンジェリスト
米消費財メーカーP&Gにて長年、国内外のシステム構築、導入プロジェクト、ITオペレーションに従事。1999年からはITILを実践し、ITSMの標準化と効率化に取り組む。itSMF Japan設立に参画するとともにITIL書籍集の日本語化に協力。2004年からは日本ヒューレット・パッカード株式会社、その後、日本アイ・ビー・エム株式会社においてITSMコンサルタント、エバンジェリストとして活動後現在に至る。「デジタルビジネスイノベーション=サービスマネジメント!」が標語・座右の銘。EXIN ITILマネージャ認定試験採点を担当。著書として『アポロ13に学ぶITサービスマネジメント』『ITIL実践の鉄則』『ITILv3実装の要点』(全て技術評論社)などがある。
鉾木 敦司(ほこき あつし)
ServiceNow ビジネス推進担当部長
日本ヒューレット・パッカード株式会社に19年間勤務。顧客システム開発プロジェクト、ハードウェア・プリセールス、ソフトウェア・プリセールス、プリセールス・マネージャー、ソフトウェアビジネス開発に従事。2017年より現職。一男三女の父であり、30年後も多くの日本企業が世界中で大活躍する野望実現のため、サービスマネージメント・プラットフォームの重要性啓蒙活動にいそしむ。電気情報通信学会発表論文に『OSS市場と市販製品の動向-市場成熟度が製品シェアに与える影響』がある。
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