YKK AP、リクルートホールディングスの「日常業務を変える、変わる」話がおもしろい:ほぼ月刊Google Cloud(2)(1/2 ページ)
働き方改革におけるITツールは、あくまでもツールでしかありません。YKK APとリクルートホールディングスの「G Suite」導入事例からは、「どのように日常的な業務を変えられるか」が重要であることが分かります。
「働き方改革」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、どちらも広い意味を持った言葉です。社員一人一人にとっては、デジタル活用で自分たちの日常業務をどう改善できるのか、仕事がやりやすくなるのかが優先順位として高いと思います。
先日、YKK APとリクルートホールディングスが、「G SuiteによるDX事例」として、それぞれ自社における取り組みを説明しました。いずれもG Suiteを導入したこと自体よりも、これをツールとして活用することで、どのように日常的な業務が変わってきたかについての話が興味深かったです。
YKK APでは新型コロナ禍で日常の働き方が大きく変化したといいます。また、リクルートホールディングスでは、従業員体験(エンプロイーエクスペリエンス)の向上を目的とした取り組みをしていて、通常は製品・サービスの顧客満足度を計る指標である「NPS(ネットプロモータースコア)」まで使い、効果を計測しているそうです。
今回は、このお2人のお話をお届けします。
従業員体験の向上を目的として定め、地道に働きかける
リクルートグループの持株会社、リクルートホールディングスでは、ICT推進部の4人で構成したチームで、約200人の従業員の働き方変革を、IT面で支援する取り組みを進めている。その具体的な目標と戦略、成果について、RHC ICT 推進部 UX Expertの田中ライカ氏が説明した。
リクルートホールディングスの働き方改革では、「従業員体験の向上」を目指してきたという。これにITの側面から取り組むICT推進部は、従業員の抱えている課題や不満の本質を見定め、先行的にこれらの解決を図ることに努めてきたとする。
リクルートグループは、ITエンジニアリング力で知られている。だが、エンジニアのパワーはもっぱら顧客のために費やされ、社内の業務改善に生かされることはない。そこで、「エンジニアを使わずともスタッフだけで定常業務を減らして、コラボレーションを促進できるようにし、業務イノベーションに取り組める」土壌を作りたかったと田中氏は話した。
ツールとしてはG Suiteを選択した。機能比較の結果ではなく、上記のICT推進部がやろうとしていることと、製品コンセプトが合致していたからだという。
「従業員がこれまでの業務のやり方を変えることを求められれば、『なぜやるのか』『なぜ今なのか』といった反発が起きるのは自然。コンセプトでツールを選んでいれば、理由をしっかり伝えることができ、ツールを根付かせやすくなる」(田中氏)
ICT推進部では、次の4つの点を念頭に、G Suiteによる働き方変革を進めてきたという。
1.施策の透明性を保つ
業務に影響がある施策は、実施の3カ月前に知らせ、事前にユーザーからのフィードバックをもらう。また、「ITロードマップ」として、4半期ごとにICT推進部が何をやっているかが一目で分かるような資料を提示している。導入ステップは、「テスト」「α」「β」「GA」に分けている。βは、「いったん全社で使ってみて、ダメならやめる」という段階だという。
2.困っている人に着目し、丁寧にサポートする
施策に関連して困っている人がいた場合、現状の仕様に問題があるか、新しいことをやろうとしているかのどちらかである可能性がある。こうした人たちを丁寧にサポートする必要がある。
サポートの方法には、問い合わせに対応する「カスタマーサポート」、能動的に手を差し伸べる「カスタマーサクセス」の他に、「ITソリューション」がある。これは困っていることを解決するような仕組みを共同で作り上げることだという。例えば、各部署で重複する問い合わせに対応するチャットbotを、G Suiteで構築した例があるという。
3.有益な情報は何度も伝える
ナレッジなどの有益な情報も、業務で忙しい社員には伝わりにくい。一度の情報発信では足りないので、さまざまな手段を用い、何度も繰り返し伝える必要がある。田中氏たちはIT推進部のブログを毎週更新している他、G Suiteのチャット機能「Google Currents」では、毎日Tipsをつぶやいている。
4.変わった先に何が待っているかを明確に伝える
「変わることはつらいこと」(田中氏)。働き方の変革に対するモチベーションを上げるため、やり方を変えるとどんないいことがあるのかを具体的に示すことが重要という。こうした例の1つとして、田中氏は上記のチャットbotを挙げた。
上記の第4の点にも関連するが、「Microsoft Excel」による作業をG Suiteの表計算機能「Google スプレッドシート」に置き換えるだけでは、ユーザー同士が共同編集できるメリットはあるものの、大きな変化はない。だが、アンケートなどを作れる機能の「Google フォーム」で取得したデータが、自動的にGoogle スプレッドシートに取り込まれ、即座に分析できるといったこれまでではできないことを体験してしまえば、後には戻れなくなるという。
ICT推進部では、働き方改革の取り組みを、製品・サービス事業者が顧客満足度を図る指標として用いられているNPSで毎年計測している。
「10段階評価で9、10点をつけた『推奨者』の数から6点以下の『批判者』の数を引いた厳しい指標」(田中氏)。当初は-13といった数値だったが、最近ではプラスに転換しているという。
また、ICT推進部では「Google ドライブ」や「Googleドキュメント」、Google スプレッドシートといった機能の利用促進に努めてきた。これらの機能の利用率はなかなか上がらなかったが、直近では7、8割に達したという。「業務プロセス自体を見直してくれている傾向が分かる」(田中氏)。
田中氏は、「魔法のようにはいかない。地道に働きかけて徐々に浸透するものだと実感している」と話した。
新型コロナで新しい働き方が急速に浸透
窓・サッシからビル設備、産業部品まで多角的にビジネスを展開するYKK APが、働き方改革の一環として、日常業務を変える取り組みを始めたのは2017年。それまでのコラボレーションツールのリプレースがきっかけだった。後継ツールについては「運用負荷の低いクラウドサービス」「働き方改革の推進に役立つもの」という要件で検討し、G Suiteの採用に至ったという。2017年度末までには、約1万6000人の従業員のうち、工場で働く一部を除く全社への展開を完了した。
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