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続:ERPは終わったのかGartner Insights Pickup(297)

ERPは終わったのか。それとも、未来があるとすれば、それはどんなものなのか。今回は、前回の「ERPは終わったのか」の続編をお届けする。

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」や、アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」などから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 ERPは、まさに「憎まれっ子世にはばかる」だ。このエンタープライズアプリケーションのせいで「自社が状況にそぐわない硬直した枠にはめられている」と考える人もいれば「自社が時間の経過とともにERPのカスタマイズを重ねたところ、ERPが新しい変化に対応できなくなった」と感じている人もいる。

 ERPは終わったのか、それとも未来があるのだろうか。そしてERPに未来があるとすれば、それはどんなものだろうか。

 今回は、前回の「ERPは終わったのか」の続編をお届けする。

 ERPが、灰のようになってしまったリソースプランニングから「エンタープライズランタイムプラットフォーム」として生まれ変わる必要があるなら、企業はそれをどう対応すればいいのか。

 その第一歩は、ビジネスケイパビリティと関連モデルの概念を理解することだ。それにより戦略を実行につなげる。明確なビジネス用語で記述することが可能だ。こうしたビジネス用語には「Order to Cash」「Build to Order」「Procure to Pay」「Record to Report」などが含まれる(※)。

※これらの用語のうち、訳語が日本語として定着しているものは「Build to Order」(「受注生産」または「注文生産」)のみ。他の用語はそれぞれ以下のプロセスを指し、日本では、英語表記に訳語や説明を適宜付して示されることが多い。
Order to Cash:受注から売り上げ回収まで
Procure to Pay:調達から支払いまで
Record to Report:会計記帳から社内外への報告まで

 そのため、技術者は技術やソフトウェアソリューションによって、ビジネスケイパビリティの連動したエンド・ツー・エンドの実装が、どのように実現されるかを明確に説明できる。

 熟練したエンタープライズアーキテクトやビジネスコンサルタント、ソリューションアーキテクトは、将来あるべき状態と、現在の状態からその将来に向かって成長するロードマップとを説明できる。ビジネスケイパビリティについて、経営幹部レベルでこうした技術者を交えて有意義な対話を行っておくことが、(デジタル)ビジネスの世界における技術投資の意思決定に不可欠だ。

 1つ補足すべきことがある。ビジネスは常に変化する。このため、変化を促進・追随できる柔軟なケイパビリティが必要になる。そのため、「コンポーザブルビジネスケイパビリティ」という用語も使われる。

 高度な抽象化レベルでは、生まれ変わったERPは、コンポーザブルビジネスケイパビリティの徹底的なモダナイゼーションと再パッケージ化の産物だ。ERPはモダナイゼーションにより、リアルタイムAPIに基づく統合やイベント処理、統合分析、機械学習(ML)のような新しい機能を備える。ERPは本質的に、現在の設計と技術に基づいており、現在と将来のビジネスニーズに適合する。また、ERPは再パッケージ化によってコンポーネントベースになり、これらのコンポーネントはレゴブロックのように相互に接続される。

 新しいERPで重要な考え方は、適応性とコンポーザビリティ、オーケストレーションだ。新しいERPでは、アジャイルなデリバリーやベストオブブリードソリューションの選択、基盤プラットフォームであるコアERP上での統合が可能になる。

 コアERPは、企業データと主要ビジネスプロセスの実行を管理し、企業が価値のある商品とサービスを顧客に提供できるようにする。フロントエンドの顧客接点とカスタマージャーニー(企業と顧客が関わる一連のプロセス)は、企業によって大きく異なるかもしれないが、ERPはシームレスな顧客体験を実現する内部ケイパビリティとオーケストレーションを提供する。

 オムニチャネルの小売業者の場合、顧客がカスタマージャーニーをコントロールする。オンラインで商品を注文して自宅に届けてもらったり、買い物をオンラインで開始して店舗で完了したり、商品をオンラインで注文して店舗で受け取ったりしたりできる。コアERPは、これらのジャーニーをサポートする首尾一貫した処理のオーケストレーションを実現し、ERPプラットフォーム全体でのシームレスな運用を保証する。

 携帯電話や新しいアプリによる顧客との新たな対話も、既存のコアERPサービスを利用して導入できる。新しい倉庫も、デジタル倉庫・物流ソフトウェアコンポーネントに接続できる。それがコンポーザブルビジネスだ。

 さまざまな統合スタイルを組み合わせてビジネスオペレーションをサポートするには、パーベイシブ(全方位的)な統合技術が必要になる。その例として、APIベースかつイベントベースの密結合または疎結合プロセスオーケストレーションが挙げられる。

 新しいERPでも変わらない最も重要な要素は、レジリエンス(回復力)と信頼性、セキュリティ、スケーラビリティの基準を満たす必要があることだ。これらの基準を満たすことで、例えば“ブラックフライデー”や“独身の日”のピーク負荷時にもサービスが中断せず、24時間365日の可用性が実現される。

 こうした機能以外の領域で要件に対応できない場合、企業は厳しい現実に直面することになる。

 コンポーザブルビジネスケイパビリティのフレームワークを採用することで、大企業はERPをコアに据えて、これを「コア」「デジタルコア」「クリーンコア」「スタンダードコア」「エンタープライズコア」などと呼ぶようになっている。これらの言葉は、過度なカスタマイズが施された旧来のERPの実装に関する教訓を反映している。クリーンなERPのコア実装は、ベンダーのケイパビリティをより良く利用して行われる。この実装では、ベンダーのイノベーションを取り入れやすいはずだ。

 ERPは今、再生しつつある。先進的な企業は既に最適化の段階に入っているが、大半の企業では、再生の取り組みが始まったばかりだ。取り組みの意義を訴え、投資について取締役会の承認を得ようと苦労している企業がかなりの部分を占める。

 ERPの可能性は魅力的な半面、グローバル企業におけるトランスフォーメーションは、依然として大規模で長期的な取り組みであり、ビジネスに大きな影響を与える。意思決定に1〜2年かかることもある。最初のテンプレートの設計・構築段階は、1.5〜3年に及ぶ場合がある。グローバル展開には、さらに3〜6年は優にかかる。

 年間売上高が50億ユーロのグローバル企業では、1億5000万ユーロ規模の投資が必要となり、売上高が400億ユーロになると、投資額は6億ユーロかそのはるか上の金額に膨らむと予想される。こうした投資額と、本格稼働までの6〜10年に及ぶ準備期間は、企業に二の足を踏ませる。多くのCEOや取締役は、在任期間中に目に見える価値を提供しない、多大なコストがかかるリスキーな取り組みに後ろ向きだ。

 また、「スタンダード」や「コア」という言葉がもてはやされていることから、ERPの再生においては、同じ設計の実装を繰り返し行えばよいと企業は考えがちだ。だが、実は全くそうではない。ERPの実装は「ビジネス戦略に合致し、貢献するか」という観点から決定しなければならないからだ。それぞれが無関係な、または相互に関連するさまざまな独立した事業分野を抱えるコングロマリットが、グローバルなシングルインスタンスに基づくコアERPの戦略と実装を採用すれば、成功は望めないだろう。

 さらに、現在のERPの運用状況では、さまざまな種類のERPが混在していることが珍しくない。買収による成長戦略が進められてきた一方で、アプリケーションの集約や合理化が行われなかったために、大企業は、1社でさまざまなERPを使用している。10〜40種類以上のERPを使用し、複数ベンダーの製品を併用している場合もあるのが極めて一般的だ。的を絞ったグローバルビジネス戦略をサポートする1つまたは幾つかのインスタンスに移行するのは、大変な難題だ。

 非上場企業では、グループレベルで財務の統合のみを行い、他の全てのコアERP機能については、傘下の組織に管理を任せることが多い。ビジネスオーナーシップに関するこのポートフォリオアプローチにより、企業の買収や分離に伴う手続きが円滑に行われる。

 私の見るところでは、ERPは新たにエンタープライズランタイムプラットフォームとして長く使われていくだろう。企業はミッションを実現し、その過程でケイパビリティと競争力を高めるために、エンタープライズランタイムプラットフォームへの投資を選択すると予想される。このERPは、企業がコンポーザブルビジネスケイパビリティを発揮していく上で重要な基盤になる。

 問題は、ERPが終わったかどうかではない。ERPとエンタープライズアプリケーションを当然視し、多額のERP投資において、ビジネス戦略の実現という目的との整合性を取らない企業は、行き詰まってしまう恐れがあることだ。

 ERP万歳!

出典:ERP is dead. The Sequel.(Gartner Blog Network)

※「Gartner Blog Network」は、Gartnerのアナリストが自身のアイデアを試し、リサーチを前進させるための場として提供しています。Gartnerのアナリストが同サイトに投稿するコンテンツは、Gartnerの標準的な編集レビューを受けていません。ブログポストにおける全てのコメントや意見は投稿者自身のものであり、Gartnerおよびその経営陣の考え方を代弁するものではありません。

筆者 Tonnie van der Horst

Sr Executive Partner, Domains


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