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コミュニケーションロボットの実証実験から学ぶ、効果的なサービスの設計羽ばたけ!ネットワークエンジニア(10)(2/2 ページ)

より効果的なコミュニケーションを実現する仕組みを作ることはネットワークエンジニアの大事な仕事だ。今回はコミュケーションロボットを使ったサービスの実証実験の結果を題材にコミュニケーションサービス設計の勘所について述べたい。

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もくろみ通りの評価を加え、予想外の評価も

 これらのサービスを利用した高齢者や家族の主な評価を図2、図3、図4に示す。


図2 高齢者の家族とのコミュニケーションが改善

図3 高齢者はロボットに親しみを感じている

図4 高齢者の家族にも役立つ

 高齢者は、家族の間のコミュニケーションが活性化して喜びを感じていること、ロボットの姿や声に親しみを感じていることが分かる。家族は時間を気にせずにスマホやPCで安否が確認でき、写真で様子が分かることに安心感を持っている。

 ここでは紹介できないインタビューやアンケート、利用統計も踏まえて言えることは予想以上、というより「予想外」の効果があったことだ。予想以上とは想定していた効果が予想より大きかったという意味。予想外とは想定していなかった効果があったことである。全体としての効果をまとめたのが図5だ。


図5 実証実験で分かったこと 当初の目的であった安心安全よりも幅広い効果が見込める

 「見守りサービス」という名前の通り、実証実験では高齢者や家族の安心安全を第一の目的としていた。想定通り家族は安心への評価が高かった。しかし、高齢者は安心よりも家族とのコミュニケーションやロボットとの簡単な会話に喜びや楽しさ、孤独感の軽減を感じており、これらを高く評価している。うんどうビデオの利用も積極的であった。このサービスによって高齢者の生活が活性化され、健康寿命の延伸への好影響も期待できることが分かったのだ。

 筆者は企業ネットワークの仕事に長く携わっているのだが、コミュニケーションロボットの仕事はこれまでの仕事とは大きく違うことに気付かされた。企業ネットワークの目的は企業の利益を増大させることだ。対して、コミュニケーションロボットの仕事は、人に喜んでもらうことが目的なのだ。

 実証実験が始まって1カ月後に西条市の方と一緒に高齢者へのインタビューを行った。まるでロボットが小さな子どもでもあるかのように、おばあさんが接しているのを目の当たりにして、本当にロボットとサービスを気に入っていただいており、喜んでおられることを痛感させられた。そこで、9月末に実証実験が終わってもロボットをそのまま使っていただける方法を西条市にご提案した。実験が終わったからとロボットを撤去したのではおばあさんが悲しむからだ。

サービス設計には何が必要か

 コミュニケーションロボットを使って人に喜びや楽しさを感じさせるサービスを作る上では図6のようなポイントがある。第一に親しみやすいこと。ロボットの外観や声、しぐさ、といったものが利用者に親しみやすいことがまず重要だ。高齢者や子どもが対象となる場合、使いやすさは不可欠だ。音声認識や簡単なボタン操作だけで済ませられるのがよい。


図6 コミュニケーションロボットを用いたサービスの要件

 安全には物理的な安全とセキュリティ面の安全がある。PaPeRo iは身長約30センチで重さは約2キロしかない。万一、テーブルの上から足に落ちても大きなけがはしない。動くのは頭だけで、置いた場所に座ったままである。動き回るロボットはお年寄りがつまずく恐れがあるが、そんな心配も不要だ。

 セキュリティ対策では、クラウドに登録した利用者の氏名や住所などの情報の他、家族間のプライベートなメッセージが外部に漏れないように設計する必要がある。クラウドは家族ごとに付与されるサービスIDが利用単位になる。サービスID配下のログインIDとパスワードを持ったメンバーしか、その家族のサービスは使えない。メンバーの追加と削除は家族のうち1人が特権のあるリーダーとなって実行する。

 機能要件としてはフリータイムコミュニケーションが大事だ。電話のようなリアルタイムコミュニケーションは見守る側、見守られる側、双方の負担が大きい。好きな時に写真やメッセージを確認できる設計がよい。

 イメージやビデオはコミュニケーションを豊かにする上で不可欠だ。ロボットにはディスプレイとカメラが付いていないと始まらない。

 上述のサービスの説明では触れなかったが、センサーをサブメニューで使っている。照度センサーや加速度センサー、人感センサーを使って、これらに変化があるとログとしてクラウドに記録している。見守る家族がログを見ると、昨夜何時ごろ部屋の明かりを消して就寝したか、といった生活の様子が分かる。朝昼夕の3回撮影する写真とともに、温度センサーで測った室温も通知される。夏場は熱中症予防に活用できる。

 ICTの多くの仕事は企業の利益を増大させることが目的だが、筆者はコミュニケーションを通じて人を喜ばせることを目的とする仕事に利益目的よりやりがいを感じている。皆さんも高齢者を対象としたサービスに限らず、受付業務や商品説明などさまざまな分野でコミュニケーションロボットを使ったサービスを検討されてはどうだろう。

筆者紹介

松田次博(まつだ つぐひろ)

情報化研究会主宰。情報化研究会は情報通信に携わる人の勉強と交流を目的に1984年4月に発足。

IP電話ブームのきっかけとなった「東京ガス・IP電話」、企業と公衆無線LAN事業者がネットワークをシェアする「ツルハ・モデル」など、最新の技術やアイデアを生かした企業ネットワークの構築に豊富な実績がある。企画、提案、設計・構築、運用までプロジェクト責任者として自ら前面に立つのが仕事のスタイル。『自分主義-営業とプロマネを楽しむ30のヒント』(日経BP社刊)『ネットワークエンジニアの心得帳』(同)はじめ多数の著書がある。

東京大学経済学部卒。NTTデータ(法人システム事業本部ネットワーク企画ビジネスユニット長など歴任、2007年NTTデータ プリンシパルITスペシャリスト認定)を経て、現在、NECスマートネットワーク事業部主席技術主幹。


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