カーネルの開発開始から30年を迎え、Linuxはどうなったのか:Linux Foundationが年次報告書を公開
Linux Foundationは、年次報告書の最新版「Annual Report 2021: New Horizons for Open Source」を公開した。世界のトップ100万ドメインの95%以上が、Linuxを利用しており、クラウド対応企業の75%以上が、クラウドのメインプラットフォームにLinuxを使っているなど、Linuxの採用が進んでいることを挙げている。
オープンソースを通じたイノベーション促進を目指す非営利組織Linux Foundationは2021年12月13日(米国時間)、年次報告書の最新版「Annual Report 2021: New Horizons for Open Source」を公開した。
Linuxの創始者リーナス・トーバルズ氏がLinuxカーネルの開発を開始してから30周年を迎えたタイミングだ。Linux Foundationのエグゼクティブディレクターを務めるジム・ゼムリン氏は、巻頭の「Letter From Our Executive Director」の中で、次のように述べている。
「長年にわたり、5万5000人以上の人々がLinuxを改善するためにコードを寄贈してきた。現在、Linuxはあらゆる場所で活躍している。過半数のスマートフォン、世界最大級のクラウド環境、世界最速クラスのコンピュータでLinuxが稼働しており、54億人以上の人々がLinuxを利用している」
Linux Foundationは、Linuxの普及拡大を示す象徴的な数字を幾つか挙げた。
・世界のトップ100万ドメインの95%以上が、Linuxを利用している
・新たに発売されるスマートフォンの80%がAndroidで動作しており、そのベースにはLinuxカーネルがある
・スーパーコンピュータの性能に関するランキング「TOP500」に挙がった全てでLinuxが動作している
・クラウド対応企業の75%以上が、クラウドのメインプラットフォームにLinuxを使っていると報告している
コミュニティーの拡大が著しい
Linux Foundationは2000年に、Linuxカーネルという単一プロジェクトの支援から活動をスタートした。この20年間で750以上のオープンソースプロジェクトコミュニティーにサービスを提供するようになっている。
Linux Foundationの会員とプロジェクトメンバーは世界で2300人に上り、その内訳は米州が48%、欧州、中東、アフリカが31%、アジア太平洋地域が21%となっている。
Linux Foundationの会員の過去5年間における増加数は1000人、増加率は280%で、会員更新率は80%を超えている。
会員と数十万人の開発者が、重要かつ活発なオープンソースプロジェクトに参加し、クラウド、セキュリティ、ブロックチェーン、Webなど、さまざまな技術分野で業界横断的に協力している。
プロジェクトコミュニティー数を分野別に見ると、上位5つは次の通りだ。
・「クラウド、コンテナ、仮想化」(22.7%)
・「ネットワーキングとエッジ」(15%)
・「Webとアプリケーション開発」(13.6%)
・「人工知能(AI)、機械学習、データとアナリティクス」(10.8%)
・「プライバシーとセキュリティ」(5.1%)
コミュニティーはオープン標準やオープンデータ、オープンハードウェアにも広がっている。分野別の内訳は、オープンソースハードウェア(75%)、オープン標準/仕様(20%)、オープンデータ(3%)、オープンハードウェア(2%)だ。
数字で見る2021年の活動の前進
Linux Foundationは2021年に、オープン技術コミュニティーへの貢献と参加を引き続き拡大し、サービス提供の質とスピードを向上させたとしている。コミュニティーの活動状況を示すデータは次の通り。
活発な開発が続く
・10億行以上のコードが、ビジネスクリティカルで画期的なイノベーションを支えている
・2900万行以上のコードが毎週追加され、アクティブなプロジェクトの継続的な開発を支えている
・115億個以上のコンテナがリリースされ、ダウンロードされて、オープンソース技術を世界に提供している
・1万2900以上のリポジトリが、オープンソース開発を支える貴重なコードを保管している
積極的な開発者が貢献
・この1年間のアクティブコントリビューター数の平均は2万8443人だった
・2021年には3631組織がコミットに参加した
・新規コントリビューターによるコミットは、この1年間で336%増加した
・2021年には平均2082件のイシューが、提出されてから1日以内にクローズされた
・2021年には1カ月当たり平均8万600のビルドが成功した
・1日当たりのビルド総数は、この1年間で68%増加した
・2021年にコミュニティーメンバーが送信した電子メールは1カ月当たり平均1万4831通だった
どのような組織なのか
Linux Foundationは、2021年の収入を1億7700万ドルと見込んでいる。主な内訳は、会費と寄付が55.5%、プロジェクト支援が25.9%、トレーニングが9.5%、イベントの後援と参加費が8.9%。
Linux Foundationの2021年の支出は1億8000万ドルを超える見通しだ。内訳は、プロジェクト支援が56.3%、コミュニティーインフラが12.5%、業務運営が7.8%、コミュニティートレーニングが7.4%、コミュニティーツール整備が7.2%、コミュニティーイベントが5.4%、Linuxカーネル支援が3.4%。
Linux Foundationは世界34カ国に247人の職員を抱えており、このうち52%が女性。主要IT企業の女性比率は平均34.4%であり、これよりかなり高い。
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