クラウド予算の管理はなぜ甘くなるのか、どうすればうまくいくのか:Gartner Insights Pickup(254)
クラウドコストが予算を超過する原因は1つではない。本稿では、その7つの主な原因を紹介する。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
要約
- クラウド予算の管理がうまくいかない主な原因は7つ
- 予算超過の原因を理解すれば、適切なコスト抑制策を講じられる
- 一部のベンダーのうたい文句とは異なり、クラウドコスト管理ツールで全ての問題を解決できるわけではない
クラウドコストが予算を超過する原因は1つではない。7つの主な原因があり、それぞれについて異なる対処が必要になる。
ガバナンスが効いていないコスト
組織は、毎月支払う高い請求額以外(多くの場合、多数の少額クレジットカード請求)については、何の費用なのか、ましてやどこに支払っているのかを把握していない。これらの支出を抑えるには、基本的なコスト管理が必要だ。クラウドの請求書を分析し、コスト管理ツールを導入し、タグ付けや合理的な配賦基準の実装により、これらのツールを有効に活用する。
想定外の使用
これは、組織がクラウド活用に成功するものの、自らがその犠牲になる状況だ。すなわち、想定外のクラウドプロジェクトが次々に立ち上がり、当初のリソース見積もりに基づく予算が吹き飛んでしまうというものだ。これらのクラウドプロジェクトはビジネス価値を提供するので、「待った」をかけるのは筋が通らない(本社のIT部門がそうしても、通常、コストは事業部門の予算に配分できる)。
それでも、こうした状況は組織にとって大きな懸念材料になる。本社のIT部門やソーシングチームが、クラウド支出の拡大を予測できなかったことが原因だ。組織はこれを、デジタル化が進む未来に向けて、予算策定プロセスを転換する機会と捉えなければならない。クラウドチャージバック(コスト配賦)の導入が、将来の意思決定を支援することになる。
割り引きのコミットメントがない
組織はAmazon Web Services(AWS)の「Savings Plans」や、Microsoft Azureの「Azure Reserved Virtual Machine Instances」(Azure予約VMインスタンス)など、一般提供されている割引オプション(サービスの使用に関する事前の予約や契約に基づく)を利用したり、割り引きを交渉して取り決めて契約に明記したりすることで、割引料金を受けられる。だが、使用量の完全な予測ができないと諦め、現在使用しているものを全て使用するかどうかを判断しかねていると、何にもコミットできない。これでは、法外な料金の請求を受けることが決まったようなものだ。
これでは絶対にうまくいかない。初期のパイロット段階でなければ、組織には、長期にわたって本番運用しているアプリケーションがあり、それらの使用量については見通しが立つ。使い果たすことがないと分かっている量を予約または契約するとよい。
開発/テストの無駄
開発者が、可能な最大量をプロビジョニングしてしまう(あるいは、少なくとも必要量を過大に見積もってしまう)ことがある。また、大量のリソースがアイドル状態で放置されていたり、業務時間外は使用されない開発/テストインフラが、使われていないときにサスペンドされていなかったりすることもある。クラウドコスト管理ツールはこうした場合に有効だ。明らかな無駄を発見してくれるので、主にシャットダウンやサスペンドによって無駄をなくせる。自動化によって無駄をなくせれば、さらに望ましい。
拡張余力が大きすぎる
アプリケーションチームが、水平方向のスケーリングが可能なアプリケーションに、自動スケーリングを実装していないことがある。また、使用量が変動するアプリケーションに必要な拡張余力を過大に見積もっていることもある。後者は、過剰サイズのコンピュートユニットや過剰な自動スケーリングにつながる。これらの場合、パラメータを慎重に調整して自動スケーリングを実装するとともに、高いアプリケーションパフォーマンスを常に維持するコストとメリットについて、ビジネス価値の観点から議論することを検討する必要がある。
本番環境のサイジングの誤り
本番環境が静的にオーバープロビジョニングされており、そのためにコストがかかりすぎている場合がある。オンプレミスでは30%の使用率が一般的だが、本番環境の運用にかかる費用の大部分は、設備投資(CAPEX)により初期コストとして発生する。それが予算内であれば、運用中における使用率が低いという無駄は誰も気にしてこなかった。だが、クラウドでは、そのように使用率が低いと過剰なリソースの調達コストが毎月かかっていく。つまり、無駄なコストを垂れ流し続けることになってしまう。
こうした場合の対応策として「ライトサイジングをすればよい」とだけアドバイスする人は、実際にそれを試みたことがない。問題は、垂直方向にスケーリングをするアプリケーションは通常の場合、簡単にライトサイジングができないことにある。こうしたアプリケーションは、ライトサイジングの自動化は難しいか、不可能だろう。複雑に構築されているからだ。
こうしたアプリケーションは脆弱(ぜいじゃく)であり、ミッションクリティカルな場合もある。メンテナンスでダウンタイムを設けることには注意する必要がある。アプリケーションチームは、こうしたアプリケーションの仕組みを真に理解している唯一の人々だが、他の優先事項への対応に忙しいだろう。
こうした状況では、アプリケーションチームはクラウドコスト管理ツールを使っても、途方に暮れるしかないかもしれない。現状では無駄が生じていることが分かっているものの、改善策は部門横断的な複雑な取り組みであり、厄介な交渉を伴う。そのため、「改善策を実行に移すよりも多大な費用を払い続ける方が楽なのではないか」と、誰もが思うことが目に見えているからだ。
最適でない設計と実装
アーキテクトはクラウドソリューションを設計する際に、コストに無頓着なことがある。設計上の選択を誤る可能性もある。つまり、時間の経過とともにアプリケーションの機能や動作に変更が発生し、それに伴って行った設計上の選択が、予想外に高くつくかもしれない。また開発者は、インフラリソースを大量に消費するパフォーマンスの低いコードや、クラウドサービスを過剰に呼び出す(その累積により、多大なコストがかかる)コードを書いたりするかもしれない。
クラウドコスト管理ツールは、こうした状況の発見に役立たないだろう。こうした状況に対処するには、必要な時間や労力、費用のビジネス価値に注意を払いながらパフォーマンスエンジニアリングを適用する必要がある。そのためには、多くの組織はサードパーティーの専門家を起用し、問題の診断と対策の提案を求め求める必要があるかもしれない。
注目すべきは、これらの課題のほとんどはクラウドコスト管理ツールの導入によって解決できるわけではないことだ。こうした課題は、多くのベンダー(や専門家)が言うほど単純ではない。
出典:Why Cloud Budgets Don’t Stay in Check - And How to Make Sure Yours Do(Gartner)
筆者 Lydia Leong
VP Distinguished Analyst
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