テルアビブ大、スマホのセンサーで大気予測の精度向上を目指す:スマホをセンサー網に変える
自然災害につながる気象パターンを将来、スマートフォンのデータを使って追跡、予測する可能性についての研究をテルアビブ大学の研究者が発表した。
鉄砲水のような自然災害につながる気象パターンが将来、スマートフォンデータを使って追跡、予測できるようになる可能性がある――イスラエルのテルアビブ大学の研究者が2018年8月23日にこのような研究成果を発表した。
研究を率いたテルアビブ大学ポーター校の環境地球科学教授、コリン・プライス氏は、次のように述べている。
「われわれが使うスマートフォンのセンサーは、常に環境をモニタリングしており、重力や地磁場、気圧、光源レベル、湿度、温度、音圧などを測定している。つまり、重要な大気データが世界中の30億〜40億台のスマートフォン上に存在しており、このデータを活用すれば、われわれが気象や自然災害を正確に予測する能力が向上する」
プライス教授はテルアビブ大学の修士課程学生ロン・マオー氏、博士課程学生ホフィット・シャシャフ氏とともに研究を行い、研究論文を「Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics」で発表した。
プライス教授のチームは、さまざまな生の大気データを測定するスマートフォンのセンサーの能力を実証する実験を進めた。テルアビブ大学の広大なキャンパス内の管理された条件下に9つの異なるセンサーを備えた4台のGalaxy S4を設置し、海洋潮汐(ちょうせき)に似た“大気潮汐”現象を特定するための気圧センサーデータを10カ月にわたって取得。加えて、大気状態を測定する「WeatherSignal」というAndroidアプリから得られたデータも分析した。
大気潮汐は12時間周期で起こる気圧の変化であり、対流圏の水蒸気による赤外線の吸収と成層圏のオゾンによる紫外線の吸収によって起こる。圧力が最大になるのは午前9時と午後9時、最低になるのは午前3時と午後3時だ。この圧力の変化は上空の水蒸気量などを反映する。
実験の結果、スマートフォンから得られたデータは公的な気象台が測定したデータと極めてよく似た推移を示した。オフセット値を修正する適切なキャリブレーションを施した結果、測定期間を通じて、正確な値からずれは±1ヘクトパスカルに収まった。つまり十分な精度のデータを得られることが分かった。
公的な気象台から得られるデータは30分置きだが、スマートフォンからは毎秒データが得られる。つまり、優れた測定方法であることが分かったという。
膨大なセンサー網を構築できる
「2020年までに、世界で60億台以上のスマートフォンが使われるようになる。これに対し、気象台は1万カ所しかない。スマートフォン上の情報を活用できれば、われわれが気象パターンの予測に使用する情報量は膨大なものになる」とプライス教授は述べている。
「例えば、アフリカでは、数百万台のスマートフォンが使われる地域でも、ごく基本的な気象測定インフラしかない。10台のスマートフォンからのデータを分析しても、得られるものはたかが知れているが、数百万台からのデータを分析できれば、気象予測の在り方が画期的に変わる可能性がある。しかも、スマートフォンは価格低下と高品質化が進んでおり、世界中の人にとってますます入手しやすくなっている」(プライス教授)
スマートフォンは、気象データのソースになるだけでなく、リアルタイムの気象アラートを人々に送信するためにも使われるだろうと、プライス教授は語る。同氏は、「人々がスマートフォンアプリを使って大気データをクラウドに提供し、このデータの処理、分析によって気象のリアルタイム予測が行われ、人々に気象予報を提供したり、危険地域にいる人に警告が届いたりする」といったシナリオが可能になると考えている。
「過酷な洪水などの発生頻度が上昇している。それらの発生を防ぐことはできないが、われわれは近い将来、人々のスマートフォンデータを使って気象予測の精度を高め、人々にスマートフォンでリアルタイムに、予測結果を届けられるようになる可能性がある」
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