「従業員エンゲージメント」とは何か――初歩から理解する:Gartner Insights Pickup(105)
「従業員エンゲージメント」がホットトピックとなっている。だが、具体的にはどんなことを意味しているのだろうか。なぜ重要なのか。どう測定すればいいのか。これらの点を、まず明確にしなければならない。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
今、この記事を読んでいる皆さんは、Googleで「従業員エンゲージメント」を検索して、このページに来られただろうか。それは珍しいことではない。そうした検索が行われた回数は、過去15年間で1000倍に増えている。つまり、この言葉は普及し、受け入れられてきたということだ。
2020年までに企業の20%が、人事部門とIT部門で共有する業績目標として従業員エンゲージメントの向上を採用する見通しだ。「だが、従業員エンゲージメントを業績管理に取り入れる前に、『従業員エンゲージメントとは何か』『なぜ重要か』『何を測定する必要があるか』を明確にしなければならない」と、Gartnerのアナリストでバイスプレジデントを務める、ヘレン・ポワトヴァンは語る。
従業員エンゲージメントは、従業員が「会社での過去の出来事や現在の経験、未来への期待から、理性的かつ感情的に仕事にコミットしている」という精神状態を指す。こうした状態にある従業員はやる気があり、“単に仕事をこなす”のではなく、仕事にエネルギーや労力を注ぎ、会社に長くとどまる。
従業員エンゲージメントは世界的に低い。少なくとも過去20年間、一貫して低い。最新のGartner Global Talent Monitor調査によると、「今の会社にとどまろうという気持ちが強い」と答えた従業員は、世界全体で32%、「日々、自発的に大きな努力を払っている」と答えた従業員も14%しかいなかった。
エンゲージメントと業績のつながり
近年、繰り返し行われた調査では、従業員エンゲージメントスコアが高い上位25%の企業は、競合他社を上回る業績を挙げていると示している。スコアの高さは、平均売上高成長率、純利益率、顧客満足、1株当たり利益の高さと相関がある。現在、ビジネスリーダーの70%は、「従業員エンゲージメントはビジネス業績の達成に不可欠だ」という見解に同意している。
だが、複雑でめまぐるしく変化する環境(今日のデジタルワークプレースの重要な特徴)において、従業員エンゲージメントを高めるだけでは、業績を向上させるには不十分だ。今では、いかにエンゲージメントの高い従業員にとっても、目指す結果が出るように仕事をするのは、これまでより難しくなっているからだ。
デジタルワークプレースの取り組みでは、変化するビジネス環境の中で従業員のアジリティーと仕事の効果の向上に向けて、コンシューマー化されたコラボレーティブな仕事環境の実現に重点が置かれる。デジタルワークプレースはデジタルビジネスの不可欠な部分であり、ビジネスモデルの変革、技術の広範な普及、IoT(モノのインターネット)をベースに構築される。
従業員エンゲージメントはデジタルビジネスの成功の重要な要素であり、デジタルワークプレースの取り組みの焦点の1つに据える必要がある。だが、従業員エンゲージメントには、デジタルワークプレースツールおよびコンテンツの使用以外にも多くの要素がある(これらの使用はIT担当者の多くにとって、エンゲージメントの大きな理由になるが)。
エンゲージメントに貢献する要因
従業員エンゲージメントは現在、エンゲージメントを左右する3〜15以上の要因を踏まえ、何らかのモデルを作成した上で取り組みが展開されている。根本的には、どのモデルでも、以下のような幾つかの基本的なカテゴリー別にエンゲージメントの測定が試みられる。
- 報酬:従業員は自分の報酬パッケージ全体をどの程度公正と考えているか
- キャリア開発機会:従業員は会社に勤続することで、仕事の対価だけでなく、有益なスキルや経験が得られるとどれだけ考えているか
- 会社に対する認識:会社が生み出す価値、持っているブランド、描く未来に従業員がどれだけ共感しているか
- チームと同僚の質:従業員の上司、所属するチーム、他の同僚が、本人の仕事での経験にどれだけプラスになるか
- 仕事環境:物理的な仕事環境とワークライフが、従業員の日常業務の遂行をどれだけ支えているか
エンゲージメントの測定と分析
企業はエンゲージメントの包括的な定義とモデルを作成すると、次にその測定に移る。年次調査や半年ごとの調査は、従業員エンゲージメントを測定する最も一般的な方法であり続ける。だが、リアルタイムアナリティクスの活用が進む中、人事担当者の多くが、エンゲージメントについてより頻繁に洞察を得る必要があると考えるようになっている。
一部の先進的な企業は、顧客の声を探る「VOC」(Voice of the Customer)の取り組みにならい、そうした考え方やサービス(ソーシャルネットワーク分析、感情分析、ソーシャル認知およびフィードバックチャンネルなど)を、従業員の意見、行動、姿勢のさらなる把握に応用し、従業員の声を調査する“Voice of the Employee”の仕組みを構築している。
従業員からデータを収集する方法や技術にかかわらず、多くの企業が収集データを基に、従業員を複数のセグメントに分類する。例えば、「エンゲージメントを十分示している」「エンゲージメントをある程度示している」「エンゲージメントを示していない」「あからさまにディスエンゲージメント(やる気のないよそよそしい姿勢)を示している」といった具合だ。
さらに業務分野、勤務地、職位、上司などの切り口でセグメントを細分化すると、エンゲージメントスコアが特に高い、または特に低いセグメントについて重要な洞察が得られるほか、そうしたセグメント内のエンゲージメント(またはディスエンゲージメント)の要因や背景を見極めるのに役立つ。
多くの人事部門は、エンゲージメントスコアと他の人事指標(離職率、業績評価、社内異動など)の相関も調べ、エンゲージメント測定のビジネス価値に関する適正な判断や、問題の予防につなげることを目指している。
エンゲージメントを高める施策
最終ステップは、エンゲージメントデータから明らかになったことに基づいた行動を起こすことだ。これは企業にとって最も難関となる場合が多い。Gartnerの調査によると、「自社がエンゲージメントデータに基づいて効果的な措置を講じている」と考えている責任者は全体の20%にとどまる。だが、企業が行動を起こさないと、従業員の間でエンゲージメントの取り組みに対する厳しい見方が広がり、以降の調査への参加率が低下してしまう。従業員は、「わざわざこの調査にまた参加する必要はない。前回、われわれが答えても、会社は何もしてくれなかった」と考えるからだ。
エンゲージメント調査に基づく行動計画の策定は、エンゲージメント向上の責任を確立する最も伝統的なメカニズムだ。効果的な行動計画を策定するには、エンゲージメントを高める上で優先する特定の人材セグメント(通常、エンゲージメントが低いセグメント)や、優先するカテゴリー(キャリア機会や仕事環境のような)を明記するようにする。
また、人事部門は行動計画を立てるだけでなく、リーダーやマネジャーが自らのチームの調査結果を理解し、それを基に効果的な措置を講じるためのサポートを提供していくとともに、全てのチームメンバーが「自社の行動計画に、自分がどう貢献できるか」を明確に理解できるようにするためのサポートも提供していく必要がある。
出典:What Is Employee Engagement?(Smarter with Gartner)
筆者 Jackie Wiles
Content Marketing Manager
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