調和平均とは? 算術平均との違い、使い分け:AI・機械学習の用語辞典
用語「調和平均」について説明。データの各数値の逆数で平均を取り、さらにそれを逆数にして戻した値を表す。計算式にすると、データ数を「データの各数値の逆数」の総和で割る形になる。速度/レート(率)のデータ(=逆数の形で加算される加法的なデータ)を平均する場合に適した平均の計算方法だ。
用語解説
最も一般的に使われる「平均」とは、全ての数値を足して合計し、それを数値の総数で割ることである。これは、数学/統計学/機械学習において「算術平均」と呼ばれる。平均には他にも、「加重平均」や「幾何平均」「調和平均」「トリム平均」「移動平均」などがある。本稿ではこれらのうち調和平均について解説する。なお算術平均については、「平均値(Mean)/中央値(Median)/最頻値(Mode)とは?」で説明しているので併せて参照してほしい。
数学/統計学/機械学習における調和平均(Harmonic Mean)とは、データの各数値の逆数*1で平均を取り、さらにそれを逆数にしたものである。
以下では「算術平均と何が違うのか」が分かるように、算術平均と調和平均の計算方法と数学公式を紹介し、最後に使い分け指針をまとめる。計算方法の説明は冒頭の説明の繰り返しになるが、公式の意味を分かりやすくするために記述したので、ご了承いただきたい。
算術平均
算術平均(Arithmetic Mean)値とは、データの各数値(xiは、数値1, 数値2, ..., 数値nのいずれかの数値)を全て足した合計値をデータ数(n)で割った値のことである。算術平均は相加平均とも呼ばれる。数学の公式は以下のようになる。
算術平均は、最も一般的な「平均」の計算方法で、通常はこれを使えばよい。例えば月ごとの平均気温を求めたり、英語の試験の平均点を求めたりするのに使える。
調和平均
調和平均(Harmonic Mean)値とは、より分かりやすくシンプルに表現すると、「データ各数値の逆数の平均を、再び逆数にして戻したもの」を意味する。これをより計算しやすくコンパクトに表現すると、データ数(n)を「データの各数値(xiは、数値1, 数値2, ..., 数値nのいずれかの数値)の逆数(1/xi)」の総和(Σ)で割った値のことである。なお、データにゼロ(0)や負の値を含めることはできないので注意してほしい(0で割り算はできないし、負の値は計算自体は可能だが意味のある計算結果にならないので)。数学の公式は以下のようになる。
調和平均は、速度や効率といったレート(率)のデータの平均値を求める場合に、算術平均の代わりに用いるとよい。この場合の“レート(率)”のデータとは、2つの値の比率、つまり、
で表される値である。例えば「速度」は、距離と時間の比率、つまり、
で表される。
例えば、ある車が2つの異なる「速度」で、同じ距離である2つの区間を移動(例えば自宅〜会社を往復)した場合を考えてみよう。1区間目(行き)を時速60km(1時間当たり60km)、2区間目(帰り)を時速30km(1時間当たり30km)で走行したとする。このケースで2つの「速度」の平均を取りたい場合、算術平均よりも調和平均がより適切だ。実際にこの数値例で調和平均値を計算してみよう。
(1)逆数(速度→ペース)を計算
まず、速度(=1時間当たりに進む距離km)の逆数(=距離1km進むのにかかる時間、ここでは「ペース」と呼ぶことにする)に注目する。
(2)全ての逆数(ペース)を加算
次に、計算した全てのデータ(この場合は2つ)の逆数(=ペース)を加算する。つまり、ペースの合計値が求まる。
(3)全ての逆数(ペース)を平均
加算した全逆数(=ペースの合計値)をデータ数(n、この場合は2つ)で割る。これにより、ペースの平均値が求まる。
(4)逆数(ペース→速度)を計算
最後に、逆数の平均(=ペースの平均値)の逆数を取る。これにより、ペースの平均値から平均速度が求まる。
以上の計算結果により、平均速度(=1時間当たりに進む平均距離km)は40km/時間と求まった。
このように調和平均は「逆数の平均の逆数」を計算することで求まり、その計算式は前述の公式のようにまとめることが可能だ。
ちなみに単純な算術平均を用いると、時速60kmと時速30kmの平均速度は(60+30)÷2=45km/時間となるが、この計算は単に「1時間当たりに進む距離」を平均化したものであり、「実際に特定の距離を進んだ際の平均時速」とは異なる値になる。例えば、往路の60kmを時速60kmで走り、復路の60kmを時速30kmで走る場合、全体でかかる時間は3時間である。この場合、総移動距離120kmをかかった時間3時間で割ると、平均速度は120÷3=40km/時間となり、これは調和平均の値と一致する。従って、「特定の距離を進むのに実際にかかる移動時間」を考慮して平均速度を求める場合は、調和平均を用いるのが適切だ。
「速度」や「効率」の平均以外にも調和平均は、統計学/機械学習で使われる評価指標のF値(F-measure)/Fスコア(F-score)の計算にも使われている(詳しくは左記のリンク先を参照してほしい)。
算術平均と幾何平均と調和平均の使い分け指針
「どういう場合にどちらの平均を採用すればよいか」は既に説明したが、以下に使い分け指針をまとめておく。
- 各数値が同じ重要度を持つデータを平均したい場合 → 算術平均(相加平均)
- 時間に応じて変化する変化率/比率/倍率のデータ(=乗算後に累積される乗法的なデータ)を平均したい場合 → 幾何平均(相乗平均)
- 速度/レート(率)のデータ(=逆数の形で加算される加法的なデータ)を平均したい場合 → 調和平均
これら3つの平均の間には、
「算術平均(相加平均)≧ 幾何平均(相乗平均)≧ 調和平均」
という関係が成り立つ。この数学的な特性も、適切な平均値を選択する際の重要な指針となる。
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