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生成AIにインテリジェント文書処理(IDP)が駆逐されるわけではない理由Gartner Insights Pickup(425)

生成AIの登場により、従来のIDPが不要になってしまうということはない。両者をうまく組み合わせることで、ドキュメント処理フローを改善し、効果を高めることができる。

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Insights」などのグローバルコンテンツから、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させる中、多くの企業リーダーは、生成AI(人工知能)が全ての文書処理ニーズに対する最終的な解決策となるかどうかに注目している。

 生成AIの急速な進化は、従来のインテリジェント文書処理(IDP)ソリューションに生成AIが取って代わる可能性についての議論を呼び起こしている。だが、文書ワークフローにおけるビジネス成果の改善、柔軟性の向上、適応性の強化を達成するには、IDPプラットフォームが生成AIの能力を現時点でどのように利用しているかを理解することが不可欠だ。

生成AIはIDPに取って代わるか

 生成AIは大きな可能性を持っているが、IDPソリューションに取って代わることはない。機械学習、自然言語処理、ビジョンモデルを使った従来型AIや、ルールベースの技術、高度な光学文字認識(OCR)技術は、データ収集や文書処理に引き続き使用されるだろう。

 生成AIはむしろ、IDPソリューションを補完し、その使い勝手と顧客に提供するビジネスメリットを高める。今後2年以内にほとんどの文書ワークフローは、従来型AIと生成AIの両方の技術を組み合わせたハイブリッド型になるだろう。

 実際、IDPソリューションの最大の価値は、大規模言語モデル(LLM)の統合によって実現される。LLMはIDPシステムの不可欠な部分として、データの合成や洞察の生成、マルチモーダル文書の効率的な分類、処理の多くを担うことになる。

 IDPは、正確なデータ収集や抽出といったタスクで依然として重要であり、コンプライアンスを確保したり、コントロールを維持したり、決定論的処理(常に一定の結果が求められる処理)を必要とするワークフローに対応したりするためのガードレールの役割を果たす。

生成AIは文書処理ワークフローをどのように補完するか

 生成AIやLLMは、IDP分野全体にわたって高度な機能を支え、自動化を促進し、新たなユースケースを切り開くインテリジェンスレイヤーとして急速に台頭している。LLMは、データの前処理や抽出、後処理のフェーズ全体を通じて統合が進んでいる。主な例として以下が挙げられる。

  • ゼロショット抽出

 自動データラベリングおよびアノテーション(注釈)により、IDPシステムが複雑な非構造化マルチモーダル文書を処理できるようにする。これは文書形式が非常に多岐にわたる場合に、特に有益だ。

  • 高度なビジュアルリーズニング

 複雑なレイアウトや表の解釈を支援する。

  • 新しいデータやコンテンツの合成

 暗黙情報の推論、情報の補完、コンテンツの分類、洞察の生成、新たなコミュニケーションの創出によって実現する。

  • 支援機能

 要約、自然言語によるQ&A、翻訳など

  • 「LLM-as-a-judge」アプローチ

 LLMが専門家として成果物を検証するこのアプローチは強化されているが、プロセス全体は依然として複雑だ。複数の「LLM-as-a-judge」が必要な他、極めて重要なグラウンディング(根拠付け)を人間が行う必要があるからだ。

カスタムソリューションのためのエージェント型アーキテクチャ

 さらに企業は、文書やデータ中心のプロセスを自動化するカスタムソリューションを構築するために、エージェント型AIアーキテクチャの検討を始めている。AIエージェントは、ワークフロー内で独立した意思決定を動的に行えるインテリジェントオーケストレータとして台頭しつつある。

 例えば、自動化されたプロセスにおいて、AIエージェントは受信した文書を識別し、IDPプラットフォーム内の適切な分類および抽出エンジンにルーティングし、処理結果をシームレスにビジネスワークフローに再統合できる。

 またAIエージェントは抽出された値を事前検証し、欠落データを推測し、データの補完を提案し、追加の調査をトリガーすることで、ヒューマンインザループ(HITL:人間が関与する)レビューを強化し、ユーザーを支援する。

エージェント型アーキテクチャの主な考慮事項

 エージェント型アーキテクチャは、柔軟性と高度なインテリジェンスを提供する。だが、このアーキテクチャのコスト管理やインフラ要件、ガバナンスフレームワーク、セキュリティプロトコルについては慎重に計画する必要がある。企業では今後、IDPシステムと、成熟化していくAIエージェントの両方を組み合わせたハイブリッドアプローチの採用が進むだろう。

 非決定論的(結果が常に一定とは限らない)で、よりシンプルな文書ワークフローでは、AIエージェントはアドホックな情報検索、タスクのオーケストレーション(調整)、改善提案を支援する。

 一方、信頼性と監査可能性が不可欠な文書プロセス(厳格なコンプライアンスが要求されるプロセスなど)では、AIエージェントのガバナンスとセキュリティ確保が固有の課題となる。こうしたケースでは、コントロールを維持するために従来型のIDPソリューションが引き続き欠かせない。

出典:GenAI and Intelligent Document Processing Form a Powerful Partnership(Gartner)

※この記事は、2025年9月に執筆されたものです。

筆者 Shubhangi Vashisth

Director Analyst


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