エンタープライズ検索の最適化で支えるAIアシスタント/エージェント活用:Gartner Insights Pickup(412)
生成AIやRAGを活用した検索技術の進展により、企業は膨大なデータから知見を得る新たな手段を手にした。しかし、多数のタッチポイントや重複サービスが情報活用の阻害要因となっている。エンタープライズアプリケーションのリーダーには、検索と統合の基盤を合理化し、意思決定を支援する環境構築が求められている。
目まぐるしく変化する現在のビジネス環境において、従業員は適切な意思決定と行動をするために、社内の多様なリポジトリに蓄積された膨大な情報に依存している。
だが、AIアシスタントやエージェントが台頭しているものの、多くの従業員が依然として必要な情報にアクセスするのに苦労している。Gartnerの調査によると、従業員の3分の1(34%)が時々、あるいはそれ以上の頻度で「情報がなかなか見つからないことがある」と回答している。
従業員が情報を効果的に活用できるようにサポートするには、企業は単なるツールの提供から、業務が行われる場所とタイミングで、インサイトにシームレスにアクセスできる環境の確保へと焦点を移す必要がある。ベクトル化と生成AIによるセマンティック検索の登場は、情報を探して取得し、統合する方法に革命的な変革をもたらしている。
検索はもはや単なる情報アクセス体験ではない。AIアシスタントの拡張で、こうした体験を向上できる。RAG(検索拡張生成)ベースのAIアシスタントやエージェントを使えば、対話的に、あるいはこれらに指示して、関連する情報の断片を検索、取得、統合し、新たなインサイトを得られる。
ただし、正確な情報の統合は、さまざまなリポジトリから関連データを検索、取得できるかどうかに大きくかかっている。これらのリポジトリとそこに含まれるデータは、メインのアプリケーション以外での検索や統合に対応できるように管理されていることはほとんどない。
AIの進歩により情報アクセス体験は向上しているが、企業データ全体を対象としたこの体験のスケーリング(拡張)は、まだうまくいっていない。コンテンツガバナンスと従来の検索の限界がその原因だ。従業員が意思決定と行動に必要な情報を確実に得られるように、エンタープライズアプリケーションのリーダーは、自動化されたプロセスとして、情報がアプリケーションにシームレスに統合される状態を目指さなければならない。
情報アクセスの効率化に向けた企業のタッチポイントの最適化
今日のデジタル環境では、従業員は、情報にアクセスするための多数のタッチポイント(接点)に触れる。だが、多くの場合、それらは設計に基づいてではなく、デフォルトで提供されている。この選択肢の多さは、混乱と非効率につながりかねない。従業員は、どこで検索するか、どのタッチポイントを使うかを判断しなければならないからだ。
大抵の場合、最も抵抗の少ない改善策は、最も手近で簡単な技術に頼ることだ。だが、それでは、ソースリポジトリで実際に利用可能な情報を全て得ることはできないかもしれない。あるいは、それらの情報が全く得られないかもしれない。こうした技術によってインデックスが作成されるデータは、インデックスが複数回作成される可能性がある。また、一部のデータは、どの技術でもインデックスが作成されず、検索、取得、統合の対象からひっそりと外れ、そのために従業員は利用できなくなる可能性もある。
エンタープライズアプリケーションのリーダーは、ワークフローにおいて意思決定と行動を支援する情報を、必要とされる場所に的確に届けるよう努めることが重要だ。各タッチポイントが正しいデータインデックスを活用し、全ての関連情報を検索、取得できるようにすべきだ。そのためには、以下の方策を講じる必要がある。
- 包括的に監査する
検索と統合のための全てのタッチポイントを監査し、「アプリケーション内で提供される検索、統合用タッチポイント」と、「アプリケーションとして提供される検索、統合用タッチポイント」に分類する。各タッチポイントを利用する従業員グループと、検索、統合を支える基盤サービスも、これらの分類に含める。
- 主要な従業員ペルソナを作成する
データの検索や取得、統合に大きく依存する主要な従業員グループを特定し、ペルソナを作成する。その際、上位3つのグループに焦点を当てる(「研究開発エンジニア」「営業担当者」「医師」など)、時間とともにペルソナの種類を増やしていくが、常に上位3つを優先する。
- 重要なタッチポイントに優先順位を付ける
監査とペルソナを用いて、最適化された情報アクセスから最も恩恵を受ける従業員にとって、最も重要なタッチポイントを特定する。
- タッチポイントのパフォーマンスを高める
優先順位を付けたタッチポイントとそこで提供される基盤サービスを、その製品固有の管理インタフェースを用いて再構成する。リポジトリとそこでインデックスが作成されるデータ、検索結果の関連性、他のタッチポイントを案内する機能に焦点を当てる。
- コンテキストに応じたガイダンスを提供する
タッチポイント自体の中でコンテキストに応じたガイダンスを提供し、従業員がタッチポイントを効果的に利用できるよう支援する。
基盤サービスの合理化によるコスト効率化および最適化
多くのタッチポイントで多くの検索サービスを提供すると、インデックスやサービス用途の重複が避けられない。これらの重複は無駄なコストを発生させてしまう。これらのコストには、直接コスト(ライセンス、サブスクリプション、コンピュート、ストレージなど)と間接コスト(検索サービスの維持管理にかかる人件費、不正確な情報による誤った意思決定、情報不足による機会損失など)の両方が含まれる。
また、多様な技術や設定に依存すると、クエリの評価がそれらの違いによって異なり、クエリのメンテナンスと最適化のためにさまざまなスキルや専門知識・能力が必要になる。
エンタープライズアプリケーションのリーダーは、最大限のアプリケーションを通じて最小限のサービスで、情報への最適なタッチポイントを提供することを目指す必要がある。理想的なシナリオは、タッチポイントがアプリケーションとして提供されるか、アプリケーション内で提供されるかにかかわらず、全てのタッチポイントに単一の基盤サービスで対応することだ。だが、これは多くの場合、非現実的だ。多くのベンダーから提供される膨大な数のアプリケーションが使われているからだ。
情報アクセスを提供するための基盤技術の合理化には、障害が付き物だ。例えば、エンタープライズアプリケーションベンダーは、CRMなど自社アプリケーション内でエージェントを提供するようになっている。だが、他のベンダーのアプリケーションにおける自社エージェントの使用については制限しており、データの検索や取得に自社の基盤サービスを使用することを要求している。これは、基盤サービスを集約する取り組みの妨げになる。状況が進化するまでは、ユーザーに案内や助言をする必要がある。
エンタープライズアプリケーションのリーダーは、基盤サービスを合理化する上で、以下の推奨事項を考慮しなければならない。
- 全ての検索、統合技術に関する責任を、エンタープライズアプリケーションチーム内の1人の担当者に課す
この担当者が、アプリケーションとして提供されるタッチポイントおよびサービスをもともと手掛けており、アプリケーション内で提供される技術に責任が拡大するのが理想的だ。
- ベンダーと技術をできるだけ集約する
その一方で、業務が行われるアプリケーションの中または近くに、多くのタッチポイントを設ける。まず、アプリケーションとして提供されるサービスから始めてから、アプリケーション内で提供されるサービスへと展開する。
- ポートフォリオの集約後にコストを削減する
これは、検索、統合の基盤サービスと関連技術を合理化することで可能になる。
出典:Optimize Enterprise Search to Equip AI Assistants and Agents(Gartner)
※この記事は、2025年6月に執筆されたものです。
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