世界的なメガトレンドが促すデータセンター戦略の変革:Gartner Insights Pickup(371)
AI(人工知能)、持続可能性、自動化、サイバーセキュリティなどの世界的なメガトレンドが、データセンターを根本的に変えつつある。これらのトレンドの長期にわたる大きなうねりにより、ITオペレーションに重要な変化が生じている。インフラストラクチャとオペレーション(I&O)のリーダーにとって、これらのトレンドに対処することは、データセンターの競争力と存在意義を維持するために不可欠だ。
AI(人工知能)と自動化の急速な進展に加え、セキュリティとレジリエンス(回復力)への要求の高まりに伴い、データセンター計画の戦略的な見直しが必要となっている。さらに、サステナビリティ(持続可能性)やさまざまな社会経済的および地政学的要因が、世界中のデータセンターに大きな影響を与える見通しだ。インフラストラクチャとオペレーション(I&O)のリーダーはこれらの課題に取り組み、インフラを最適化するために、こうしたメガトレンドの展開を踏まえたデータセンター戦略を策定する必要がある。
技術の進歩をデータセンター戦略に取り入れる
技術の進歩は、データセンターインフラのアーキテクチャと機能を根本的に再構築している。AIがその先頭に立ち、タスクがより自律的に実行されるようにし、サーバのプロビジョニング、ワークロードの管理、冷却システムの調整を最適化している。これにより、人的ミスが減少するだけでなく、効率が大幅に向上する。また、その一方で、AIの能力をサポートする大規模言語モデル(LLM)を構築するための新たなインフラが必要になっている。
量子コンピューティングはまだ初期段階にあるが、複雑なシミュレーションやデータ分析タスクに特化したハードウェアによって、データセンターを革命的に進化させる可能性がある。
また、IoT(モノのインターネット)の普及拡大を背景に、より分散型のデータ処理およびストレージソリューションが必要となってきた。そのため、データが生成される場所の近くに展開される小規模なエッジデータセンターが増加している。
さらに、クラウドコンピューティングへの移行が進んでいることから、データセンターが柔軟性とスケーラビリティの向上により、変動するワークロードや多様な顧客要件に対応できることが求められている。
材料科学の進歩も、より効率的な冷却システム、より軽量で強固なサーバラック、改良された耐火材料などを通じて、データセンターの設計と運用の改善に貢献している。
企業はデータセンター戦略を、これらの技術進歩に合わせて適応させなければならない。そこでますます重要になっているのがモジュラー設計だ。モジュラー設計により、ニーズの変化に応じたスケーリングやカスタマイズが容易になるからだ。このモジュール性のおかげで、処理ユニットやストレージコンポーネントの迅速かつ効率的な追加や除去が可能になる。
また、超高エネルギー密度技術を使用して、より多くのコンピューティング能力をより小さなスペースに詰め込めるようになってきた。そのために効率的な冷却システムと、熱放散を効果的に管理できる革新的なラック設計が必要になっている。
データセンターでは電力需要の増加に伴い、再生可能エネルギー源や高度な冷却システム、サーバ利用の最適化などの技術を通じて、電力効率の向上に焦点が当たっている。
企業はこれらの進歩を取り入れることで、データセンターの競争力、効率性、将来の需要への対応力を維持できる。
環境問題の影響
気候変動への対応として持続可能性への取り組みが推進されているため、環境問題がデータセンター戦略に大きな影響を与えている。
エネルギーコストの上昇や規制の強化により、データセンターはよりクリーンで効率的な運用方法の導入を迫られている。地域の電力網に対する負荷と持続可能な投資の必要性が、データセンターに変革を促している。企業は、データセンターの環境への影響を軽減するため、再生可能エネルギー源と高度な冷却システムにますます注力する必要がある。
地政学的不安定とデータセンター
地政学的不安定はデータセンターに大きな影響を与え、戦略的調整が必要な課題をもたらしている。規制上の問題により、ベンダーは特定の国への技術の販売を制限されることが多く、グローバルなオペレーションが複雑化しており、多様な現地の法律に準拠する必要もある。データのプライバシーとセキュリティに対する懸念の高まりは、地域データセンターの建設につながっている。地域データセンターは、データ主権を確保し、情報を国境内にとどめ、現地の規制に従うことを目的としている。
さらに、地政学的不安定がデータセンター機器の従来のサプライチェーンを混乱させる場合もある。このため、ハードウェアの確実な調達を目的に、サプライヤーの多様化が進み、現地製造が重視される可能性がある。
データセンターにおけるリスクと規制
データセンターでは、新たなリスクが発生したり、リスクが増大したりするたびに、その抑制に向けて規制が繰り返し強化されており、レジリエンス、セキュリティ、持続可能性の要件が厳しくなっている。例えば、話題を呼んだデータ侵害や増加するサイバー攻撃(重要インフラを標的にしたランサムウェア攻撃など)による機密情報の漏えいや業務の混乱を受けて、サイバーセキュリティ対策とデータプライバシー保護の強化を求める欧州連合のGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)や米国のCCPA(California Consumer Privacy Act:カリフォルニア州消費者プライバシー法)のような規制が施行されている。
自然災害や停電は、堅牢(けんろう)なインフラの必要性をさらに浮き彫りにし、より厳格な建築基準の制定や、信頼性の高いバックアップ電源の確保、災害復旧計画の策定につながっている。規制や環境問題への関心の高まりも、持続可能なプラクティスの導入を促している。その中には再生可能エネルギー源や節水型冷却システムの使用、省電力技術の導入などが含まれる。
このようにリスクと規制の相互作用が続くことで、急速に変化する技術環境に直面しながらも、データセンターの信頼性やセキュリティ、環境に対する責任が維持される。
出典:Global Megatrends Set to Transform Your Data Center Strategy(Gartner)※この記事は、2024年7月に執筆されたものです。
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