CIOが押さえるべき、プレゼンテーション改善のためのチェックリスト:Gartner Insights Pickup(169)
プレゼンテーションのオーディエンスは今や、プレゼンターが常に楽しませ、魅了してくれると期待する。CIOが自らのアイデアへの支持を取り付けるには、効果的なコミュニケーションテクニックを学び、実践しなければならない。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
CIO(最高情報責任者)が、IT部門や自身が戦略的パートナーとして認められることを目指すなら、テクノロジーによってどのように売上高を伸ばし、ビジネスを変革できるかという魅力的なビジョンを伝える必要がある。CIOには強力なアイデアと、人々を納得させる強力なプレゼンテーションスキルが必要だ。
「優れたコミュニケーションスキルは成功に欠かせない」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターの、エド・ガブリス(Ed Gabrys)氏は語る。
「だが、多くの人がアドリブでも構わないと、あるいは“そこそこの”プレゼンテーションでやっていけばよいと考えている。聴衆はより多くを期待しており、これでは聞くのをやめてしまう。ガートナーの調査によると、95%近くの人が会議中に別の仕事をしていると認めている」(ガブリス氏)
“そこそこのプレゼンテーション”では、CIOにとって芳しくないのは明らかだ。TED(Technology Entertainment Design)のカンファレンスでの講演がインターネットで配信され、世界中で視聴できるようになったことから、どこでも、どんな文脈でも、プレゼンターに期待する水準が上がっている。プレゼンテーションは、もはや明確で正確なだけでは不十分だ。人を引き付け、共鳴させるものでなければない。そうでなければ、聴衆はポケットからパーソナルデバイスを取り出し、それに見合うものを探せばいいのだ。
聴衆を引きつけるには、以下に示すコミュニケーションのベストプラクティスを実行するとよい。
双方向のコミュニケーション(インタラクション)をしかける
プレゼンテーションが続く時間が、10分か20分か、40分かにかかわらず、オーディエンスはある時点でスマートフォンをチェックしたり、To-Doリストに項目をメモして聞き流したり、別の仕事をしたくなる。インタラクションを通じて、聴衆のこうした注意散漫な状態を克服できる。
聴衆が2人でも200人でも、短いインタラクションの機会を設けると、プレゼンターに注意を向け直すように促す効果がある。インタラクションは、人々を受動的に聞くモードから反応や応答をするモードに変える。次の方法でインタラクションを行うことを考えよう。単純なものからより複雑なものへと並んでいる。
- 一呼吸置く:話の途中で一呼吸置くと、聞き手に対し、何か重要なことが起こったか、起ころうとしていると知らせることになる。すると聞き手は、プレゼンターのメッセージに考えを巡らせる。
- 質問をする:質問は、プレゼンテーションを講義から会話に変える。「〜〜を見たことがありますか」のような修辞的な質問は、人々に自分の経験を振り返らせる。「時間を取って●●について考えてみてください」のような自由回答形式の質問は、人々に概念形成を促す。オーディエンスが大勢の場合は、質問をして一呼吸置くと人々にじっくり考えさせられる。小さな内輪のグループでは、質問によってグループ内のやりとりを活性化させられる。
- 課題を出す:プレゼンターの古典的なテクニックの一つとして、挙手を求め、一般的な経験や経歴などを話してもらうというものがある。モダンなプレゼンターは聴衆にオンライン投票を求め、プレゼンテーションが終わる前にその結果を共有したり、難問を投げ掛け、近くにいる人同士で数分間話し合ってもらったりする。
言葉や話すときのトーン、スピード、ジェスチャーに変化を付ける
プレゼンターは、多くの時間を費やして言葉を選ぶ。そうであってしかるべきだ。そうであるなら、プレゼンターはこれと同じくらいかより多くの時間をかけて、話すときのスピードや抑揚、物理的なジェスチャーなどに注目して、賢明な伝え方を見いださなければならない。言葉とその伝え方の組み合わせが意味を届けるからだ。
例えば、「オーケイ」というシンプルな言葉の意味が言い方によってどう変わるか、10代の頃の自分を想像して考えてみよう。「オーケイ!」と快活に、語尾が少し弾むように言うと、わくわくして意気込んでいることが伝わる。「オーケイ。映画館まで友達も一緒に乗せてって」といった具合だ。あるいは、「オーケイ」の語尾の「エイ」を延ばして抑揚を下げると、気が進まず、仕方なく返事をしているのが露骨に伝わってしまう。「オーケーイ。食洗機の食器を片付けるよ」といった場面にありがちなパターンだ。
プレゼンテーションを行うときも、トーンや抑揚によって伝わる意味が変わってくる。このため、自分のコアメッセージは何か、自分は何を伝えたいかを考える必要がある。テーマは重大な、あるいは人を触発するものだろうか。ユーモラスな、あるいは感情的なものだろうか。自分の意図を明確にし、以下のようなテクニックを活用して、それらを強調するとよい。
- 視線を合わせる:会話をするときのように、話しながらオーディエンス一人一人と向き合うつもりで、視線を送っていく。1人につき2〜5秒程度ずつ目を合わせてから、次の人に視線を向ける。照明や距離のせいで、実際に目を合わせるのが難しい場合は、聴衆がいる場所に視線を集中させ、移動させていく。話す内容を十分頭に入れ、紙やコンピュータ画面上のメモを見ないで済むようにする。それらを見ながら話すと、オーディエンスとの間に距離ができてしまうからだ。
- ジェスチャーを活用する:プレゼンテーションの中での言葉や感情に合わせて振り付けをする。興奮や熱意を伝えるときは、大きなジェスチャーと生き生きとした顔の表情を組み合わせる。重大な、あるいは憂慮すべき情報を伝えるときは静止し、ジェスチャーも小さくする。文脈にかかわらず、動作は意図的に行い、髪をさっとかき上げたり、腕時計を見たりといった小さな動作を無意識に行わないようにする。
- テンポ、声の大きさ、強勢に変化を付ける:これらのバリエーションによって、聴衆の注意を引くことができる。このため、話す内容の流れに沿ってトーン、スピード、抑揚を意識的に変える必要がある。ストーリーを語るときは、登場人物が活発に動いているときはスピードを上げ、登場人物がじっくりと考えたり、結果を検討したりするときはスピードを落とす。声を大きくしたり、通常よりゆっくり話したりすることで、重要な言葉を強調するという手もある。
ビジュアルを使って補完する、または全くビジュアルを使わない
優れたプレゼンテーションはビジュアルを必要としない。聴衆を魅了するのに必要なのは、言葉をうまく選び、効果的に伝えることだけだ。
ビジュアルを求めるプレゼンターは、自分のメッセージを補完または強調するためにそれを使うべきだ。ビジュアルが、聴衆の注意をメッセージからそらしてはならない。一般論としていえるのは、「ビジュアルはビジュアルにすぎない」ことを念頭に置くことだ。ビジュアルには写真、グラフィックス、ビデオクリップ、アニメーション、データ表現など、さまざまなものがある。スライド内の言葉は、最小限にとどめるべきだ。オーディエンスは、プレゼンターの話に耳を傾けるか、スライドを読むかのどちらかに集中してしまう。話を聞かないきっかけを与えてはならない。
ビジュアルを使う際のベストプラクティスは、以下を徹底することだ。
- 事実を正確に伝える:調査結果やデータを共有するときは、背景にある方法や、これらによって明らかになった事項を理解し、それらの事項を正確に伝えるようにする。データを表で示すのではなく、グラフで可視化することで、意味がよりはっきりする。
- 事実と洞察を組み合わせる:事実を伝えるだけではいけない。聴衆が事実や明らかになったことを、なぜ気に掛けなければならないかを説明し、それらについてすべきことのアイデアや例を提供することが重要だ。
- ビジュアルを使ってサポートする:難しいアイデアを言葉とビジュアルで再構成して提示し、人々がそのアイデアを理解できるよう支援する。
- ビデオやオーディオの活用を探る:ビデオやオーディオは口頭のプレゼンテーションで使われることは珍しいが、オーディエンスの注意を再び引きつける効果的な方法だ。ビデオによって、オーディエンスはプレゼンターが言葉で説明する場所やイベントを目の当たりにする。オーディオは雰囲気を作ったり、専門家の証言を伝えたりできる。
出典:A CIO’s Checklist for Better Presentations(Smarter with Gartner)
筆者 Laura Starita
Former Analyst, Gartner associate
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