政府機関のITプロジェクトを成功に導くアプローチとは:Gartner Insights Pickup(365)
世界の政府機関における大規模ITプロジェクトの失敗例は少なくない。政府機関のITリーダーがデジタルへの取り組みを成功させるにはどうすればいいのだろうか? 本稿では、プロジェクトが失敗する理由と新しいアプローチについて考察する。
世界では、政府機関における大規模ITプロジェクトの失敗例が数多く、サービス提供や市民からの信頼獲得に悪影響を及ぼしている。これらの失敗に共通する構造的な原因は、プロジェクト規模が過大なことだ。そのためにプロジェクトによる疲弊が増大しており、政府機関ではより現代的で俊敏なアプローチが必要になっている。
そこで政府機関は、ITに関する大規模な取り組みの縮小を進め、一般的に管理と統制がより容易な、より小規模な段階的デジタル投資を選択するようになってきている。この傾向が表れているGartnerの調査結果もある。調査に回答した政府機関職員の46%が、小規模なITプロジェクトを定期的に、または通常実施し、成功とビジネス価値を確保しようとしている。その一方で、依然として政府機関職員の44%は、大規模なITプロジェクトに同様の投資をしている。
プロジェクトが失敗する理由
では、政府機関のITリーダーは、どうすればデジタルへの取り組みを成功させられるのだろうか。失敗の主な原因を理解することが良い出発点になる。
プロジェクトの失敗は、政府機関の上層部が効果的な意思決定をしようとしない、あるいはできないことに起因する場合が多い。「最高責任者」は、プロジェクトに関連する全てのリソースを管理する立場にあるが、多くの場合、理想的な関与の仕方をしていない。事業やミッションを遂行する部署も、大抵は開発プロセスに十分関与していない。
これでは通常、プロジェクトの成功が適切かつ合理的に定義されない。その大きな理由は、プロジェクトのロードマップや、新製品や新機能のリリースによってステークホルダーのニーズや要求を満たすための要件理解がなされないことにある。
IT投資のずさんな意思決定プロセスが、問題を引き起こすことも多い。こうした意思決定プロセスでは、例えば、スケジュールやコストの見積もりが全てのステークホルダーの協調や十分な理解に基づいて行われない恐れがある。これらの見積もりは、事業を担当する部署とIT部門の両方を含むプロジェクトチームによって承認され、管理される必要がある。
多くの場合、失敗の原因はプロジェクトが大規模過ぎることや野心的過ぎることにある。大規模変更を“ビッグバン”アプローチ(システムやアプリケーションの全面的な刷新を一気に行う)で進めるならば、漸進的なリリースは行われない。プロジェクトの成功と失敗は、いちかばちかの賭けになってしまう。
また、プロジェクトの本番運用への準備段階で、政府機関幹部が責任を持ってチェンジマネジメントをしないと、重大な問題につながる。職員か市民かにかかわらず、ステークホルダーが行う準備が十分に整わず、新しい政府サービスの利用がなかなか進まない恐れがある。さらに、新技術の導入に先立ち、ビジネスプロセスの適切な検討や見直しが行われない可能性もある。
ガバナンスの不備も、失敗の原因となることが多い。これは、プロジェクトに関連する意思決定プロセスが遅過ぎる、十分な情報に基づいていない、または権威を持っていないといった事態を指す。どんなプロジェクトも、計画と実施の過程で必ず意思決定や変更が行われる。当たり前のことではあるが、ガバナンスは成功に不可欠だ。
プロジェクトにおけるもう1つの重大なリスク要因として、内部人材の不足が挙げられる。テクノロジーベンダーやサービスプロバイダーだけが、プロジェクトで何が起こっているのかを本当に理解できるだけの深い知識を持っている場合、「尻尾が犬を振る」という英語表現のように、政府機関とこれらの企業の間で本来あるべき主従関係が逆転してしまう恐れがある。
新しいアプローチの採用
政府機関は、大規模ITプロジェクトの失敗によるコストや政治的リスクを軽減するため、さまざまな業界で実証済みの手法を導入している。その中には、アジャイルなインクリメンタル(漸進的)デリバリー、プロダクトマネジメント、ガバナンスやチェンジマネジメントの向上などが含まれる。
インクリメンタルデリバリーは、大規模プロジェクトを多くの小さな成果物に分割する方法だ。政府機関は、これまでよりも反復的かつ協調的な方法で、ミッションを遂行する機能を革新しようとしている。インクリメンタルデリバリーでも失敗が発生するかもしれないが、失敗をより早く、より低コストで発見できる。
チェンジマネジメントの本質的な側面は、ビジネスプロセスのリエンジニアリングだ。ビジネスプロセスは、ボトルネック、無駄、非効率を綿密にチェックしなければならない。駄目なプロセスを自動化しても、ほとんど全くメリットはなく、むしろ害になることさえあるかもしれないからだ。
プロジェクトの成功には、上層部のガイダンスも欠かせない。プロジェクトの目的と計画を熟知した最高責任者がガイダンスをする必要がある。最高責任者がプロジェクト管理を監督し、大規模なデジタル投資のモニタリングと精査を強化することが重要だ。例えば、契約規模を小さくしたり、段階的に大きくしたりすることで、ITの調達方法を革新することも求められる。
また、生成AIのようなディスラプティブな(創造的破壊をもたらす)技術は、複雑な政策課題への影響が不確実な場合が多い。政府機関はこうした技術については、大規模な本番展開を正式に進める前に、小規模なパイロットプロジェクト、仮説の検証、ベンダーとの共同開発に投資することで、新しいデジタル投資アプローチを取る必要がある。
出典:The“big IT”fatigue in government(Gartner)
※この記事は、2024年6月に執筆されたものです。
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