コロナ禍で官公庁のOSS活用に注目――いまさら聞けない「オープンソース」の理念とメリット/デメリット:いまさら聞けないOSSの基礎知識(1)(1/2 ページ)
企業がOSSを上手に活用する上で知っておくべきオープンソースの理念やライセンスをおさらいしていく本連載。初回はオープンソースの理念やOSSのメリット、デメリットについて。
意外に知らないかもしれないOSSの基礎知識
ソフトウェア開発において、オープンソースソフトウェア(OSS)を用いた開発は当たり前になりつつあります。最近では、東京都が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策サイトのソースコードをGitHubで公開したり、厚生労働省がOSSを基に新型コロナウイルス接触確認アプリの開発を進めたりしたことも注目されました。
政府がOSSを活用する動きは日本だけではなく海外でも盛んに進んでおり、OSSやそのコミュニティーの力が再認識されています。一方で、OSSに対する誤解がトラブルに発展することも少なくありません。企業がOSSを活用したり公開したりする上では、OSSの定義やOSSライセンスを理解することが大切です。
本連載では企業がOSSを上手に活用する上で知っておくべきオープンソースの理念やOSSのライセンスをおさらいしていきます。初回となる今回はオープンソースの理念やOSSのメリット、デメリットを解説します。
なぜOSSと呼ぶのか、ご存じですか?
そもそもOSSという言葉は、1998年ごろから使われ始めました。OSSの理念や定義を知るために、少し時計の針を戻したいと思います。
UNIXのトラブルから生まれた運動
1969年にAT&Tのベル研究所で「UNIX」が開発されました。当時、親会社のAT&TがIT市場でのビジネスを認められていなかったため、UNIXの商用販売はできませんでした。そのため、UNIXの利用条件は緩く、大学や企業での利用が広まっていきました。これによって、世界中の大学や企業の技術者がUNIXに貢献しました。
ところが、1982年にAT&Tが独占禁止法違反の和解を受け入れ、複数の会社に分割およびIT市場への参入を許可されると、AT&TはUNIXの利用条件を厳しくし、UNIXの利益を独占しようとしました。
これに対し、MIT(マサチューセッツ工科大学)にいたリチャード・ストールマン氏を中心としたGNUプロジェクトが「GNU宣言」を発表。「全てのソフトウェアは、ソースコードが自由に提供されなければならない」とする「フリーソフトウェア(自由ソフトウェア)」の理念を推進するようになりました。
GNUプロジェクトの目標は、商用化されたUNIXに対抗するためUNIX互換のOSを作成することでした。このGNUプロジェクトにカーネル(現Linux Kernel)を提供したのが、当時まだ大学生だったリーナス・トーバルス氏でした。
1997年2月にドイツで開催されたLinux会議で、エリック・レイモンド氏が「伽藍とバザール」を発表しました。ソフトウェア開発に関する論文で、インターネットでつながったエンジニアが協力しながらLinux Kernelのようなソフトウェアをなぜ開発できたのか論考したものです。今日ではOSSコミュニティーによる開発は珍しくありませんが、従来のソフトウェアの開発手法とは一線を画すとして当時注目されました。
Webブラウザをめぐる覇権争い
一方その頃活発になっていたのが、Webブラウザの開発でした。1993年にNCSA(米国立スーパーコンピュータ応用研究所)に在籍していたマーク・アンドリーセン氏が開発した「NCSA Mosaic」が登場しました。
その後、マーク・アンドリーセン氏はNetscapeを設立し、1994年に「Netscape Navigator」をリリースすると瞬く間に支持を集め、最盛期には9割ものシェアを獲得するに至りました。
これに対抗したのがMicrosoftです。Microsoftは「Internet Explorer」を開発し、Windows OSに同梱することで、Webブラウザのシェアを急拡大していきました。
結果として、Microsoftにシェアを奪われたNetscapeは、ソースコードを公開してコミュニティーの力を借りることで開発リソースを補い、シェアの回復を図ろうとしました。
1998年2月にパロアルトで開催された会議でNetscape Navigatorの関係者や開発者が集まり議論が交わされました。リチャード・ストールマン氏によるフリーソフトウェアの考え方は多くの敵を生み出していたことから、コミュニティーの力を借りるためにフリーソフトウェアではなく「オープンソースソフトウェア」という言葉を使うことに決定。これを機にOSSとしてソフトウェアを開発する文化が広まっていきました。
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