開発者によるクラウドのセルフサービス利用、混乱をもたらすわけではない:Gartner Insights Pickup(260)
開発者のインフラ管理は、オールオアナッシングの命題ではない。本稿では、開発者によるクラウドのセルフサービス利用に関するポイントを紹介しよう。
ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。
私は主に、パブリッククラウドのガバナンスとクラウド運用の観点から、開発者のセルフサービスについて、かなりの時間をかけて顧客と話している。
インフラとオペレーション(I&O)の担当幹部の中には、まだ「開発者のセルフサービス」という考え方に、反射的に拒否反応を示す人が多い。まるで、セルフサービスを導入すると以下のようになると思い込んでいるかのようだ。
「きちんと管理されたインフラが集積し、整理整頓が行き届いた聖域を、堅固に守ってきた門が開いてしまう。すると、汚いオーク(トールキンの「指輪物語」などの作品に登場する、醜く野蛮な亜人種)の大群が押し寄せ、コンクリート空間で暴れ回る。レゴブロックやプリントアウトした紙、スニッカーズの包み紙、ホワイトボードマーカーのキャップなどが文字通り散乱し、元のきれいで整然とした場所にはもう戻らない」
だが、そんなはずはない。
セルフサービス――より広く言えば、開発者によるインフラ管理は、オールオアナッシングの命題ではない。アプリケーションのライフサイクル全体で、I&O担当者と開発者で責任を分担できるので「構築した人が運用する」ベネフィットが得られる。「開発者を右も左も分からない未開の荒野に送り出し、生き残れるように幸運を祈る」といったことでは決してない。「セルフサービスとは、I&Oチームが関与しないことだ」という認識ならそうなるが、この認識は間違っているからだ。
そこでわれわれは、次のような問いを立てて、セルフサービスについて掘り下げている。
- 開発者は彼ら自身でインフラを設計するのか
- 開発者は彼ら自身で開発/テスト環境を管理するのか
- 本番環境の構築において、開発者はどの程度自律性を持つか
- 本番環境へのデプロイにおいて、開発者はどの程度自律性を持つか
- 開発者は日々の本番環境のメンテナンス(パッチの適用、OSの更新、インフラの最適化など)にどこまで責任を負うか
- 開発者はインシデント管理にどこまで責任を負うか
- 開発者は責任を負う事項について支援をどの程度受けられるか
私が話すITリーダーの極めて多くが、「開発者にクラウドをセルフサービスで利用できるようにすることはできない。『構築した人が運用する』手法にする準備ができていないからだ」と言う。私はそんなときにはすかさず、丁寧にではあるが、しっかりと次のことを説明し、認識を改めてもらう必要があると考えている。
「開発者に開発/テスト環境にフルにセルフサービスアクセスができるようにし、本番用のInfrastructure as Code(IaC:コードとしてのインフラストラクチャ)テンプレートの作成を許可したとしても、本番運用の全責任を負わせる必要はない」
このように、開発者にクラウドへのセルフサービスアクセスを認めることは、「DevOpsにおける『Dev』と『Ops』の適切なバランスを見つける」という、より深い探求への一歩であり、このバランスは組織に固有のものだ。開発者へのこうした権限付与は、クラウドにだけ関わるのではなく、オンプレミスの運用体制にも影響する。
SRE(サイトリライアビリティエンジニアリング)やプラットフォーム運用などに関する議論は全て、最終的には、自律性、ガバナンス、コラボレーションの問題を軸に展開される。結果として到達するバランスは、組織によって異なるだろう(SREの原則を実際にはあまり実践せずに、I&OチームをSREチームに改称する組織がいかに多いかについては、長くなるので別の機会に)。
出典:Cloud self-service doesn’t need to invite the orc apocalypse(Gartner Blog Network)
筆者 Lydia Leong
VP Distinguished Analyst
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