しつこいポップアップ、早過ぎるサインイン要求はNG――主導権をユーザーに渡し「愛されるUI」になるデザインとは?:失敗例に学ぶ優れたUI(終)(1/3 ページ)
デザインを専門的に勉強したわけではないけれど、Webデザインも手掛けるエンジニアに向けて「よく見る」失敗例から改善案を提案する本連載。最終回となる今回は「ユーザーの行動を操ろうとし、目的地へたどり着かせない」UIと、それに対する解決案を解説します。
UI(ユーザーインタフェース)という言葉は、PCやスマートフォンでの画面上のデザインを指して使用されています。物理的なモノではない画面の向こうのモノは、押せるのか、めくれるのか、持ち上げられるのか、ユーザーをしっかりと導くことのできるデザインにすることが不可欠です。
ボタンを「押せそう」なデザインにすることは大切です。しかし、結局のところそのサイトがユーザーに愛され、進んで登録や購入するようになるには、もっと根本的な部分でサイトの設計を考える必要があります。
理想的なのは、ユーザーが考えずに行動しても、たどり着きたい場所へ導いてくれるデザインです。ただし、デザインがユーザーの行動を操ってはいけません。主導権はあくまでユーザーに握らせるべきです。
今回は、「ユーザーの行動を操ろうとし、阻害し、目的地へたどり着かせない」UIと、それに対する解決案を解説していきます。
早過ぎるサインインの要求
サービスを使うに値するかサイトを吟味しているとき「これ以上の機能を使うにはサインインしてください」と表示されます。使えるかどうかも分からないのに、個人情報の提供と面倒な入力作業を求められるのです。人はそれだけで簡単に離脱します。
不特定多数が書き込んだり見たりすることができる情報だと、価値が下がるものもあります。転職先の情報を集めるのに、誰でも企業の批判を書き込めるとしたら、そのWebサイトは信ぴょう性が高いとはいえません。
しかし、実際に使ってみないと使い心地が分からないWebアプリで最初からユーザー登録を求められるのはサービス提供側の都合である印象も受けます(一部のSNSなどアカウント自体がサービスの利用に必要なものは除きますが)。
ユーザー名、メールアドレス、性別、生年月日、住まい……Webアプリを使うのにどこまでの情報が必要なのでしょうか。項目が多ければ多いほど面倒に感じたり、入力を間違えて警告の回数も増えたりするでしょう。どんどんそのサービスを使用する気持ちが薄れていくかもしれません。
ただ試しに使ってみたいだけだったのに「アカウント名にアンダーバーは含まないでください」と警告されたら「もう結構です、他のWebサイトに移動します」と考えるユーザーもいるかもしれません。
求めていることにたどり着くまでのコスト
インタラクションコストという言葉があります。ユーザーが本当に必要だと思っている情報にたどり着くのに、かけざるを得ないコストのことです。読む、スクロールする、クリックする、入力する、これら全てがインタラクションコストです。もちろん、コストは限りなく少ない方がユーザーにとって快適です。
Webアプリを使うメリットは、自分のPCやスマートフォンにアプリをダウンロードせずに済むところです。ダウンロードするだけで「保存場所を決める」「ダウンロードされることを待つ」「アプリを起動する」というコストが発生します。最悪の場合、容量が足りないので空き容量を増やしてくださいという警告が出るかもしれません。その場合は使用していない他のアプリのうち、どれを削除するか考えて実行するコストが発生してしまいます。
そのようなコストを払わせず、快適なサービスをブラウザ上で提供しているのに、別の所でコストをかけさせてしまうのはもったいないことです。ユーザーはコストが少ない方を自然と選びます。サービスを使ってもらう前に登録が必要な、正当な理由があるのか検討してください。ただメールアドレスを集めたいだけという企業の意思はユーザーも読み取っています。
最近は新たにアカウントを作ることすら求めないサービスも増えました。Google、Facebook、Twitterなどのアカウントを利用できるようにするケースです。これは優れたインタラクションコスト削減の方法ですが、それでもサービス利用前にアカウントの開示を求めることはユーザーにとって抵抗があることを覚えておいてください。一番良い方法は、ユーザーが「このサービスは十分に使える」と判断したときに登録を求めることです。そして本当に必要な情報以外の入力はユーザーの判断に任せてください。メールマガジンの登録は、強制しない方がより多く登録されます。
サービス提供側が、個人情報を提供してほしいことは理解できます。しかしその行動を強制するようなWebサイトの作りは、長期的に見るとユーザーの離脱を招きます。本当に欲しいものは多くの(サービスを使用していない)登録者やメールマガジンの送付先ではないはずです。目先の登録者数を求めず、サービスを快適に使用してもらい、企業のファンになってくれるユーザーを長期的な視点で増やしていきましょう。
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