インパクト大の4つの先進技術:Gartnerの最新レーダーレポートから:Gartner Insights Pickup(200)
ITリーダーが押さえておくべき注目の技術とは? Gartnerの最新レポートから、4つの先進技術について紹介する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
仮想アシスタントはしばらく前から存在し、多くの消費者が使い慣れているが、アプリケーションは限られており、そのエクスペリエンスは貧弱な場合がある。しかし、「高度な仮想アシスタント」と呼ばれる全く新しいレベルの仮想アシスタントが、開発の途上にある。仮想請求エージェント、仮想AI/VR(人工知能/仮想現実)エージェント、仮想ドライバー/運転代行者といった機能を果たすものだ。
高度な仮想アシスタントは産業、組織、消費者の関わりに大きなインパクトを与えそうだ。だが、この技術は、最近Gartnerが発表した「Emerging Technologies and Trends Impact Radar for 2021」(先進技術およびトレンドのインパクトレーダー2021)で取り上げられた、インパクトが大きい23の技術の一つにすぎない。
以下では、その中でも特に興味深い一部の技術について見ていこう。比較的近い将来にブレークしそうな幾つかの技術(高度な仮想アシスタントなど)と、かなり先に開花しそうな技術(AR《拡張現実》クラウド)だ。これらの技術は、次の3つのテーマのいずれかに当てはまる。
- インタフェースとエクスペリエンス:われわれの世界との関わり方を根本的に変える技術
- ビジネスイネーブラー(革新の原動力):慣行やプロセス、方法、モデル、機能を変えることで、企業にインパクトを与える技術
- 生産性革命:企業が問題の分類、予測、解決を、人間には不可能なスピードや精度、規模で行うのに役立つさまざまな技術やトレンドの複合
これらの技術を含むGartnerの2021年における先進技術およびトレンドのインパクトレーダーを、下図に示す。黄色の円と、白、薄いグレー、濃いグレーに色分けされた3つの円環の各範囲は、「技術やトレンドを取り入れる人々が、イノベーター理論における“アーリーアダプター”を超えて“アーリーマジョリティー”にも広がる」――つまり、「技術やトレンドが市場に本格的に浸透し始める」までにかかる年数の推計で区分されている。個々の先進技術やトレンドに付されたドット(レーダースクリーン上の輝点を模している)のサイズと色は、技術やトレンドが、既存の製品や市場に与えると予想されるインパクトの大きさを示している。
高度な仮想アシスタント(AVA)
高度な仮想アシスタント(「AI会話型エージェント」と呼ばれることもある)は、人間の入力を処理し、予測や判断をする。この技術は、会話型ユーザーインタフェース、自然言語処理(NLP)、セマンティックおよびディープラーニング技術(DNN:ディープニューラルネットワーク、予測モデル、意思決定支援、パーソナライゼーションなど)の組み合わせを基盤としている。
主流の採用までに要する年数:1〜3年
市場に本格的に浸透し始めるまでにかかる年数は、機能が限られた現在の仮想アシスタント(数年前から存在している)から、さまざまな職務や機能をターゲットにした高度な仮想アシスタントへの発展状況に左右される。この発展に伴い、消費者の生活やビジネスでのやりとり、業務運営のあらゆる場面でAI会話型エージェントの導入が進みそうだ。
高度な仮想アシスタントは、大きなインパクトをもたらす可能性がある。ほぼ全分野の全領域で利用できるからだ。この技術は、顧客エクスペリエンスおよびエンゲージメントを向上させながら、アプリケーションの業務利用や消費者のデバイスおよびIoT(モノのインターネット)利用の在り方を変える可能性を持っている。
トランスフォーマーベースの言語モデル
トランスフォーマーベースの言語モデルは、文におけるシーケンスとして単語を処理するDNNだ。このアプローチは、言葉の背景にある文脈や意味を保持する。また、翻訳、音声のテキスト変換、自然言語生成の精度を大幅に高める。このモデルは、数十億のフレーズを含む膨大なデータセットでトレーニングされる。
主流の採用までに要する年数:1〜3年
市場に本格的に浸透し始めるまでにかかる年数は、トレーニングツールの効果、ランタイムの効率、展開のしやすさに左右される。「GPT-3」などトランスフォーマーベースの言語モデルが生成する複数段落の文章は、十分な教育を受けた人が書いたものと区別がつかない。
トランスフォーマーベースの言語モデルは、非常に大きなインパクトをもたらす可能性がある。再帰型ニューラルネットワーク(RNN)システムに驚くべきペースで取って代わるからだ。また、新しいツールが高度なテキスト分析や全ての関連アプリケーション(会話型ユーザーインタフェース、インテリジェント仮想アシスタント、自動テキスト生成など)を大きく改善する見込みだ。
パッケージ化されたビジネスケイパビリティ
企業はコンポーザブルビジネスを進めることで、購入または構築するアプリケーションコンポーネントから構成される、カスタムアプリケーションエクスペリエンスを構築できる。技術プロバイダーがコンポーザブルビジネスをサポートするには、ビジネスケイパビリティパッケージを提供する必要がある。ビジネスケイパビリティパッケージは、明確に定義されたビジネスケイパビリティのセットを表し、ビジネスユーザーからもそのように認識される。
主流の採用までに要する年数:3〜6年
市場に本格的に浸透し始めるまでにかかる年数は、製品をモジュラー化するベンダーの多さに左右される。ただし、この動きが進んでも、小規模プロバイダーや古い技術から移行途上のプロバイダーは、そうしたAPI活用のごく初期の段階にとどまる。
ビジネスケイパビリティパッケージは、中程度のインパクトをもたらす可能性がある。この技術は通常、既存機能を再パッケージ化したものだが、コンポーザブルビジネスの実装が拡大すれば、従来のプロバイダーがソリューションをマーケティング、販売、提供する方法も変わっていく見通しだ。
ARクラウド
ARクラウドは、デバイスの画面に映る実際の人や物、場所に重ねて、文脈を踏まえて連携する、永続的なデジタルコンテンツを表示する。これにより、周囲を取り巻く物理的なあらゆる側面に直結する情報やサービスを人々に提供することで、物理世界とデジタル世界の融合を実現する。
例えば、ARクラウドにより、スマートフォンやタブレット、またはヘッドマウントディスプレイ(HMD)でバスやバス停を“見る”だけで、誰もがその場の文脈(自分の状態、地理的位置、カレンダーの約束、移動に関する好みなど)に基づいて、公共交通の料金や経路、運行スケジュール、乗り換え案内などの情報を受け取れるようになる。例えば、「バスがこの数週間、どのくらいの頻度で遅れているかを、他の人の情報発信から知る」など、さらに詳しい情報をクラウドソーシングすることも可能になる。
主流の採用までに要する年数:6〜8年
市場に本格的に浸透し始めるには、多くの基盤要素がそろう必要がある。その中には、エッジネットワーキング、広帯域かつ低遅延の通信、ARクラウドにパブリッシュするための標準化されたツールとコンテンツタイプ、コンテンツの管理と配信、シームレスで場所を問わないエクスペリエンスを保証する相互運用性などが含まれる。
ARクラウドは、非常に大きなインパクトをもたらす可能性がある。人々と世界との関わり方を変えるからだ。ARクラウドは人、場所、モノのデジタル抽象化レイヤーを提供し、ビジネスおよびコンシューマーアプリケーションの新しい使い方を可能にし、地理的位置にかかわらず、あらゆる産業にインパクトを与える。これによって新しいエクスペリエンスを実現し、ひいては新しいビジネスモデルや物理世界とかかわり、収益につなげる新しい方法も生み出す。
出典:4 Impactful Technologies From the Gartner Emerging Technologies and Trends Impact Radar for 2021(Smarter with Gartner)
筆者 Tuong Nguyen
Sr Principal Analyst
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