リモートワーク時のアジャイルソフトウェア開発チームに役立つ6つのベストプラクティス:Gartner Insights Pickup(208)
アジャイルなソフトウェア開発チームは、コラボレーションとダイナミックな交流によって力を発揮する。6つのベストプラクティスを実践することで、チームがリモートワーク時にも効果的に機能し、エンゲージメントを保てる。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
2020年、リモートワークへの移行が一気に進み、ソフトウェアエンジニアリングやアプリケーションのリーダーからは「開発スピードが低下するのではないか」と懸念する声が上がった。
もともと、アジャイル開発チームは自律性や変化への適応性が高い。だが、アプリケーション技術者の集団として力を発揮し続けるには、緊密なコラボレーションやフィードバックループ、ダイナミックな交流といった強力なチーム文化を維持しなければならない。
Gartnerのアナリストでシニアディレクターのピーター・ハイド(Peter Hyde)氏は、Gartnerの顧客とのセッションでリモートソフトウェア開発チームが効果的に機能し、成功を収めるための6つのベストプラクティスを解説した。以下、その概要を紹介する。
リモートワークへの移行:開発チームはどのように適応しているか
リモートワークへの突然の移行は想定外だったが、大抵の場合、驚くほど円滑に行われた。リモートワークに入ってからこれまでの期間における、リモート開発チームの実績状況を見てみよう。
最近発表された50のリモートアジャイル開発チームに関するレポートは、さまざまな結果を示している。
- チームの92%は、コードの作成量が平均10%増えている。これは好ましい傾向だ
- 残念ながら、チームの63%はリリース頻度が低下しており、総リリース回数は21%減と気掛かりな減少率を示している
- その一方で、平均リリースサイズは64%拡大している。これに伴い、リスクが上昇し、価値創出に要する時間が増えている
このように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)以前の方が、小規模なリリースが頻繁に行われて非常に活発だった。今では、より大規模なリリースがより低頻度で行われ、リスクが高くなっている。リモート化したアジャイルチームにとって芳しくない状況だ。
しかも、サイクルタイムが45%もの大幅な増加を示しており、欠陥とプロダクトの問題も7%増えている。コードチャーン(変更量)の6%の増加に示されるように、品質も低下している。
こうしたネガティブな状況は、必要な準備やトレーニング、インフラがないまま、リモートワークチームに突然移行したことが原因だ。
リモートアジャイルソフトウェアチームは、次の課題に取り組む必要がある。
- この厄介な傾向をどう解決するか
- 完全なリモートのアジャイルチームをどうサポートするか
- 既存のアジリティを使って、新しい状況を受け入れ成功につなげるにはどうすればいいのか
生産的なリモートワーク環境の構築
効果的かつ効率的なリモートワークチームを作るための、6つのベストプラクティスがある。それは次の通りだ。
- 状況をレビューする
- チームとしてエンゲージメントを保つ
- 勢いを維持する
- オープンさを促進する
- テクノロジーを活用する
- チームプラクティスを展開する
1.状況をレビューする
まず、リモートチームの状況をレビューする。リモートワーク環境では、チームが同じ場所で働くメリットが失われる。例えば、常にやりとりができ、ペアを組みやすく、休憩スペースなどで雑談を交わせることがチームワークに役立つということだ。そのため、私たちは別の方法でコラボレーションに取り組む必要がある。幾つかの効果的なアプローチを取ることで、急にリモート環境に移ったチームに指針を提供できる。
- チームと60分のビデオ会議を開き、リモートワーク時のコミュニケーションとコラボレーションのやり方や、リモートならではの課題を解決するようにチーム文化をどのように進化させるか、チームの働き方をどのように適応させるかを説明する
- プロダクトオーナーと30分のビデオ会議をし、チームがプロダクトやビジョン、戦略に沿った行動を取れるようにする
こうしたビデオ会議は、チームが新しい働き方についての認識を共有し、目的意識の向上と土台を固めるのに役立つ。
2.リモートワークチームとしてエンゲージメントを保つ
リモートワークのスキルは、身に付けるのに時間と努力が必要だ。ビデオ会議はチームと関わる素晴らしい方法だ。だが、あなた方はビデオ会議をしながら、カメラをオフにしたり、マイクをミュートにしたり、電子メールをチェックしたり、別のドキュメントの作業をしたり、はたまたお茶を入れたりしたことが何回あるだろうか。
ビデオ会議のエチケットには、次のようなシンプルなルールがある。
- 参加する
会議が自分にとって価値がないと思ったら、招待を辞退する。出席したら、熱心に参加し、カメラをずっとオンにしておく。
- 人間味を出す
子どもやペットが映り込むのは心配しなくてもよい。むしろ歓迎すべきだ。あなた方が生身の人間であり、他の人と同じ問題に直面していることを示すからだ。他の会議参加者の邪魔になりそうな場合は、ミュートにしておく。
- チームの一員として行動する
チームからの招待があったら、必ず対応する。チームメンバーはフィードバックを聞きたいからだ。また、チーム文化を維持するためにビデオ会議を使ってチームでランチをしたり、仕事の後で飲み会を予定したりするとよい。その機会に、家族を紹介するのも良いアイデアだ。
リモートワーク文化の向上
文化は、効果的なコラボレーションの障壁と見なされる場合がよくある。リモートワーク時はこうした障壁がより厄介になる。文化先行型の企業は、将来目指す文化のビジョンに基づいて設立されている。ここではリモートワーク文化を向上させる幾つかの方法を以下に示す。
- Gartnerの、文化を多角的に捉える枠組みである“文化プリズム”の5つの側面について、組織の文化を再評価する
・目的:なぜ行動を起こすのか
・ルール:何が期待されているか、許容されているか
・帰属意識:他者との関係の中で自分をどのように認識するか
・安全性:互いの成功をどのように支援するか
・基準:何に価値を置いて注意を払うか
- 自社の価値を評価し、価値に沿って行動するための短いチームワークショップを推進する
- 自分が見たい行動を取る。文化は、何を話すか、何をするかだ
- 行動のガイドラインや基準となる、価値とチーム憲章について合意を形成する
- 日々、行動を導くこうした価値に忠実に従い、個人として文化的リーダーシップを発揮する
3.リモートチームの勢いを維持する
開発チームは、リモートで働きながら価値を生み出し続けなければならない。そのためには、一部のプロセスを調整する必要があるかもしれない。スクラムチームを例に取ろう。次の図は、包括的で信頼を築き、確実に全員の意見を聞くようにするための調整を示している。
顧客中心から顧客に寄り添う
私たちは、仕事をする理由がエンドユーザーのために問題を解決することであることを忘れる場合がある。リモートで働くと、プロダクトチームとチームがサポートする人々とを隔てる障壁が増えてしまう。
この問題に対処するには、自社のプロダクトを問題解決に利用する人々を助けることに改めて焦点を合わせる必要がある。顧客中心も素晴らしいアプローチだが、顧客に寄り添うことこそが成功する道だ。顧客に近づき、顧客がどんな目標を達成しようとしているかを理解し、達成を支援する。
ジャーニーマッピングを使用して、システムが実際にどう使われているか、開発作業に優先順位を付けて、生み出される価値を最大化する方法を理解する。正確な市場調査と検証を迅速に行い、顧客がプロダクト戦略に焦点を合わせ続けられるようにする必要がある。
4.リモートチーム内でオープンさと透明性を促進する
相互の理解と尊重に基づき、リモートチーム内で信頼を築く必要がある。毎週のリモートランチイベントや仮想コーヒーブレークによって、オープンな雰囲気を醸成する。こうした場では日常生活について話し、共感し合い、つながりを深め、自分の意志や考えを明確に伝える。
オープンさを促進し、透明性を実現することで信頼が築かれる。これにより、チームメンバーがリスクを取り、ミスを認め、頼り合い、共に成長することが可能になる。
- チームと仕事するときは、理解と共感を大事にする。ただし、進捗(しんちょく)よりも礼儀正しさを重視してはならない
- リモートワーク契約に抵触する行為については異議を申し立て、潜在的な問題については、時間とともに不満が高まらないよう早期に注意を喚起する
- オープンなコミュニケーションをする。リモートワーク時には、過剰なコミュニケーションというものは存在しない。チームの電子メールでは「全員に返信」機能を使い、コラボレーションツールでは質問を投げ掛け、誰でも貢献できるようにする
リモート時には、実際の顧客による作業を引き続き検証する必要もある。アジャイルチームが迅速に意思決定を下し、適切な機能に集中できるようにするには、迅速なフィードバックが不可欠だ。
対面でユーザーにテストしてもらうのが困難なため、同じ結果が得られるテクノロジーソリューションに頼らなければならない。「Zoom」や「Webex」によるビデオ会議、「Typeform」や「SurveyMonkey」による調査、「UserTesting.com」や「UsabilityHub」によるユーザビリティテストは、いずれも迅速なフィードバックを得る方法になる。
リモートチームの全員がユーザーテストに関わることで理解を共有し、より良いプロダクトエクスペリエンスを実現する。
5.リモートチームが効果を発揮するためのテクノロジーを活用する
リモートチームワークが効果を発揮するには、リモートテクノロジーのツールをうまく使い分け、さまざまなオープンチャネルを通じ、メンバー間で緊密なコラボレーションを実現する必要がある。
コミュニケーションとコラボレーションの良い習慣を身に付けるのは素晴らしい出発点になる。だが、リモートチームが成功を収めるには、仮想の共有チームスペースが必要だ。コラボレーションツールと望ましい行動を対応付けて共通のツールセットを構築し、コミュニティー感覚を醸成し、チームのつながりによって信頼を維持する。
リモートワークテクノロジーの把握
現在のツールセットで利用できる選択肢を把握する。チームの仕事のやり方をサポートできるツールを見極めるとともに、ビデオ会議による対面のやりとりに優先順位を付けるとよい。テクノロジーだけで問題が解決することはまれだが、テクノロジーは対話を可能にする適切なプラットフォームを提供する。
クラウドホスト型開発への移行
クラウドホスト型開発環境に移行すれば、柔軟な共有環境が常に利用できることから、チームのアジリティとレジリエンス(回復力)が向上する。
完全にクラウドでホストされた開発環境は、コーディング、ビルド、テスト、デバッグ機能を提供する。既に、クラウドホスト型開発環境に移行したチームは、リモートワークへの移行の価値を実現している。
ただし、ツール導入を急ぐあまり、チームのニーズに合うと思われた最初のツールを購入することは避ける。アーキテクチャグループやツールグループと協力し、コラボレーティブ開発が可能なクラウドベースの開発環境を試用した上で採用する。
インフラチームと協力し、どのサービスを、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウド、プライベートクラウドに移行できるかを把握することも重要だ。こうした移行によって、チームの仕事のやり方がどのように変わるのかも検討しておくべきだ。
6.リモートチームプラクティスを発展させる
リモートチームプラクティスを発展させる必要もある。
アジャイルプロセスは、経験的プロセスの3つの柱(透明性、検査、適応)に基づいて構築されている。私たちはこれらを利用して、ワークプラクティスを継続的に発展させ、顧客のために生み出す成果を改善させていかなければならない。
だが、これらに伴って破壊的変化が起こるとストレスがたまる。リモートチームとのオープンなコミュニケーションを、継続する必要がある。スケジュールを立ててメンバーと個別に話し合い、状況をチェックするとよい。何よりも重要なのは、自分にも他人にも思いやりを持つことだ。
プロセスモダナイゼーションは、仕事の進め方の変更に対応している必要がある。顧客は、あなたのプロセスやプロダクトに関心があるのではなく、課題を解決し、仕事を処理することに関心がある。あなたのプロダクトは、顧客の価値に沿い、顧客が目標を達成する最良の方法を提供すれば成功する可能性が高い。
以上の、リモートチームフレームワークにおける6つのベストプラクティスは、リモートワークを行う従業員が力を発揮し続けられるよう、支援する方法を見直すのに役立つ。このフレームワークは、リモートプロダクト開発チームのサポートや、これらのチームの業務改善に貢献してきた実績がある。
リモートワークとワークモデルは今後どうなる?
組織がパンデミック前の姿に戻ることはないだろう。COVID-19は皮肉にも、デジタルトランスフォーメーション推進の今世紀最大の原動力となっている。
パンデミック後の変化を予想するときは、人やプロセス、テクノロジー、プロダクトのニーズを考慮する。今は多くの人が、必要に迫られてリモートワークを行っているが、近いうちにこの状況は変わり、在宅勤務者とオフィス出勤者が緊密なコラボレーションをする、もっと複雑なハイブリッドモデルに移行するだろう。
私たちはこのダイナミックな状況を定期的にレビューし、得られる機会を最大限に活用しなければならない。起点は常にチームの面々だ。チームメンバーと定期的に話し、つながりを築き、必要なことは何でもサポートする。そして次のことに取り組んでいく。
- プロセスをレビューする
リモートワークを阻害している箇所を探し、協力してその課題を解決する。
- テクノロジーニーズを再評価する
リモートワークを成功させるために他に何が必要かを理解し、使用中のリモートテクノロジーを評価して、時間と費用を適切に投入するようにする。
- チームメンバーと同僚のために、目標に向けて、自ら率先して変わる
建設的にコラボレーションをし、きめ細かなサポートを提供し、強力なチームを作る。
リモートチームプロセスは固定されているわけではないため、機能するまで変更を加える。さらに、より良いものになるまで、また変更を加える。それを積み重ねていくことが重要だ。
テクノロジーを活用することで退屈な仕事を自動化し、より表現力豊かにやりとりをし、仕事を楽しくできる。
ワークモデルは、変わらなければならないことを念頭に置く必要がある。付加価値のない仕事は容赦なく廃止し、顧客にとって最高のサービスを生み出すことに集中すべきだ。
出典:6 Best Practices for Remote Work by Agile Software Development Teams(Smarter with Gartner)
筆者 Patrick Lewis
Content Marketing Writer
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