「失敗を経験して改善することが大切」――3つのハードルを乗り越えたデンソーがクラウドネイティブに感じた「価値」:「『予測できないものは受け入れられない』という企業文化はもったいない」
クラウドを活用した新しいサービスを外注ではなく内製で開発する――容易ではない組織風土の変革を実現してきたのがデンソーだ。アジャイルやクラウドネイティブ技術を活用するに当たって超えてきた失敗や、クラウドネイティブに感じる「価値」を同社クラウドサービス開発部SREチームの佐藤義永氏が語った。
自動車部品の製造を事業として展開するデンソー。自動車業界が「100年に一度」といわれる大変革期を迎える中、新たなチャレンジに取り組み始めた。より安全に車を利用できる社会を実現するため、クラウドサービスを活用して、自動車からデータを収集、分析する事業の他に、各地にある工場の稼働をより効率化する事業、そして意外なところでは自動車関連技術を使った新しい農業やその流通を支援する事業している。
デンソーはクラウドを活用した新しいサービスを、外注ではなく内製で開発するに当たって、アジャイルやクラウドネイティブといった新たな開発スタイルを採用した。しかしその道のりでは、幾つかのハードルに直面したという。同社クラウドサービス開発部SREチームの佐藤義永氏は、アイティメディアが主催した「Cloud Native Week 2022春」の基調講演「デンソーにおけるクラウドネイティブの実践 〜クラウドネイティブ導入を阻む3つのハードルへの向き合い方〜」の中で、そのハードルをどのように乗り越えてきたかを紹介した。
クラウドサービスを使うだけでは「クラウドネイティブ」にならない
佐藤氏はコンテナやKubernetesの活用に関する調査を紹介して「コンテナやKubernetesといったクラウドネイティブ活用の取り組みはIT業界や金融業界で始まったばかりだ。導入したり活用したりした事例は表に出づらいため、本当に導入の効果があるのか、社内で運用できるのかといったところが気に掛かり、一歩を踏み出しづらい実情もあるのではないか」と考察した。
さらに、クラウドネイティブに関する情報に触れる機会も豊富とはいえないという。「勉強の時間も取れていない状態で、最新の情報に触れられていない。『クラウドネイティブ技術を使おう』という発想に至らないことも考えられます」(佐藤氏)
デンソーもこうした状況と無縁ではなかったという。アジャイル開発に取り組み、クラウドネイティブを推進するに当たって「クラウドネイティブの目的や価値がよく分からない」「プロジェクトをどのように進めたらよいか分からない」といった問題や「Kubernetesやサービスメッシュといった新たな技術が登場する中、スキルを身に付けるのが大変だ」というハードルに直面し、失敗を乗り越えながら進んできた。
佐藤氏は前提として「クラウドネイティブ」の定義について、書籍『Cloud Native Transformation』の「Cloud Native is not the cloud」にあった「単にAmazon Web Services(AWS)とかMicrosoft Azure、Google Cloud Platformといったクラウドサービスを使えばクラウドネイティブになるというわけではありません」を紹介した上で、クラウドネイティブを実践するためのポイントを3つに分けて整理した。
1つ目は、クラウド環境に「最適化」して組み合わせることだ。「ただ単に使うだけではだめで、それぞれのサービスを組み合わせ、上手に使ってあげる必要があります」(佐藤氏)。
2つ目は、クラウドネイティブとはアプリケーションを動かすサーバではなくサービスのことであり、サービス全体をどう稼働するかを定義する必要があることだ。
3つ目は、クラウドに適したインフラやプロセスを取り入れ、実現したいサービスに適した技術選定ができる文化を作ること。つまり技術的な観点だけではなく、文化的な側面やプロセスも含めた改善が必要だ。
これらを踏まえて佐藤氏は、クラウドネイティブを「技術」「プラクティス」「デンソーにもたらした価値」という3つの観点で、これまで手掛けてきたプロジェクトを振り返りつつ紹介した。
「コア技術を容易にクラウドに接続できる」 クラウドネイティブの価値
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