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親会社の意向なので開発中止します。もちろんお金も払いません:「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(68)(1/4 ページ)
いやー、ごめんごめん。親会社から突然ストップがかかっちゃってさあ。うちら現場としてはやる気満々なんだけど。悪いけど、この話なかったことにしてくれる?
システム開発プロジェクトは、マラソンのようなものだ。
本物のマラソンは、選手が1人でゴールを目指し、ペースを上げるも落とすも、あるいは体調に異常を来して途中でレースをやめてしまうも、全て本人が判断する。
しかしシステム開発は、ユーザーとベンダーが協力してゴールを目指す「二人三脚」のようなものだ。どちらかが勝手にペースを変えたりレースをやめたりしてしまうわけにはいかない。
ゴールを目指して一生懸命足を動かし続けているのに、一緒に走っているパートナーが突然足を止めたら、走り続ける選手は転ぶかもしれない。場合によっては大けがをすることもある。
同様に、システムの完成を目指して一生懸命作業をしていたベンダーに、ユーザーが突然プロジェクトの中止を申し入れると、ベンダーは財務的な痛手を被ることがある。
このとき、ユーザーとベンダーの間に正式な契約があれば、ベンダーはユーザーの一方的なプロジェクト中断を糾弾し、損害賠償の請求などを求めることができる。しかし、正式な合意がない場合は、どうなるのか。
システム開発プロジェクトはしばしば、正式な契約を後回しにして作業を先行させてしまうことがある。そのプロジェクトが途中で頓挫してしまったら、ベンダーはユーザーに何らかの補償を求められるだろうか。
IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回取り上げるのは、ユーザー上層部の指示で開発が突然中止になった事件だ。
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