持続可能なAIを展開する5つの方法:Gartner Insights Pickup(331)
環境サステナビリティ(持続可能性)は、ビジネスリーダーにとって重要な焦点となりつつある。AI(人工知能)は、この点で注目される重要な技術の一つだ。本稿では、より持続可能なAIを展開する5つの方法を紹介する。
環境サステナビリティ(持続可能性)は、CEO、取締役会、ビジネスリーダーにとって、業務全般に関わる重要な焦点となりつつある。持続可能な成果を実現するために、経営幹部は持続可能な技術を必要としている。AI(人工知能)は、この点で注目される重要な技術の一つだ。
AIはビジネスの成果を向上させ、社会的価値を生み出すことができるが、持続可能性の進展を妨げる場合もある。このAIの機会とリスクは、2つの概念を組み合わせることで理解できる。それは「持続可能性のためのAI」と「AIの持続可能性」だ。
「持続可能性のためのAI」は、社会や環境、ビジネスの目標に向けて、ビジネス成果(増収やコスト最適化などの財務的成果を含む)を向上させたり、業務が社会や環境に与える影響を低減させたりするAIのケイパビリティとして定義される。
「AIの持続可能性」には、AIシステムのライフサイクルを通じて短/中期的な取り組みと長期的な取り組みのバランスを取り、責任を持ってAIを利用し、最終的に環境への影響を最小限に抑えるとともに、社会リスクやガバナンスリスクにも対処することが含まれる。
その焦点は、ガバナンスを改善し、AI技術をビジネスオペレーションに適用することによる環境負荷や社会的公正の阻害を削減することだ。持続可能なAIは、より広範な「責任あるAI」の枠組みから派生したものだ。この枠組みは、「AIを活用したソリューションは、人間中心および社会的に有益な方法で設計、実装されるべきである」という考え方と密接に結び付いている。
Gartnerによると、2025年までにCIO(最高情報責任者)の50%は、IT部門の持続可能性に関連したパフォーマンス評価指標を使用するようになる見通しだ。AIモデルや技術は、以下のようなさまざまな環境目標の推進に役立つ。
- 地球温暖化など、気候や天候の変化傾向のモニタリングと予測
- 廃棄物の管理、リサイクルプロセスおよび業務の最適化
- 輸送、移動、経路の効率化による燃料効率の向上とカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の削減
経営リーダーは、どうすれば責任を持って持続可能な形でAIを利用し、なおかつビジネス価値を生み出せるかを考えなければならない。以下では、より持続可能なAIを展開する5つの方法を紹介する。
1.AIが人間の脳と同様に効率良く働くようにする
- いわゆる「コンポジットAI(composite AI)」の採用を検討する。コンポジットAIは、効率の良い人間の脳と同様に、ネットワーク構造を用いて組織化や学習をする
- コンポジットAIは、ナレッジグラフやコーザルネットワーク、その他の「記号」表現を使用し、幅広いビジネス問題をより効果的な方法で解決する
2.AIを省電力の観点から管理する
- 機械学習時のエネルギー消費をモニタリングし、能力向上が頭打ちになってトレーニングの継続コストを正当化できなくなったら、AIのトレーニングを直ちに停止する
- モデルのトレーニングに使うデータはローカルに置き、データの改善点は中央で管理して組織全体で共有する。こうした「連合型機械学習」は、電力消費を削減し、データプライバシーを強化する
- トレーニング済みのモデルを再利用し、必要があればコンテキストを与える
- よりエネルギー効率の高いハードウェアとネットワーク機器を使用する
3.AIを適切な場所で適切なタイミングで実行する
- AIワークロードがいつ、どこで発生するかを管理する。地域のエネルギー供給の炭素強度(エネルギー消費当たりの二酸化炭素排出量)は、国、発電事業者、時間帯、天候、送電契約、燃料供給などの要因によって異なる
- フォローザサン型のデータセンターワークロード(※1)と、非フォローザサン型の方策(※2)のバランスを取る。前者の方がクリーンエネルギー生産に適しており、後者の方が水効率が高い
- エネルギーを考慮したジョブスケジューリングと炭素追跡/予測サービスを併用し、関連する二酸化炭素排出量を減らす
4.新しいクリーン電力を使用場所で購入する
- 可能であれば、PPA(電力購入契約。需要者が再生可能エネルギー発電事業者からクリーン電力を購入する長期契約)で電力を調達する。あるいは、REC(再生可能エネルギー証書。再生可能エネルギー電力に対して発行される証書)を購入することで、温室効果ガス排出量を削減または相殺し、自社が電力を使用する電力網に新しい再生可能エネルギーを追加する
- 将来のプロトコルに備える。PPAやRECは完璧ではなく、常に利用できるわけでもない。このため、場所や時間帯、またはその両方に応じてクリーン電力の詳細計画を作成し始めるとよい。そのための分析は、クリーン電力戦略の策定に役立つ。規制当局から今後、この戦略の策定を義務付けられる可能性もある
5.環境への影響を、AIのユースケースを検討する際の重要な要素とする
- AI戦略を策定する際に、AIのビジネス効果に加えて環境への影響もモデル化し、それを上回る価値を生み出すユースケースを検討する
- 既存のAIの取り組みのリスクと消費エネルギーを削減した上で、新たな取り組みを進める。エネルギー効率を改善し、知的財産や独自データのリスクを軽減する
- ビジネス価値や環境を損なう可能性のあるAIユースケースには投資しない
AIの取り組みの環境持続可能性を高めながら、ビジネス価値の維持を目指すCIOや他の経営リーダーは、AIの長所と短所の両方を評価しなければならない。AI技術が、人間の生活や地球に与える影響がますます重要になっていることを理解する必要がある。
持続可能なAIのアプローチを採用することで、リーダーはAIの負の影響を最小限に抑えられる。このアプローチは、AIの環境リスクと社会リスクを低減するとともに、持続可能性原則に基づいて、AIを活用してビジネス成果を向上させ、価値を生み出すのに役立つからだ。
出典:5 Actions to develop more sustainable AI(Gartner)
※この記事は、2023年10月に執筆されたものです。
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