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クラウドネイティブ活動の指針として、CNCFのCloud Native Trail Mapをどう考えるか草間一人×青山真也 クラウドネイティブ対談(2)(2/2 ページ)

本連載では、2019年7月の「Cloud Native Days Tokyo 2019」でCo-chairを務めた青山真也氏と草間一人氏に、クラウドネイティブに関してじっくり語ってもらった対談の内容を、4回に分けて掲載している。前回の「クラウドネイティブは、どう誤解されているか」に続き、今回は第2回として、「CNCFのCloud Native Trail Mapを、クラウドネイティブ活動の指針としてどう考えるか」をテーマとした部分をお届けする。

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草間 7番の「分散データベース/分散ストレージ」は勇み足というか、未来にたどり着くべき世界なのは分かるけれど、「本当にそうなんだっけ」というところがある。

青山 なるほど。

草間 MySQLなどを使っている人たちが、Trailをたどる過程でのステップとして「Vitess」を使うというのは違うかなあと思います。


青山真也氏 「Kubernetes好き」を公言し、Certified Kubernetes Application Developer、Certified Kubernetes Administratorの認定資格を持つインフラエンジニア。サイバーエージェントに所属しながら、他の事業会社に対する技術アドバイザーや客員研究員も務めている。Cloud Native Meetup Tokyo/Kubernetes Meetup Tokyoのオーガナイザーでもある。著書に「Kubernetes完全ガイド」「みんなのDocker/Kubernetes」

青山 個人的には、8番の「ストリーミング」などはもう少し前に移すとして、「ランタイム」などのとても深いところをやる前に、「分散的なステートフルアプリケーション」の話はやるべきかと思います。その点では、私には違和感はないです。「ステートレスなアプリケーションをクラウドネイティブにした後に、できればステートフルなものをクラウドネイティブにしたい」というのは、間違っていないかなとは思います。

草間 早めの段階に出てきているプロダクトは自信を持って試せますが、7番の「分散データベース/分散ストレージ」に挙げられているプロダクトだけは成熟度の点で、全面的に採用を検討できる段階ではない。こうした分散ストレージが、近い将来、本当に実用的なものになると、自信を持って言える人はいないのではないでしょうか。

青山 一般企業にとってはきついでしょうね。一方で、「力のある企業はできている」というのも事実かなとは思います。YouTubeなどで使われている実績はありますし。将来はあり得ると思います。絵的には、このあたりを舗装されていない道にしてくれればよかったかもしれません(笑)。「まだ万人向けではなくても、先駆者はいる」という意味で。実際、クラウドのマネージドデータベースでは、独自のプロダクトかどうかは別として、分散アーキテクチャのものがあります。それを、自分たちで運用できるようになるか。私は、このまま進化すれば一般企業でもできるようになるのではと夢を持っていますが……。

Cloud Native Trail Mapを丁寧にたどるべきなのか

――先ほども青山さんからお話がありましたが、Cloud Native Trail Mapに示されているもの全てに誰もが首を突っ込む必要はないわけですよね。

青山 そうですね。アプリケーションや会社の規模に左右されると思います。とても小規模でシンプルなアプリケーションに、豪華な可観測性やサービスメッシュは不要です。この点、セキュリティは特に顕著で、あまり担保しなくていい事業に、ガチガチなセキュリティは要らないのではないかなと。Cloud Native Trail Mapの順番を多少並び替えた上で、それをたどるとしても、自社としてどれを拾っていくかは見極めないといけないかなと思います。ただし、エンジニアとしては、自分の企業が使うか使わないかは別として、学んでおく必要があるのではないかと思います。後で応用が効きますから。

――Kubernetesのエコシステムは、ニーズに合わせて徐々にユーザーやベンダーがツールを開発し、これをCNCFが段階的に取り込む、あるいは開発を促進するといったことを繰り返してきた経緯があります。このため、エコシステムの発展を初期の段階から見ている人には分かりやすいかもしれませんが、後から触れるようになった人には複雑で分からないということもありますよね。

青山 そうですね。いきなりCloud Native Trail Mapを見ると、「これって達成した瞬間にGoogle?」といった、非常に敷居の高い印象を受けるかもしれませんね。ただし、簡単なものはどんどん使っていいのかなとは思います。


草間一人氏 Pivotalジャパンに所属するソリューションアーキテクトとして、主に一般企業における開発体制や開発基盤構築の支援を行っている。Cloud FoundryやKubernetesをはじめとしたクラウドネイティブ技術に関する執筆や講演多数。PaaS全般についての造詣も深く、さまざまなPaaSとその関連技術を扱う勉強会である「PaaS勉強会」を主宰している。

草間 「簡単なもの」という言葉が出たので、私の立場から言わせてください。「エンジニアとして触っておくべきだ、あるいは分かっておくべきだ」というのはよく分かります。一方、「ビジネス、あるいはサービスを提供する上で、これらを一つ一つやるべきか」というと、必ずしもそうではないと思っています。

 今日は「Cloud Foundry」のTシャツを着てきていますが、Cloud FoundryはPaaSです。コンテナライゼーションやオーケストレーションは、意識しなくともPaaSを使った瞬間に達成されています。サービスメッシュやコンテナレジストリなどの、Trail Mapの中身自体は間違っていないと思いますが、開発者が「意識せずに、いつの間にか達成していた」というアプローチがあってもいいと思います。これも「クラウドネイティブ」の一つだと思うんですよね。開発者の立場からしたら、「お願い」と任せれば、全てこれが達成される世界が理想です。

青山 そうですね、どのエンジニアがどこまで意識するかというのはありますね。アプリケーション開発者が全てを意識すべきかと言えば、PaaSなどを使うのであれば必要ないですし。ただし、インフラや「SRE(Site Reliability Engineer)」の人は、内部実装を知っておいて、Trail Mapに書かれている項目が達成できているかどうかを分かっておくべきだと思います。

草間 はい、役割によっては内部実装まで知っておく必要があると思います。「SRE」という単語が出てきましたが、Trail Mapに書かれているようなことを実践するには、ソフトウェア、インフラ両方の知見を持つ人材が必要不可欠です。「クラウドネイティブに向かう過程で、運用に関してはSREと呼ばれるような新しい役割を持った人が求められるようになる」ということだと思います。

青山 分散データベースの詳細な実装などは、アプリケーション開発者にとっては気にしたくないですからね。もちろん、特別にシビアなパフォーマンスが要求されるケースでは知っておかなければいけないケースもあると思いますが。

草間 アプリケーション開発者の理想は「いい感じでデータを保存してくれて、いい感じで動いてくれればいいよ。中の実装は気にしないよ」ということになります。

特集:クラウドネイティブとは何か? クラウドネイティブは「攻めのIT」の前提 ではその具体的な姿とは

今や、あらゆるWebテクノロジー企業が「クラウドネイティブ」を目指している。一般企業においても、デジタル化への取り組みに伴い、この言葉が最重要キーワードとして浮上している。クラウドネイティブは、これからの攻めのITにおける前提になったといって過言ではない。そこで次に語られるべきは、「具体的に何をやっていくのがいいか」ということだ。パブリッククラウドを使えば自動的にクラウドネイティブになるわけではない。本特集では、クラウドネイティブに一家言を持つ青山真也氏と草間一人氏の対談や、事例を通じ、クラウドネイティブの具体的な姿を明らかにしていく。


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