Heptioをなぜ買収したか、その力をどう生かすか。VMwareのCEOとCOOに聞いた:「Niciraという前例がある」
2018年11月中旬に来日したVMware CEOのパット・ゲルシンガー氏をつかまえて、同社が前週に発表したHeptioの買収について聞くと、「KubernetesおよびCNCFにおけるリーダーになる」と答えた。
2018年11月中旬に来日したVMware CEOのパット・ゲルシンガー氏をつかまえて、同社が前週に発表したHeptioの買収について聞くと、「KubernetesおよびCNCF(Cloud Native Computing Foundation)におけるリーダーになる」と答えた。
「オープンソースの世界では、コントリビューションが全てだ。Heptioの共同創業者であるクレイグ・マクラッキーとジョー・ベダは、Kubernetes OSSプロジェクトを立ち上げた3人のうちの2人だ。彼らは才能あるスタッフを持ち、多くの重要なKubernetes関連プロジェクトをリードしており、Kubernetes開発の方向性に影響力を持っている。VMwareは、これを製品に生かすことができる。これは、Red Hatがやってきたことに似ている。彼らは(OSSプロジェクトを)リードし、これに基づいてマネタイズしてきた。従ってVMwareはKubernetesコミュニティーをリードすると共に、自社の製品がコミュニティーをサポートし続けられるように努力していく」
「また、Heptioはバックアップ、可用性強化、ガバナンスなど、Kubernetes上で使えるツールを開発し、既に顧客に提供している。買収が完了すれば、私たちはこうした機能を、即座に自社製品へ追加する。さらにHeptioのチームは、新たな分野のサービスを開発しようとしている」(ゲルシンガー氏)
マクラッキー氏はKubernetesなどをベースに、クラウドネイティブ環境を推進する団体、CNCFを立ち上げた一人でもある。
「私たちは、これまでの自社におけるオープンソース活動から、OSSコミュニティーでは政治的な動きも必要であることを学んだ。その意味でも、影響力のある人たちを味方に付けることは重要だ」(ゲルシンガー氏)
それでも、VMwareがKubernetesをめぐる世界での主要なプレイヤーになるということを想像できる人は少ないのではないか。
しかしゲルシンガー氏は別の場で、ネットワーク仮想化のNicira Networksを買収し、成功した前例があることを強調した。
「Niciraのことを考えてみてほしい。同社にはマーティン・カサドというカリスマがいた。VMwareはNiciraをかなりの高額で買収したため、『元が取れるのか』と疑われたが、今では誰もが拍手喝采してくれる」
確かにNicira買収当時、VMwareは社内でネットワーク仮想化技術を開発していたものの、注目されてはいなかった。これがNiciraの買収およびその技術の取り込み、そしてカサド氏が先頭に立って普及に努めたことにより、短期間のうちに巨大なビジネスへと成長した。
Pivotalが買収した方がよかった?
「HeptioはPivotalが買収した方がよかったのではないか」とも聞いてみた。ゲルシンガー氏は、「Kubernetesは次世代のインフラAPIだと考えている。Kubernetesはアプリケーション基盤なのか、インフラなのか。私たちは今後、インフラとしての役割が増すと思っている。従って、PivotalよりもVMwareが提供していかなければならない」と答えた。
「一方、Kubernetes上でますます多くのミドルウェアが開発されていかなければならず、この部分はPivotalが推進すべきだ。Pivotal Container Service(PKS)が両社の共同プロジェクトなのはそのためだ」(ゲルシンガー氏)
ここでゲルシンガー氏の答えには含まれていないが、Kubernetesは、ハイブリッド/マルチクラウドにおいて、欠かせない要素になってきている側面もある。
VMwareはハイブリッド/マルチクラウドを推進する一社だが、複数クラウド間のアプリケーション移行を仮想マシンのレイヤーで行うと、フォーマット変換が必要になったり、移行データが重過ぎたりするケースが考えられる。
後者に関して、オンプレミスのVMware vSphereとVMware Cloud on AWSとの間では、前もって仮想マシンデータのほぼ全てを移行先に複製しておき、後は稼働している仮想マシンのメモリ上にある部分を、ライブマイグレーション(無停止移行)で移動できる機能が使えるようになっている。だが、これはVMware基盤同士でしか実現できないことだ。
一方、アプリケーションがコンテナベースであれば、移行は比較的簡単だ。そこでハイブリッド/マルチクラウドを、コンテナによって進める動きが、少なくともエンタープライズITベンダーの間では広がりつつある。
もちろん、仮想マシン自体に付加価値がないのと同様、コンテナ自体に付加価値があるわけではない。価値があるのはコンテナオーケストレーションだ。そしてコンテナオーケストレーションの世界における勝者として、Kubernetesが急速に浮上してきた。
すなわち、サーバ/デスクトップ仮想化(および関連インフラ仮想化)を中核技術として事業を拡大してきたVMwareは、Kubernetesが明日の共通基盤となることを認識し、手を打ったことになる。
なお、こうした話題になると、必ず「仮想化の時代は終わった」と言いだす人がいる。だがコンテナに注目が集まるからといって、仮想化が不要になるわけではない。とはいえ、Kubernetesがアプリケーション基盤/インフラ、ハイブリッド/マルチクラウドの2つの観点で、企業CIO(最高情報責任者)の取り組むべき課題になりつつあるなら、VMwareはインフラベンダーとして取り組まなければならない。
取り組むといっても、Kubernetesディストリビューションを出すだけでは付加価値がない。そこでVMwareは、Heptioの指導者が持つカリスマ性と開発力に期待して、同社を買収した。
DevOpsニーズに応える取り組みとしてのHeptio
VMwareプロダクト/サービス担当COO(最高執行責任者)のラグー・ラグラム氏は、別の視点からも今回の買収を説明する。
「VMwareは創立以来、IT運用を担当する人々をオーディエンス(訴求対象)としてきた。だが、過去数年の間にDevOpsが広がってきた。一方、パブリッククラウドの普及に伴ってクラウド運用担当者(「CloudOps」)が生まれている」(ラグラム氏)
そこで同社は最近、こうした新しい運用担当者のニーズに応える取り組みを進めてきた。CloudOpsに関しては2018年8月、CloudHealth Technologiesの買収を発表。それ以前から開発・提供してきたマルチクラウド管理SaaSとの統合を進めようとしている。一方、DevOpsニーズに応える活動として、今回のHeptio買収は位置付けられるという。
すると、次の質問をしなければならない。
「DevOpsは、開発者が発言力を持つ世界。VMwareは従来のIT運用担当者には信頼されているかもしれないが、開発者に支持されているわけではない。開発者たちにどうアピールしていくのか」
ラグラム氏は、「それがHeptioを買収したもう1つの理由だ。開発者はKubernetesのエコシステムで何が起こっているかに関心を持っている。ツールにしろ、APフレームワークにしろ、このエコシステムから来るものを使おうとする。私たちは、HeptioのOSSに関する活動を通じ、開発者が求める運用の在り方とは何かについての理解を深めることができる」と答えた。
「VMware/Pivotal対Red Hat」という構図
ラグラム氏によると、Heptioの社員はほぼ全員が、Kubernetes関連のOSSプロジェクトにコントリビューションをしている。幹部はGoogleでKubernetesを構築し、運用してきた人たちであり、その経験を基に、本番環境におけるベストプラクティスを伝えることもできるという。実際、Heptioはこれまで一般企業を対象として、Kubernetesサービスやトレーニング、コンサルティングを提供してきた。
「Heptioの買収で、VMwareは企業向けのベストなKubernetesソリューションを提供する存在になれる」(ラグラム氏)
VMwareは現在、同じDell TechnologiesグループのPivotalと共同で、「Pivotal Container Service(PKS)」というKubernetesディストリビューションを提供している。買収が完了すると、Heptioが開発してきたKubernetes関連OSSは、PKSに組み込まれることになっている。一方Heptioが企業向けに提供してきたKubernetesサービスのノウハウは、PKSおよびVMware Kubernetes Engine(VKE)を組み込んだSaaSとして開発中の「VMware Cloud PKS」に生かされる。
ラグラム氏によると、PKSは売り上げを2社で半々に分ける共同ソリューション。これまでVMwareはvSphere、VMware NSXといった部分でこのソリューションに貢献してきたが、加えてHeptioが開発をリードする各種ツールを提供することになる。
今後も、VMware はPKSを中核として、Kubernetesへの取り組みを進めていくという。だが、Heptioの活動はあくまでもVMwareの名の下で行われる。
「では、『VMware/Pivotal対Red Hat』という構図なのか」と聞くと、ラグラム氏は「その表現は正しいと言える。VMwareは企業向けKubernetesソリューションにおけるリーダーシップを勝ち得たいと考えている。Red Hatもこの点では同じだ」と答えた。
「だが、企業向けKubernetesソリューションとして、VMware NSXによるネットワーキング、セキュリティ、管理機能など、Red Hatではできないことをこちらは提供できる。一方、プライベートクラウドにおいて、VMware vSphereはOpenShiftにとって最大の稼働プラットフォームだ。また、OpenShiftに欠けているネットワーク機能を補うために、VMware NSX-Tを組み合わせる顧客が存在する。つまり、『コーペティション(競合と協調の同時進行)』の状況が生まれている」(ラグラム氏)
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