CIOが知るべき、2020年における5つのデジタル技術トレンド:Gartner Insights Pickup(156)
CIO(最高情報責任者)はデジタル技術を理解するとともに、人々がデジタル技術をどのように利用し、体験するかを理解する必要がある。顧客のデジタル体験に大きな影響を及ぼす5つのトレンドを紹介する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
宅配ピザチェーン大手のDomino’sは、顧客がデジタル技術を使ってできるだけ多くのデバイスやプラットフォームから注文できるようにするという目標を掲げた。同社がこの目標の達成に向けて策定したのが、マルチエクスペリエンス戦略だ。顧客がスマートフォンからスマートスピーカーまで、あらゆるデバイスから好きなメニューを注文できるようにするとともに、注文の追跡も「ピザトラッカー」で可能にし、注文品の配送は自律走行車で行われるようにするというものだ。
消費者のブランドとの関わり方は、この数十年で進化してきた。デジタルエクスペリエンスは、“デジタルオンリー”企業の専売特許ではなくなっている。企業におけるデジタルソリューション導入の進展とともに、ビジネスリーダーにとっては、顧客のデジタルエクスペリエンスに革命的な変化を起こすトレンドを理解することが重要となっている。
企業は、シームレスなデジタルエクスペリエンスが全体的な顧客満足にもたらす価値を理解している。「CIO(最高情報責任者)にとって重要なのは、デジタル体験がどのように構築され、提供されるかを理解することだ」と、Gartnerのアナリストでバイスプレジデントのダニエル・サン(Daniel Sun)氏は語る。
トレンド1:マルチエクスペリエンス
マルチエクスペリエンスは、デジタル世界における人々のさまざまなデバイスやアプリケーションとのやりとりを指す。マルチエクスペリエンスの構築には個々の顧客接点に固有のモダリティ(形式)に基づき、目的に合ったアプリケーションを構築しなければならない。また、Webやモバイル、ウェアラブル、会話、没入型といった顧客接点の全てにわたり一貫した統一的なユーザーエクスペリエンス(UX)の確保も含まれる。
マルチエクスペリエンスでは、新しいデバイスや新しいやりとりの方法(自然言語によるチャットや音声から、3Dや仮想環境で使われるジェスチャーまで)が、広く普及したWebブラウザやモバイルアプリと共存する。顧客は、生活や仕事でこうした新しい顧客接点を自由に組み合わせて利用する。
CIOは、マルチエクスペリエンスの設計や構築にビジネスパートナーを巻き込み、有意義なコラボレーションによってデジタルエクスペリエンス全体の向上につなげられるよう、ITと顧客エクスペリエンス(CX)のビジョンの推進でリーダーシップを発揮すべきだ。
「開発チームは、モバイルアプリの設計や開発、アーキテクチャをマスターしなければならない。モバイルは通常、マルチエクスペリエンスへの入り口になるからだ」(サン氏)
トレンド2:インタフェースレスマシン
さまざまな業種のメーカーが、マシン上での制御や従来のインタフェースモデルに見切りをつけ、顧客のモバイルデバイスで動作するアプリケーションに替えようとしている。モバイルデバイスの比較的大きな画面と高い解像度、豊富なデバイスAPIにより、マシン上のインタフェースを使用する場合よりもはるかに優れたデバイス制御エクスペリエンスを実現できるからだ。
インタフェースレスマシンはCIOに、デジタル製品管理に関する全く新しい視点を提供する。またCIOは、デジタル製品管理機能を自社の主要製品のデジタル拡張に適用する可能性を考えることもできる。
トレンド3:エージェントインタフェース
エージェントインタフェースは人間とコンピュータの対話の新しいパラダイムであり、企業による顧客とのやりとりやサービス提供、従業員向けツール配備の在り方といった幅広い側面に大きく影響する。会話UI(チャットbot)がその好例だ。会話UIの最も一般的なアプリケーションの1つが、「Amazon Alexa」のような仮想アシスタントだ。
チャットbotにより、指令を出すのに必要な手順がシンプルな会話に簡略化される。エージェントインタフェースは人工知能(AI)を利用して、過去のやりとりを記録したマスターインタフェース上のデータを踏まえ、ユーザーが何をしようとしているかを予測する。
「エージェントインタフェースの普及が進む中、CIOは、このインタフェースの開発とビジネス活用に必要なスキルを持った人材を確保する必要がある」(サン氏)
トレンド4:顔認証決済
顔認証決済は、主に中国で登場し始めているデジタルエクスペリエンスのトレンドだ。ただし、この決済の実験的な取り組みは、他の国にも急速に広がろうとしている。顔認証決済はQRコード決済の利用を押し上げ、クレジットカードや現金の利用を減少させると予想される。だが、この技術が使われるためには、提供者に対する高い信用や信頼が前提として必要だ。中国以外の国や地域では、AppleのFace IDとApple Payの組み合わせが徐々に人気を集めつつある。ユーザーとエコシステムプロバイダー(銀行など)の間に信頼関係があるからだ。
トレンド5:インクルーシブデザイン
インクルーシブデザインは、「幅広いコミュニティーのニーズに対応する最良の方法は、存在し得る全てのコミュニティーの特別なニーズを考慮すること」という原則に立つことだ。
デザイナーは、デザインする商品やサービスの全ての潜在的なユーザーについて考える必要がある。デザインに使用するデータソースは、全ての潜在的なユーザーセグメントを反映している必要があり、狭すぎる、あるいはインクルーシブではないデータセットは避けなければならない。
「デザイナーはデータや分析の専門家と連携することで、全てのターゲット顧客セグメントのニーズや価値、行動を反映したデータを使わなければならない」と、サン氏は述べている。
出典:5 Digital Technology Trends for 2020(Smarter with Gartner)
※この記事の原文は2019年11月に公開されており、その時点での世界の企業の状況を前提としています。
筆者 Manasi Sakpal
Public Relations Manager
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