なぜMCPやAIエージェントが使われると「API」が根本的に変わるのか? KongのCTOに聞く:AI時代のAPI管理とその変化(前)
MCPやAIエージェントが普及する時代の「API」とシステム連携は、従来の前提とは根本的に異なるものになる――そう語るのは、APIゲートウェイベンダーKongのCTO、マルコ・パラディーノ氏。APIとその利用がどう変わるのかを聞いた。
生成AI(人工知能)の利用が定着する一方、「MCP」(Model Context Protocol)といったプロトコルも登場しAIが外部のツールやデータと連携しやすくなる仕組みも出てくるなど、これからシステムやサービスはますます複雑につながり合おうとしている。その連携の要となるのが「API」(アプリケーションプログラミングインタフェース)だが、APIそのものも、それを利用するシステムも開発者の仕事も、これから大きく変わる可能性がある――そう語るのは、APIゲートウェイを手掛けるKongのCTO(最高技術責任者)で共同創業者のマルコ・パラディーノ氏だ。
Kongは、オープンソースのAPIゲートウェイが広く使われるようになる傍ら、エンタープライズ向けのAPI管理製品を拡充し、APIがシステム間やサービス間の連携の中核となる中で成長してきた企業だ。今はまさに生成AIやAIエージェントがもたらす変化のただ中にある。
過去20年におけるさまざまな技術的な変遷は、APIの爆発的な普及を促すものだったとパラディーノ氏は語る。例えば、モノリシックなアプリケーションから機能ごとに分割したマイクロサービスへの移行によってAPIが増え、Webサービスやモバイルアプリケーションが普及しシステム間連携のニーズが多様化する中でもAPIが増えてきた。そして今、AIエージェント(またはエージェント型AI)がこれから企業の業務のさまざまなプロセスに組み込まれようとしており、さらに多くのAPIが生まれ、使われようとしている。
なぜAIエージェントにおいてAPIが重要なのか
基本的にAIを使ったアプリケーションでは、モデルやエージェントが動作するために外部データを取得したり、外部のシステムと連携して処理を実行したりする。その入出力の多くはAPIを通じて行われるため、AIエージェントに委ねるタスクや判断が多くなるほど、APIの数は増えその重要性は高まる。
なぜAPIが重要なのか。パラディーノ氏は「どれだけ優秀なモデルがあったとしても、業務に必要なデータやサービスにアクセスするためのAPIのエコシステムがなければ、そのエージェントは賢くても何もできない存在と同じだ」と語る。
そして企業はこれまで、新たなサービス創出や連携強化などを図るために、第三者が利用できるようにAPIを公開してきたが、今後はその第三者がAIエージェントになる。それはつまり「これまで作ってきたサービスやシステムをエージェント型AIが利用できる形で開放すること」であり、われわれは「人間向けのUI(ユーザーインタフェース)から、機械(エージェント)向けのUIへと移行する時代」を目の当たりにしているのだと同氏は強調する。
MCPが登場した
こうした転換点に差し掛かる中、AIが外部のツールやデータと標準的な手順で連携できるようにするMCPや、エージェント同士が協調・連携するための「A2A」(Agent to Agent)といったプロトコルも登場し、AI中心のシステム連携を支える仕組みが整ってきている。
単なる自動化ではない
こうしてAIエージェントが企業の業務に組み込まれていくことは、何を意味するのか。単純に業務効率化の文脈で見れば、よくあるIT活用による自動化の延長線上にあるだけの話となるかもしれないが、これはAPIの在り方や、開発や運用の仕事を含めて、従来の考え方から切り替えなければならない、大きな変革の話なのだとパラディーノ氏は強調する。
鍵になるのは、AIエージェントが単なる自動化ツールでも、効率化のための新たなワークフローでもなく、自律的にタスクを実行するための“新たなレイヤー”が生まれることなのだという。
MCPとAIエージェントで「APIそのもの」が変わる
APIの利用がクラウドやマイクロサービスの台頭とともに広がり、AIエージェントの普及でさらに加速すると見込まれるのは前述の通りだが、質的に変わる部分にも注目しなければならない。パラディーノ氏は「AIエージェントは、APIそのものを変える存在だ」と語る。
非決定論的な挙動を前提にする
従来のAPI利用では、ある処理を実行する際に、どのAPIをどの順番で呼び出すかといった手順があらかじめ設計されており、それに従って動作する。これは、人間が事前に決めたルールに沿って処理が進む“決定論的”なアプローチとなる。
AIエージェントの場合、与えられた目的や状況に応じて、どのAPIが利用可能かを調べ、どのAPIを使うかを判断してタスクを実行する。その実行する処理の流れや結果が毎回同じになるとは限らず、人間があらかじめ決めた処理に対して、こちらは非決定論的なアプローチとなる。
こうしてAIエージェントが自律的に動き、処理フローが見えにくくなるという点は従来のAPI利用との大きな違いであり、「それを念頭にAPIの設計を考えていく必要がある」という。
「AIゲートウェイ」の役割
こうしてAPIが変わるのであれば、API管理のプラットフォームも変わらなければならず、Kongとしてもそのための機能進化を提供してきている。2024年2月に提供を開始したのが、AIゲートウェイである「Kong AI Gateway」だ。「大規模言語モデル(LLM)、MCPのトラフィックを理解し、保護し、管理することに特化したゲートウェイ」だとパラディーノ氏は説明する。
このAIゲートウェイには、“セマンティックエンジン”が組み込まれている。セマンティックとは「意味」のことで、文字通り、エージェントが送るプロンプトの意味を理解するためにある。AIエージェントの処理フローが先述の通り、非決定論的になりつつも、こうして意味をくみ取ることで、プロンプトの内容に応じて最適なモデルへとルーティングしたり、PII(個人情報)のマスキングによってデータ保護をしたり、意味を保ったままプロンプトを一定圧縮し、トークンコストを削減したりすることを実現する。
MCPは本質的に異なる
“APIそのものを変える”もう一つの要素としてパラディーノ氏が挙げるのが、MCPだ。このプロトコルは、エージェントに対してデータやサービスを公開するための標準的な手続きを決めたものであり、「リアルタイム性とディスカバラビリティー(発見可能性)を重視しており、『REST API』とは本質的に異なる」(同氏)
KongはこのMCPについて、2025年11月にはエージェント型AIの開発と導入を支援するための「Konnect MCP サポート」を発表している。その機能の一つとして、Kongで管理する既存APIからMCPサーバを自動生成することができる。
これから企業がAIエージェントの導入を進める際、障壁の一つになるのが、どれだけ迅速に準備ができるのかだ。REST APIからMCPサーバを自動生成できることに加え、MCPのトラフィックに対するセキュリティやガバナンスの機能を、従来のLLMのトラフィックに対するのと同じレイヤーで提供し、エージェントごとに毎回同じようなインフラを一から作る必要をなくすという。「エージェントが自律的にタスクを進め、その中で、特定分野に特化した別のエージェントにサブタスクを委譲していくような世界を思い描いている」(パラディーノ氏)
「ワークフロー」と「AIエージェント」は違う
多くの企業は、「ワークフロー」と「AIエージェント」を混同しがちだとパラディーノ氏は指摘する。エージェントは、あらかじめ決められた手順のようなものではなく、人間の世界に似たものになる。そのタスクをどう処理するのかを決めるのはエージェント自身であり、エージェント向けにあらかじめ決められたフローがあるわけではない。人間がメールや「Slack」などのツールでコミュニケーションを取るのに対して、エージェント同士は専用のプロトコルでやりとりする。
UIが変わる未来に備える
一方で、AIエージェント特有の特性としてパラディーノ氏が指摘するのが、AIエージェントの成長が時間と共に加速していく可能性だ。エージェント同士が互いに学習し合うことで、その性能は直線的ではなく、指数関数的に高まる可能性がある。そのインパクトについて同氏は、「1年の遅れは単に『1年分の差』になるのではなく、早く着手した企業ほど2年、3年、4年、5年と先へ進む可能性があることを意味する」と話す。
企業のIT部門がこれから将来像として思い描いておかなければならないのは、「“普遍的なユーザーインタフェース”がブラウザからAIプロンプトへと変わる」日常だ。例えば旅行の計画を立てる際、複数のWebサイトを渡り歩く必要はなくなる。予算や好みを知っている自分専用のエージェントに計画をお願いするだけでよい。「同様にそれが企業の業務プロセス全体に広がれば、組織や業務の在り方は根本から変わる」(同氏)
古いものが消え、新しいタスクや役割が生まれる――その変化を念頭に置きながら、企業はAIがシステムに深く組み込まれる変化に備えて、システムや業務の再設計に向けた構想と準備を進めなければならない。次回はこうしたAIエージェントがもたらす影響に対し、開発者や企業のIT部門がどのように向き合っていくべきかについてまとめる。
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