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AIで「ATMの不正取引」を検知、ラックが独自技術で検知率94%を達成超不均衡データに対応

ラックは三菱UFJ銀行と協力して独自のAIを活用したATMの不正利用に関する概念実証実験を実施し、不正取引の検知率94%を達成した。ラックの金融犯罪対策センターの知見をAIモデルに組み込むなど、特殊詐欺やサイバー犯罪といった金融犯罪対策に特化したAIを用いた。

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 ラックは2021年10月22日、AI(人工知能)を活用したATMの不正利用に関する概念実証実験(PoC)で、不正取引の検知率94%を達成したと発表した。同PoCは、高齢者などを狙った特殊詐欺によるATM不正利用への対策として、2021年5月から三菱UFJ銀行と共同で実施してきたもの。実際のPoC期間は約4カ月と短かったという。


PoCの作業イメージ(出典:ラック

 今回のPoCでは、ラックの不正検知AIを利用した。同AIは、ラックの金融犯罪対策センターの知見をAIモデルに組み込むなど、特殊詐欺やサイバー犯罪といった金融犯罪対策に特化している。さらに、不正取引の取引数はわずかで、圧倒的に多い正規の取引の中に埋もれているような「超不均衡データ」では一般にAIの精度が落ちてしまうが、ラック独自のAI技術を用いることで精度を大幅に高めた。こうした技術によって、不正利用された取引のうち94%を検知できたとしている。

ルールベースの対策には課題がある

 警察庁によると、2020年の特殊詐欺被害額は285.2億円に上る。過去最高となった2014年の565.5億円からは半減しているものの、依然として被害額は高い水準にある。こうした特殊詐欺の多くでは、だまし取ったり盗み取ったりしたキャッシュカードを犯罪者が不正利用してATMから預金を引き出す。

 これまでも、こうした被害を防ぐ対策としてルールベースの不正検知システムはあったが、不正判定の精度を高めるには細かい条件を設定する必要があり、新しい手口の検知ルールを組み込む際に手間がかかるといった欠点があった。さらに、検知レベルを高め過ぎると正規取引を不正と誤検知するケースが増えてしまうため、実際には検知レベルを落とさざるを得なかった。ラックでは、今回取り組んだAIによる不正検知は、ルールベースよりも運用コストを低く抑え、検知精度を高められるなど、こうしたルールベースの課題を解決できるとしている。

超不均衡データにどうやって対処したのか

 今回の実証実験を担ったのはラックの金融犯罪対策センター(FC3)と、AIを使ったシステム開発を担当する部署である金融事業部プロダクト開発グループ(ProDevグループ)だ。

 ラックは半年分の取引データを三菱UFJ銀行から受け取ったものの、正常な取引4万件に対して、不正取引が1件という割合であり、一般的なAIの学習には向いていなかった。不正取引の量が少な過ぎる(超不均衡)ため、不正取引の特徴が無視されてしまうからだ。

 そこで超不均衡データをそのまま扱うのではなく、AI学習用データの比率調整を行った。正常取引データを間引くアンダーサンプリングと、不正取引データを複製し、かさ増しを行うオーバーサンプリングを行い、AI学習用データの比率を調整した。

 不均衡データの調整と並んで重要だったのは、金融犯罪に対する知見だという。この知見に基づいて不正取引の特徴量エンジニアリングを進めた。その上でさまざまなAI分析手法を網羅的に試行し、検知率が最も高くなる特徴量とAI分析手法を検証した。

 PoCの技術的な側面を支えたのはProDevグループだという。ProDevグループのデータエンジニアとデータサイエンティスト、AIや機械学習(ML)を扱うAI/MLエンジニアが協力し、図のような手順でAIモデルの評価に至った。


分析データからAIモデルの評価に至る流れ(出典:ラック

 データエンジニアはPoCデータを「Amazon Web Services」(AWS)の「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)向けデータに加工し、分析サービスの「AWS Glue」「AWS Athena」を使って、生データの分析に必要な加工を行った。データサイエンティストはAWSのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールである「Amazon QuickSight」を使って、さまざまな切り口でデータを可視化して、不正データの特徴を見つけた。AI/MLエンジニアは「Jupyter Notebook」上でPythonを使ってデータ特徴量と各種AI/ML手法を組み合わせてAIモデルを評価した。

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