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「AI使って解決したい」「これってAIでできないの?」の答えを「AIマップ」で見つけよう人工知能学会 タスクフォースが使い方を直伝

人工知能学会では外部発信活動の一つとして「AIマップβ」を公開している。本記事では活動のいきさつや、AIマップの活用方法を紹介する。

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人工知能学会でタスクフォースを編成してAIマップを制作した理由

 深層学習の普及によりAI(人工知能)に注目が集まっているが、深層学習以外の各種AI研究の認知と利用の拡大に対する課題意識から、2018年に人工知能学会でタスクフォースを編成してAIマップの作成をスタートした。初期メンバーは人工知能学会の理事から電力中央研究所の堤氏、国立情報学研究所の市瀬氏、東芝の植野氏と筆者が検討メンバーになり、島根大学の津本氏が本活動の提案者として議論に参加した。日々急速に変化するAI技術のマップは、すぐに最新ではなくなるため、いつまでも未完成という意味も込めて「β」を付けている。

 最初の検討事項はAIマップを誰に見てもらうかだった。AI研究者なら自分自身の研究分野と関連研究を熟知しており、AIマップは参考にならない。そこで、当時の全国大会で急速に参加人数が増えていたAI研究の初学者と異分野の研究者を対象にAI技術を俯瞰(ふかん)して提示することを目的とした。「AI技術のツール化やクラウドサービス化が進んでいるが、どの技術を使うべきかが分からない」という話を聞いていたためだ。

 2次元平面上にどのような考え方や基準を基にAI技術を配置するかはマップ作成のポリシーに関わる大きな課題だ。AI研究者でもあるタスクフォースメンバーが作成したマップ構成案は各自のAIの捉え方が垣間見えて面白いものだった。当初はこの統合方法を議論していたが、どのマップも一定の世界観のもとで合理的に技術が配置されていることから「どれも参考になるしβ版だし」ということで最終的には4枚のマップとして掲載することにした(図1)。

図1 AIマップβの4枚のマップ
図1 AIマップβの4枚のマップ

 4つのAIマップに配置されているAI技術のキーワードリストは共通だ。それぞれの技術が別の視点では異なる場所に位置付けられ、他の技術との近接関係も異なることを眺めてみるのも面白い。AIマップのコンセプトは、人工知能学会の学会誌でも漫画で解説しているので、こちらも参考にしてほしい(教養知識としてのAI 〔第2回〕AI マップβ

 なお、AIマップは人工知能学会のWebサイトでダウンロードできるので、マップをお手元において読んでいただければと思う。それぞれのマップ(A)から(D)について見ていこう。

マップA:知能活動のフロー

 AIが具現化された形として、ロボットやソフトウェアエージェントが思い浮かぶ方も多いはずだ。AIの内部では人間の知能活動のフローが実装されていると夢想している人もいるかもしれない。筆者も人間の知的活動と対応付けをしながら各種AI技術を理解している。この考え方をもとに要素技術を並べたものがマップAである。

 ロボットの頭脳部分では、外部環境の「知覚」から始まって、「解釈」「評価」「目標」「意図形成」「操作選択」「実行」などの知能活動のフローがあると想像できる。この考え方に沿ってAI技術が位置付けられている。

 また人間とAIの間にも技術が多数配置されている。これはAIと人の関わりに関する一連の研究群である。AI技術が人に提示されるとき、見せ方やインタラクションの出来次第でAI技術が親しみを持って受け入れられるかが決まってくる。

 さらに人間側にもさまざまな技術がマッピング可能である。AIの倫理や信頼性をはじめとする技術は、今後の人間や人間社会への適用で必要になる新しい研究分野である。

マップB:技術と応用の交点

 AI技術を横軸に、応用分野を縦軸にして、AI研究の時間的発展もプロットしたものがマップBである。初期のAI研究は原点付近にある技術、例えば簡単な問題をどう計算的に解決するかからスタートした。その後、知能研究の進展とコンピュータの性能向上が相まって、さまざまな応用を志向したAI技術が増えてきている。

 マップBは、左下から波が外側に向かっているイメージで捉えることが可能である。応用分野を決めて横にAI技術を眺めるのもよいし、AI技術がどんな応用に使われているかを縦に見ていくのも有用である。

マップC:基盤領域から手法、応用領域へ

 マップCは、技術間の発展関係に注目している。例えば下方の第1層にある基盤技術は基礎的な理論やシンプルな原理からなる研究で、これらの基盤研究が発展して、第2層のAI手法になり、さらにその応用先として第3層が構成されている。

 AI技術は単体では存在せず、基礎となる技術があり、それらを発展させた応用技術がある。このAI技術相互の依存、参照関係を把握すると、技術を俯瞰して理解できると期待している。

マップD:AI研究のフロンティアは広大

 マップDは,知能をどのように捉えるかで整理したマップだ。最近よく使われている「学習」「認識」「予測」だけではなく、さまざまな捉え方に基づく研究分野のプロットが可能である。分野ごとにAIフロンティアもしくはマップ外縁の他分野との連携が進み、AI技術は拡大を続けている。

 この外縁分野では、工学の分野だけでなく、運動学や行動経済学、脳科学、認知科学などさまざまな人文系の学問や学際領域の学問と接点を有している。この広がりこそがAI技術の可能性の大きさを示している。

研究会マップ

 AI学会では24の研究会が活動している。各研究会が扱っているテーマが上記のAIマップA〜Dのどこに位置するかを示したマップも合わせて作成した。このマップを用いることで興味のある研究会を特定できる。

 各研究会で研究テーマに関する最新発表があり、じっくりと議論できるプログラム編成になっているため、動向把握や研究者と直接議論できる貴重な機会として活用できる。

 このように作成したAIマップβは2019年6月の人工知能学会全国大会での企画セッション「AIマップタスクフォースの活動――AI初学者・異分野研究者のためのAI研究の俯瞰――」にて発信し、参加者とともに活発な議論を実施した。その中で最も多かったコメントを要約すると「AIマップの試みは素晴らしいが、どのように自分の課題(仕事上の要請、研究課題、解きたい問題)を解決したらよいのか」というものだった。AI技術をマップ化しただけでは、想定読者だったAI初学者や異分野研究者には不十分だったため、翌年度の活動の方向性は「AIマップを見ることで課題を解決できるようにする」ことにした。

課題解決に根ざしたAIマップβ2.0

 AIマップβの公開後、さまざまな書籍に転載されたりダウンロードされたりと好評だったが、先述したようなフィードバックがあったため、課題解決に役に立つ方向でバージョンアップを検討した。企画セッションのメンバー募集に呼応してくれた新規メンバーも追加して、議論を進めていった。

 最初に「AIマップ利用者が抱える課題とは何か」を議論した。結局この課題の定義自体の支援をしないと、AI技術適用の可否が判定できないため、自身が持つ課題から適用にふさわしいAI技術を特定するまでの流れを、作業ステップとして分解し、可視化することにした。想定するユーザー像も「自分の課題にAI技術を使いたい人」「今の手法が課題解決に有効か悩んでいる人」に詳細化し、自分で進められる作業のレベルに落とし込むことを目標とした。

 図2に課題からAI技術を特定するまでのステップを示す。

図2 課題からAI技術までの対応付け
図2 課題からAI技術までの対応付け

ステップ1:マイ課題シートを埋める

 自身が抱えている課題を「マイ課題」と呼んでいる。解きたい課題を一番よく知るのは自身のはずだが、その言語化は困難という状況に着目し、このステップを設定した。マイ課題シートというワークシート(課題記載のテンプレート)に順次分解して課題を書き出すことで、自身しか理解していない固有課題を何とか一般的な技術分野にひも付けようとする試みだ。マイ課題シートは、目的の記述から始まり、入出力関係やデータの保有状況、制約や指標など、AI適用に不可欠な複数の情報に目を向けてもらうことを意図している。

ステップ2:課題カードの選定

 次に、タスクフォースでは課題カードという26枚のカードを準備した。AIが実現する機能を端的に表現したもので、例えば「異常検知」「数値予測」「メディア生成」など最近のAI技術の応用事例を6分野26機能に分類したものである。これらのカードを探す過程で、AI技術が実現してくれる各種の機能を自然に目にできる。

ステップ3:課題カードの再検討

 AI技術は、同一の課題に対しても複数のアプローチがとりえるので、最初に見つけた課題カード以外の課題カードも適用できないかを検討する。ここで参照するのが課題関連マップである(図3)。これは課題カード間の関係性を矢印で接続したものである。

 例えば、「異常検知」という機能は、接続関係をたどっていくと「運転、制御」や「数値データ分析」「状態変化検出」さらに「因果推論」までつながっていることが分かる。さらに、これらの課題カードを読むことでマイ課題に関連した技術分野を幅広く検討できるようになる。

ステップ4:技術キーワードや応用事例のキーワードのピックアップ

 ステップ1〜3で選択された(複数の)課題カードに記載されている技術キーワードや応用事例キーワードをピックアップする。これがマイ課題に対応するAI技術リストになる。

ステップ5:AI技術の探索

 ステップ4で見つけた技術キーワードのリストを使ってAIマップ上に点在するAI技術を探すことでAI技術分野を把握できる。また、AIマップ上で近くにプロットされている他の技術も調べることで、より良い解決につながる技術にも出会えることを期待している。

 他にも、AI技術のキーワードが特定されたら、検索エンジンで検索することで各種のWeb上の技術説明にもたどり着けるし、人工知能学会のWebサイトやJ-STAGEで調査すれば学会における最新の研究発表事例にもアクセス可能だ。

図3 課題関連マップ
図3 課題関連マップ

 これらの課題マップに関しては、2020年6月の全国大会における企画セッション「AIマップタスクフォースの活動 ――技術マップから課題マップへ」にて発表するとともに、WebサイトでもAIマップβ2.0として公開した。課題にフォーカスしたマップは、AIマップβと連動させることで課題解決に到達できる。印刷して課題カードを切り離すことで、並べ替えや選択などの試行錯誤もできるようになっている。読者の皆さまもぜひAIマップを印刷して、手を動かす過程で自分の課題に適したAI技術に出会っていただければ、タスクフォースメンバーとしてうれしい限りである。

(後編に続く)

著者プロフィール

森川 幸治(Connect 取締役 CTO)

電器メーカで人工知能技術、脳波をはじめとする生体信号解析技術に関する研究開発を推進。2020年6月より現職。Connectでは、Brain-Machine Interfaceによるリハビリテーションシステムの開発を進めている。人工知能学会副会長(2019〜2020年度)。


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